白銀の獣が紡ぐモノ 銀の瞳が映すもの編 act20
エドワードの声は、抑えきれない興奮で上ずっている。対照的にトーヤは静かに澄んだ声で人影に呼びかけ、は白銀に染まった髪を風になびかせ、その様子を真剣な眼差しで見つめている。
「俺はあんたを恐れない。ずっと、あんたの声を聞いてたんだ。・・・助けたい。」
”助けたい”。
その言葉はの心にも響く。
トーヤの声に引き寄せられるように、女はゆっくりと四人のほうに近づいてくる。
女の手には華奢なナイフ。それを確認するとシーヴァは咄嗟にエドワードを庇うが、女の右手はだらりと下がったまま。
『あれはどこ・・・?』
女の血の気のない唇から、か細い声が漏れる。風でフードがめくれ、女の顔が露になる。
「・・・あっ。」
まだ若い娘。うつろに開いた目は灰色がかった緑色。絶世の美女、では無いが、繊細な顔立ち。
ただ、肌は蝋のように青白く、表情は石のように硬い。
それを見て何か言いかけたエドワードをは手で制す。そしてトーヤが静かに、優しい声で問いかけた。
「あんたの力になりたいんだ。いったい何を探してるのか、教え・・・」
トーヤの言葉は途中で切れた。女は何も持たない手で、いきなりトーヤの頭に触れた。
『・・・ちがう・・・。』
「え?な、何だよ?」
『ちがう・・・違う、違う・・・。』
女は滑るように歩き、シーヴァ、エドワード、そしての順番に頭に触れた。
その手は氷のように冷たく、女が生者ではないことがはっきりと分かる。
「何が違うの?僕たちに話して?」
は女の氷のように冷たい手をものともせずに両手で包み込むと、優しく問いかける。
「君は誰?何を探してるんだい?」
『エルシー・・・。』
「エルシー?それが君の名前?」
女が微かに呟き、の手から逃れ、四人に背を向けて歩き出した。その姿が闇の中に溶けていく。
『あの人にもらった大切なもの・・・わたしの・・・わたしのだいじな・・・』
「何?何だよ、あんたの探し物!」
トーヤは必死で叫ぶ。
『・・・のひとの・・・く・・・れた・・・ゆび、わ・・・。』
か細い声が次第に切れ切れになり、ついに途絶えたとき・・・女の、”エルシー”の姿も、闇の中に消え去っていた。
「・・・くそ・・・。行っちまった・・・。」
トーヤは悔しげに呟く。
エルシーと名乗った幽霊が消えると、トーヤの瞳も、の髪と瞳も元の色を取り戻す。
そして四人はしばらく、果てしなく広がる夜闇の中で、ただ立ち尽くしていた・・・。