白銀の獣が紡ぐモノ 銀の瞳が映すもの編 act26

『・・・・・・・・・あなた・・・どこ・・・。』
エルシーはゆらりと立ち上がる。その手からナイフが滑り落ち、地面に転がった。
「終わったよ、エルシー。君の大事な人を奪った奴はやっつけた。はい、君の大事な指輪だよ。」
倒れたバーンズからトーヤが指輪を抜き取り、エルシーの左手の薬指にはめてやる。
『・・・ああ・・・』
やっと戻ってきた指輪を・・・婚約者の分身を見つめて、エルシーの表情がはじめてやわらかくなった。トーヤとは幸せそうな顔をするエルシーを見つめて語りかける。
「今ならちゃんと、僕らの声が聞こえてるよね?エルシー、指輪を持ってお眠り。」
そう言っては微笑むと髪を一房千切ると蝶結びに息を吹きかける。するとそれは銀色に輝く蝶となり、
「さあ、君達のことはこの子が護ってくれる。お行き。」
ふわりと蝶を浮き上がらせるとそれを追うようにエルシーの姿も消える。
「・・・さよなら、エルシー・・・。」
闇に消えていく銀色の蝶と、それを追うように消えるエルシーの姿を見て、トーヤは祈りの言葉を紡ぐ。それは無意識に発せられたトーヤの母の祖国の言葉であり、の生まれ故郷の言葉。その言葉を聴き、は微笑みを浮かべる。
「・・・終わったよ、プライスさん、シーヴァ。」
トーヤとが祈りを捧げ終るのを待ってエドワードは静かに口を開いた。すると茂みの中から呼ばれた二人が飛び出してきた。
「お、おい、金髪。いくら何でもやりすぎだ。殺しちゃまずい、やばすぎるぜ!」
プライスは真っ青になって慌てているが、エドワードももクスクスと笑っている。
「な、何笑ってやがる。頭がおかしくなったのかよ。」
「いくら僕だって、人殺しを容認するほど冷酷非道じゃないよ。よく見てごらん。血なんていってきも出てないから。」
「何っ?」
シーヴァも、倒れているバーンズを抱き起こし、苦笑しながら言う。
「プライス警部補。落ち着いてください。バーンズ様は、気絶なさっているだけですよ。」
「何?だって、確かにナイフが首筋に・・・。」
「昼間、墓場でナイフを触ったとき、エドワードの奴、違うナイフに差し替えておいたんだよ。」
は地面に落ちたナイフを拾い上げるとプライスに渡す。そのナイフは刃の部分がばね仕掛けになっている舞台用のナイフで。
「こりゃお前・・・おもちゃじゃねえか。じゃあこいつ、ビビって気絶しただけか!」
「そう。くだらないおもちゃを持ち歩くなとシーヴァは怒るが、たまには役に立つ。」
得意そうにエドワードが胸を張り、シーヴァがちょっと嫌な顔をしている間には耳と尻尾をしまい、髪と瞳の色は元の黒に戻る。
「そーだ。ってさ、結局何なの?」
少しはなれたところにいたトーヤにそう訪ねられ、
「ん?ご想像にお任せしますv」
「えー、ケチ。」
トーヤとが笑い合う中、プライスとエドワードとプライスもどこかほっとしたような表情をしていた。
矛盾だらけ・・・!
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