白銀の獣が紡ぐモノ 銀の瞳が映すもの編 act2
汽車に揺られて六時間。さらに馬車で小一時間。ロンドラから遠く離れたカルムストック村のはずれ。
「・・・ここがエドの母校?」
「ああ。やあ、懐かしの学舎だな。ここにこんなに早く帰ってくることになるとは思わなかった。」
正門前で馬車から降りたエドワードが大きな伸びをする隣で、は大きくため息を吐く。その表情は「なんで僕が・・・。」と言っている。
「いつか名探偵になって凱旋訪問すると仰っていたのに、駆け出し探偵で戻ってきてしまいましたね。」
エドワードの隣に立つシーヴァも感慨深げに相槌を打っている。
中庭を取り囲むようにU字型に配置された校舎に三棟の学生寮―オーク、エルム、フィア寮―
広大な敷地内に庭園があり、川も流れている。
―何このでかさは・・・―
は心の中でもう一度ため息を吐いた。
三人は校舎に入るとまず校長室に案内された。
「ああ、二人とも。無事に着いて何よりだ。旅は快適だったかね。おや、君は・・・?」
出迎えたバルフォア校校長のコレットはエドワードとシーヴァを見とめ、次に後ろに立つに視線を送る。
「初めまして。僕はと申します。今日はエドワードの助手として伺わせていただきました。」
礼儀正しく挨拶をするにコレットも笑みを浮かべる。
「結構。では、まず部屋に荷物を置いて、ゆっくりとくつろぎたまえ。夕食のとき、君たちを皆に紹介しよう。」
「はい。それで、僕の宿舎は・・・。」
「君がずっと暮らしたオーク寮にしようと思っているのだが。去年の寮長のご帰還とあって、皆、楽しみにしているようだよ。」
そう言うコレットにエドワードは申し訳なさそうに金髪をぽりぽりと掻いた。
「ああ、そのことですが・・・。」
「うん、何か不都合でもあるのかね?」
「できれば、エルム寮に泊まりたいと思っています。・・・諸々の便宜を考えて。」
そうエドワードが言えば、『諸々』の部分に隠された意味を汲み取ったらしいコレットはエルム寮の寮長を呼ぶように事務官に言う。数分も経たずにやってきたエルム寮の寮長―ティモシー・ボールドウィン―はエドワードを見ると驚いた顔をし、エドワードも意外そうな顔をする。
「グラッドストーン先輩、またお会いできて嬉しいです。ですが、またどうして。」
不思議そうな顔をして尋ねるティモシーに答えたのはコレットだった。
「グラッドストーン君は、わたしの、ひいては学校の依頼に応えて、ここに戻ってきてくれたのだ。アトウッド君と、助手の君と共にな。仕事が終わるまで、三人にはエルム寮に滞在してもらう。三人を空き部屋に案内して差し上げてくれないかね。」
「はあ・・・・・・。お仕事、ですか?」
怪訝そうにコレットとエドワードの顔を見比べるが、それ以上の質問を許さずきっぱりと言った。
「行きたまえ。三人とも、長旅で疲れている。」
「・・・はい。どうぞ、グラッドストーン先輩。」
しぶしぶと言った表情で、しかし優等生らしい従順さでティモシーは頷き、エドワードたちを自分の寮へと案内し始めた。