白銀の獣が紡ぐモノ 銀の瞳が映すもの編 act24
「・・・で。百歩譲って、この白骨のエルシー・ハワード嬢が幽霊だと信じるとしよう。こいつは何のためにバルフォア校に来て、何で生徒を襲ってるんだ。」
どうにかこうにか気持ちを落ち着けたブライスは、しわがれた声でそう言った。それに対して、エドワードは軽い調子で答える。
「僕と組むなら、教えるよ。僕の手柄を後で横取りするよりは、僕と一緒に事件を解決したほうが、後味がいいんじゃないかな。」
「・・・てめぇは本当にイ苛つく奴だな。俺が役に立つことが、何かあんのかよ。」
決して友好的ではないにしろ、一応、話くらいは聴く気らしい。まぁ、かなり動揺している感が否めないが。
「勿論。私立探偵には、犯人を見つけることはできても、捕まえることはできないからね。」
「・・・なるほど。いいだろう。言え。聞いてやる。おい、お前らはあっちで続きをしていろ。」
プライスは部下を追い払うとエドワードに情報提供を要求する。それに対してエドワードは昨日までの経緯を惜しげもなく話し、さらに、エルシー・ハワードの悲しい最期を付け加えた。そしてそれが、エルシーが幽霊となってバルフォア校に出現する理由であると。
「昨日の夜、エルシーは『あの人にもらった大事な指輪』を必死で探してたね。たぶん、墓が荒らされたときに彼女の婚約指輪を持っていったんだね。」
がエドワードの言葉に付け加えると、エドワードもプライスも頷く。
「・・・なるほど。金でも銀でも、装飾品は金になるからな。」
「ああ。時期も合うのさ。この墓が荒らされたのとほぼ同じ頃から、学校にエルシーの幽霊が現れ始めている。」
「ふむ。で、お前の推理によれば、その墓盗人は、一昨日、俺が墓で見つけたのと同じ連中・・・バーンズのクソ野郎と、その取り巻きだというわけだな。」
「おそらく、エルシーの骨から指輪を抜き取った張本人が、バーンズなんだろう。そしてまだ奴は指輪を持ってる。たぶん、見るからに盗品くさい品物を、どこに売ればいいのか見当がつかなかったんだろう。・・・だからエルシーは、バーンズの赤毛と指輪の気配を求めて、学校に現れる。」
「そして、中庭を通りかかる人間の中に赤毛の人物がいると、指輪を返せとナイフを振りかざして迫る。」
がエドワードの言葉を途中から引き継ぐ。未だに幽霊が本当にいるなんて信じたくないというような顔で聞いていたプライスが手を上げて話を遮る。
「待った。学校まで指輪の気配を追いかけてきたのなら、寮の中まで入りゃいいんじゃねえか。何だっていつも中庭なんだ?」
「学校の中で、彼女がいられる場所が、あそこだけだんたんだもの。」
「・・・どういうこった。」
の言葉に、エドワードは地面に図形を描く。その形はアングレの住人なら誰でも知っている、女神アデラの印。
「今でこそバルフォア校はリベラルな学校だけれど、開校当初はとても宗教色が濃かったらしい。校舎にも各寮にも、入り口の上のほうには必ずこのアデラの印が掘り込まれている。」
プライスはひゅうっと口笛を吹く。
「魔よけか!そりゃ、幽霊には潜れねえな。」
「そういうことですよ。僕は幽霊とか魔物じゃないから別に聞かないけど。指輪が学校のどのへんにあるかは感じられても、校舎や寮に入って探し回って、持ってる人物を脅して取り返すことはできなかったんですよ。」
「それで、棺に残されたナイフを持って、幽霊にとっての安全地帯、中庭で人が通りかかるのを待ってたってわけか。」
の台詞の中に気になる一言が混ざっていた気もしなくもないがその辺はスルーの方向でプライスはなるほどというような反応をする。
「そう。しかも、死者が幽霊として姿を見せるのは、闇の力がいちばん強い真夜中の二時ごろ、僕の故郷の国で言う”丑三つ時”というやつなんだ。それでも、学校の敷地内に入っただけで、魔よけの印の影響は受けてしまってるみたいだから、毎晩通い詰めることはできないでしょうね。」
かなり詳しいの説明にプライスは眉をひそめ、エドワードからトーヤについて聞くと、さらに眉間の皺が深くなる。
「ふん。何をすりゃいいんだ。」
「たいしたことじゃないよ。今夜、中庭で待機して、すべてを見届けてくれればいい。・・・そして、墓泥棒をとっ捕まえてほしいだけ。」
「捕まえるのは難しいな。びびってるわけじゃねぇが、お前の推論が正しけりゃ、相手はバーンズだろう。下手に手を出すと、こっちの首が飛ぶ。叱ることはできるが、未成年を法的に罰することはできないんだぜ?」
「わかってる。だけど、前回の賭博はともかく、今回は墓泥棒だ。犯人が未成年でも、村の人たち・・・いや、それだけじゃない、アングレ中の人たちが許さないよ。死者を冒涜したんだからね。だから、バーンズの父親が手を回すわ前に、真実を世間に発表してしまえばいい。」
明確なエドワードの答えに、プライスもようやく合点がいったらしく、にやりと笑う。
「なるほど、新聞か。・・・署に詰めてるネタに飢えた新聞記者どもに、スキャンダルって餌を与えてやりゃいいわけだな。」
「そう。幽霊の怪談も絡めれば、みんなが飛びつく素敵な記事になるよ。校長先生も、そうすることを了承してくださったんだ。」
「マジかよ。記事になったら、奴の名前だけじゃなく、学校の名前も出るぜ?こないだの麻薬密売事件に続いて、二度目だ。学校の評判が落ちてもいいのか?」
「学校の名前の一時的に傷がつくことになっても、それは今後の努力によって挽回できる。それより、歴代校長に顔向けできないような、そして『歩く学校の恥』になるような卒業生を生み出すわけにはいかないと仰った。」
「なるほどな。気に入った。・・・バーンズの野郎に一泡吹かせられるなら、願ったり叶ったりだ。お前の計画に乗っかってやるぜ、金髪。手順を詳しく教えろ。」
「エド、僕にもできることがあったら言って。人とそうでない者を繋ぐ者として、死者への冒涜は許すことはできない。校長先生の人としての意思の強さも気に入った。エルシーには安らかなる眠りを与えてあげたいしね。」
にっこりと微笑むに、その言葉の意味は分からずとも、エドワードは大きく頷くと計画を話し始めた。
いろんな矛盾が多々あるきがしてしょうがない・・・!(((゜□゜)))。
back