喜ぶ顔が見たいから
阿散井恋次は頭を抱えていた。
3月13日。六番隊隊室。書類に埋もれながら恋次は百面相をしていた。はたから見たら明らかにおかしな人。
「・・・恋次。」
「はい!」
まわりの声は一応耳に入っているらしい。白哉は眉間の皺を深くして溜息をついた。
「・・・休憩でも行ってこい。目障りだ。」
「あ・・・すんません。」
恋次は思いっきり凹んだ様子で部屋から出て行った。
瀞霊廷無いの有名甘味処。またもや恋次は餡蜜をつつきつつ百面相をしていた。
「恋次。周りの客が引いておるぞ。」
「はたから見たら不信人物だな。」
顔を上げるとそこにはルキアと一護の姿。
「・・・よお。」
「うわっ!テンション低!キモチ悪ー。」
「うっせーよ。ほっとけ。」
いつもなら速攻で突っかかってくる恋次が突っかかってこない。
「何かあったのか?」
恋次の前に座り、二人も餡蜜を注文する。
しばし無言。
一護が運ばれてきた餡蜜を頬張ると同時に恋次が口を開いた。
「なぁ・・・女って・・・何を貰えば嬉しいんだ?」
「「は?」」
ハモった。二人の顔は「お前何言ってんの?」である。
「恋次・・・おぬし・・・頭でも打ったか?」
「打ってねぇよ。」
即答。そして餡蜜を一口。
「そうじゃなくて、明日はホワイトデーだろ。」
「「ああ。」」
そんなもんもあったな。そんな反応にがっくりとうなだれる。
「なんだ恋次。そんなことで悩んでおったのか。」
「そんなことって言うな。俺にとっちゃー一大事なんだよ。」
テーブルにつっぷして唸る恋次に呆れたような視線を送る。
「なんだ。恋次ってそんな相手いたのか。」
「あぁ、一護は知らないのだったな。と言ってな。我が隊の隊員だ。こやつにはもったいないぐらいのとてもいいこなのだ。」
自分の娘を自慢するように話すルキアにへーと一護は感心する。
「で、そのさんに送るホワイトデーのお返しが決まらない?」
「・・・ビンゴだ・・・。」
なんで解るんだよてめぇと、ギロリと睨みつける恋次に
「だってなぁ・・・。」
「うむ。行動があからさま過ぎる。一護より解りやすい。」
俺かよ!と突っ込みを入れるがルキアは無視。
「まぁ、そんなに悩むこともないだろう。お前からならあやつはなんでも喜ぶぞ。実際、お前から貰ったと言って花を押し花にして大切そうにしておったぞ。」
「・・・本当か?」
「私はウソは言わぬ。」
マジメに応えるルキアに恋次も納得したらしく、腹をくくったように席を立つ。
店を出て行く恋次の姿を眺めて二人が
「・・・アイツでも悩むんだな。」
「うむ。珍しいものを見た。」
などと珍獣を発見したような発言をしていたのを恋次は知らない。
その後、雑貨店で女性用アクセサリーを必死で選ぶ恋次の姿が目撃された。