白銀の獣が紡ぐモノ 銀の瞳が映すもの編 act3
道すがらエドワードはティモシーとの世間話の中に情報収集を忍ばせる。その間もティモシーはのほうをちらちらと伺っている。
「?僕の顔に何か付いていますか?」
「あ、いえ。顔立ちが、僕の弟に似ているもので・・・その・・・。」
「そうですか。」
気にしていないというようににっこりと微笑めばティモシーの顔が真っ赤になる。黒い長い髪を後ろで一つに束ね、男の服に身を包んでいてもはエドワードと並ぶぐらい顔立ちが整っている。ドレスを着せて椅子に座らせておけば人形といっても誰も疑わないだろうというほどに。
それをみていたエドワードは面白くなさそうに少し表情を歪めてわざとらしく咳払いをする。それにびくっと反応したティモシーは慌ててエドワードたちの寮の部屋への案内を再開させる。
「ちょうど上級生用の部屋がひとつ空いていますから、そちらを使っていただこうと思います。」
「ありがとう。楽しみだな。」
どこか棘のあるエドワードの言葉を最後に会話は途絶えた。
「こちらを使ってください。」
ティモシーに案内されたのは二階の角部屋だった。
「あとで、下級生を寄越します。何か必要なものがあれば、仰ってください。」
そう言って出て行こうとしたティモシーに、エドワードはジャケットを脱ぎながらさりげなく声をかけた。
「ありがとう。・・・ああ、そういえば弟さんもこの学校にいるんだって?校長先生に聞いたよ。」
「・・・・・・。」
ティモシーは、扉の前で足を止めた。そして振り返った顔には、あからさまな嫌悪が浮かんでいる。
「あれは父の道楽が産み落とした厄介者です。弟などではありません。」
「・・・でも、同じ姓を名乗っている。家族になったんだろう?」
「それは父が決めたことです。異議を唱えるつもりはありませんが、僕は認めません。あんな奴が、ボールドウィンを名乗っていると思うと、虫酸が走りますよ。・・・彼はこの寮にいますから、先輩のお目に留まることがあるかもしれません。ですが、僕の弟として扱っていただく必要は一切ありません。・・・では。」
バタン!
物凄い音を立てて扉を閉め、ティモシーは去っていった。
「・・・不愉快な奴だ。あんな奴を選挙で寮長に選ぶなんて、この寮の奴らはどうかしてるぞ。」
「・・・・・・同感だ。」
整った顔を歪ませてエドワードはジャケットをベッドに放り投げた。も着ていた上着を脱ぐと丁寧にハンガーにかける。
「どうであれ半分は血が繋がっているというのに、なぜ人間はあんなふうに言えるのか、僕は不思議でしょうがない。」
「そうじゃないんだ。さっきのは、校長先生から得た情報の真偽を確かめただけだよ。驚くようなことは何もない。」
「では何故、そんな風に腹を立てておられるんです?」
も、シーヴァに同意するように首をかしげる。エドワードは髪をぐしゃぐしゃにかき回しながら言った。
「校長室に入ってきてから今この部屋を出ていくまでいったい何十分あったと思う。その間、あいつ、シーヴァにこんにちわさえ言わなかったぞ。学生時代、僕の部屋に訪ねて来たことがあったんだ、シーヴァを知らないとは言わせない。あまつさえ僕のにまで色目を使って!」
ズル
は盛大にずっこけた。や、シーヴァに対するティモシーの態度はエドワードのいうとおりだと思う。ただし、
「『僕の』ってなんだ『僕の』って。僕はいつエドのものになった。」
「何か問題でもあるかい?」
大 有 り だ 。 こ の や ろ う 。
そう言ってやろうかとも思い、シーヴァのほうに視線を移せば、無言で”無駄ですよ。”と返ってきたので諦めて大きくため息を一つ。近くにあった椅子に腰掛けると、疲れたようにエドワードとシーヴァのやり取りをぼんやりと聞いていた。