白銀の獣が紡ぐモノ 銀の瞳が映すもの編 act25

その日の夜。トーヤは手紙でバーンズを呼び出した。墓から盗んだものを捌くルートを紹介するという内容で。
案の定、バーンズは食いついてきた。トーヤの口から出るでまかせに乗り、バーンズは墓から盗んだものを見せる。そして、バーンズに、エルシーの指輪をはめさせ、トーヤは祈るようにそっと目を閉じ、目を開く。その瞳は―美しい銀色―
「ひッ!ば、化け物・・・!?」
「化け物だって。酷いよねぇ、ねぇ、トーヤ。」
「うん。ほら、想いは、ある。それを、教えてあげるよ・・・。ほら、そこ。」
どこからともなく現れた銀髪に銀の瞳、同じ色の耳と尻尾を揺らす人物――がくすくすと笑いながらトーヤの隣に立つ。そしてトーヤが示すほうには黒いローブを纏った人影。足音も立てずにバーンズに近づき、目の前まで来るとフードを下ろす。その表情はとても悲しい表情をたたえていた。エルシー・ハワードの幽霊。
「う・・・あ、お前・・・もしかして・・・。」
「前に、あなたを襲ったことがある幽霊だよ。この人が、先輩に何を言ったか、覚えてる?」
トーヤとエルシーの幽霊、そして口元だけで笑うを交互に見て、バーンズは中途半端に構えたまま、動けずにいる。トーヤとエルシーとが重なるように、歌うように同じ言葉を紡ぐ。
「「『あれはどこ・・・。あれを、返して。』」」
「う・・・あ、な、何だ、お前ら・・・!」
『あの人の・・・指輪を、返して・・・。』
か細い声で訴えながらエルシーは一歩一歩バーンズに近づく。その右手には小さなナイフがしっかりと握られ、左手がバーンズのほうに差し出される。
『やっと見つけた・・・返して・・・あたしに・・・あの人の指輪を、かえし・・・て。』
「君が今はめている指輪。それね、この人が婚約者にもらった、大事なモノなんだよ?それを君が、この人の指から抜き取った。」
はそう言い、トーヤとはバーンズをエルシーと挟み撃ちにするように立つ。
「だからこの人は、幽霊になって、ここまで指輪の気配を追ってきた。あんたのその赤毛を覚えてたから、赤毛の生徒ばかりに切りかかったんだよ。・・・あんたも、一度はやられたろ?」
トーヤのその言葉にも、バーンズは認めようとしない。幽霊の仕業なんかじゃないと目の前のエルシーの存在を否定しようとする。その間もエルシーはジリジリとバーンズに近づいていく。当のバーンズは震えながらカンテラをかざし、後ずさりながら怒鳴り散らす。
「罪人は、死体を森に捨てられる。弔われなかった魂は、生まれ変わることができずに、消えてしまう。だからエルシーも、生まれ変わらずにずっと墓の下で眠ってた。」
「そんなことは、知ったことか・・・!」
トーヤは焦るバーンズのことなどどこ吹く風でエルシーの心を淡々と言葉にする。
「エルシーにとっては、婚約者から贈られた指輪が、婚約者の代わりだったんだよ。だから、生まれ変われなくても、大事な人と二人で土の下に安らいでた。それをあんたが、遊びで掘り返して、指輪を盗んだんだ。」
「う・・・あ・・・。」
「バーンズ先輩。あんたが盗んだのは、ただの指輪じゃない。この人の・・・エルシーの婚約者そのものなんだよ。」
『指輪を・・・あのひとを・・・かえして・・・。』
「く・・・わ、ああッ!」
噴水を回り込むように逃げていたが、バランスを崩して尻餅をついてしまう。腰を抜かしてしまったようで立ち上がることができない。それでも逃げようと後退するが、噴水を囲む大理石にぶつかって退路を立たれてしまう。
『あのひとを・・・』
エルシーはついに追い詰めた獲物を空虚な瞳で見つめる。
「うわあッ、く、来るな、化け物!ボールドウィン、この女を止めろ!」
トーヤは必死の形相で喚き散らすバーンズを冷たく見下ろし、もバーンズに軽蔑の視線を送る。
「誰か!誰か助けてくれッ!」
「・・・呼んだかい?」
闇の中から現れたのはエドワード。その姿を見て、バーンズの顔に安堵の表情が浮かぶ。
「グ、グラッドストーン先輩・・・!助けてくださいッ。こいつが、こいつらが俺を脅かすんです。ボールドウィンの野郎、やっぱり幽霊を呼んでやがって・・・こんな化け物までつれて・・・」
「黙れ!」
エドワードの声は、鞭のようにバーンズの鼓膜を打った。バーンズは口を開いたまま唇を震わせ、自分を取り囲む四人、二人と、幽霊と、人とも幽霊とも違うモノを見回す。
「な・・・な、な、何なんだお前ら・・・何だってんだ・・・。」
「法で裁かれないのをいいことい、お前はやりすぎたんだ、バーンズ。・・・人を裁くのは、法だけではない。人も、神も、霊も見ている。それを自分の身で思い知るんだな。」
「う・・・っ。く、くそ、こんなもの、返してやるッ!それでいいんだろ!」
刃の切っ先を突きつけられたような鋭い言葉にバーンズは必死で小指の指輪を抜き取ろうとするが、元々きつかったそれは、びくともしない。
「何故はずれないんだ!このっ、寄るな、幽霊め!今、返してやると言ってるだろうが!」
『あたしからあの人をとりあげた・・・ゆるさない・・・ゆるさ・・・ない・・・。』
エルシーは両手で力一杯ナイフを振り上る。全身から、青白い炎が立ち上がる。その色は憎しみと憎悪。それは確かな殺意となってバーンズに襲い掛かる。
「やめ・・・やめろ・・・やめてくれ!俺が悪かった!そ、そ、そんな事情は知らなかったんだ!この指輪は返す、だから・・・」
「知らなかった、悪かったで済んだらこの世界に犯罪なんてものはないよ。少しは反省しな。」
銀色の瞳を細めては嘲笑う。バーンズの命乞いなどエルシーには聞こえていない。エドワードもトーヤもそのやりとりをただ傍観するばかり。そしてエルシーの持つナイフが勢いよく振り下ろされる。
「やめ・・・やめてくれ、助けてくれッ、あ、わあっ、ああああーッ!」
光るナイフの切っ先は、バーンズの断末魔が響く中、その首筋に吸い込まれた。
UP前に見たら誤字だらけ・・・!まだありそうで怖い・・・!
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