白銀の獣が紡ぐモノ 白き古城に眠るもの編 act2
エドワードの予想通りそりは四人の前で止まった。
「よう嬢ちゃん。フォックス通り二十五番地、グラッドストーン探偵事務所ってなあ、ここのことか?」
そりを引いていた男の一人が下町訛りでに話しかける。この四人の中に「嬢ちゃん」と呼ばれるようなのは自分しかいないし、今はちゃんと女の子のかっこうをしているので、は笑顔で応える。
「そーだよー。」
「嬢ちゃん、その探偵事務所の人かい?」
「まー一応お手伝い。」
「だったら、こりゃ、あんたんとこへの届けもんだ。」
後手でそりの後ろに乗せられた人物を指す。五十代ぐらいの、小柄で痩せすぎの男。雪の中を歩いたらしく服は湿っていて疲労困憊しているようだ。そりに乗っているのがやっとという状態で血の気が引いている。どんよりした目でたちのことを見ているが口もきけない状態らしい。
「いったいその人、どうしちまったんだよ?」
ちょっとあっけに取られるたちの中でトーヤが好奇心むき出しで男に尋ねる。
曰く、この雪の中を一昼夜歩き通してロンドラに辿り着いたらしが駅前で息絶え絶えになってるところを、男たちが見つけたらしい。
「そしたら、ここに行かなきゃいけねえってうわごとみたいに言うもんでな。」
「うわぁ・・・。一昼夜、この寒い中を?」
「らしいぜ。俺たちはいつもは野菜を運んでるんだが、この雪じゃ、にんじん一本引っこ抜けやしねぇ。商売上がったりだったんで、ちょうどよかった。馬車代わりをして一儲けさせて貰ったって訳だ。」
「それはご苦労さん。こちらも助かったよ。・・・・・・シーヴァ。」
「はい。」
シーヴァはエドワードの言わんとしていることを察し、上着のポケットを探った。彼が男達にチップを与えている間に、エドワードとトーヤ、サヤはそりの上でへたり込んでいる人物に近づいた。
「もしや、ロレンスさんですか?」
エドワードに問われ、男は頷き、どうにかこうにか分厚い手袋を口で引き抜いてから右手を差し出してきた。
「・・・そうです。・・・今朝九時のお約束でしたのに・・・遅くなりまして・・・申し訳ない。」
「いいえ、あなたのために、雪かきをしながらお待ちしていましたよ。・・・さ、どうぞ。。マーシャルさんに、何か熱くて甘い飲み物を頼んできてくれないか。あと、食べ物も。きっと、まる一日何も口にしていないんだろう。」
「うぃ。了解です!」
はスコップをトーヤに預けると跳ねるように家の中に駆け込んで行った。
「ほ・・・本当に、申し訳ない・・・。」
痩せた体を毛布で芋虫状態にされ、暖炉の前の椅子にグッタリと体を預けたロレンスは、情けない顔つきと声で口を開いた。疲れはまだ抜けきっていないらしいが、ハリエットが用意したお茶とスープで少し回復したらしく、さっきよりは人間らしい顔色になっている。
「いいえ。お越しになれないかと思っていましたよ。・・・一昼夜、吹雪の中を歩いてこられたとか。さぞ、深刻な事情が発生しているとお察しします。」
エドワードは自分もティーカップを片手に、ロレンスの向かいに置いた椅子に腰を下ろした。
「あ、僕出てったほうがいい?」
「もいてくれ。君もグラッドストーン探偵事務所の一員だろう?」
「あれ?いつから?」
「バルフォア校の事件から。」
なんて軽いやり取りをして。
「もし、もうお話になれるようでしたら、伺いましょう。」
「ぜ、是非。願いします。お力を貸してください。」
そしてロレンスの口から語られる内容には眉をひそめた。
原作沿いは主人公をどう絡ませるかが悩みものです。
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