白銀の獣が紡ぐモノ 白き古城に眠るもの編 act4

翌日、たちはロンドラから二時間の列車の旅を経て、ハンバー駅に降り立った。そこで下車したのはたちだけでプラットホームも駅舎も閑散としていた。
駅舎の外で暇そうに客待ちをしていた馬車に乗り込み、エドワードが中心となりこれから向かう『スワン・ホテル』についての聞き込みをすることになった。
「・・・スワン・ホテル・・・?ああ、ベイカー婆さんの城のことか。ようがす、どうぞ、旦那方。」
シーヴァとトーヤが荷物を馬車に積み込んでいる間にエドワードが聞き込みを始める。その一方では辺りの気配を探っていた。
「(・・・やっぱり・・・、)。」
人ではない気配、しかも、何か悪意を持った気配を感じる。依頼人から話を聞いたとき以上に、嫌な予感がひしひしと、神経を逆なでして、思わず耳と尻尾を出してしまいそうになる。

「・・・?」
「、あぁ、ごめんごめん。」
既に馬車に乗り込んでいたエドワードたちに促されても乗り込むと同時に馬車が動き出す。
「御者と何をお話になっておられたんです?」
「ああ。早くも、少々面白い話が聞けたよ。さっそく、宿でロレンス氏に確認をとるとしよう。のほうは何か感じるかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・物凄く。
のその間が怖いんだけど・・・、確認っていったい何訊いて・・・うわっ。」
「トーヤ。おとなしく座ってな。話は逃げてかないから。」
「う、うん。それにしてもすっげぇ揺れるな。」
「雪が残っているせいもあるでしょうが、そもそも道路がロンドラほどきちんと舗装されていないんですよ。これは、宿に着くまで、あまり喋らないほうがよさそうですね。舌を噛んではことですから。」
「う、うん。」
シーヴァの長い腕で子供のように抱えられ、トーヤは目を白黒させて頷いている。そんなトーヤをよそに、エドワードは先ほど御者に聞いた話に、は辺りに漂う気配に、神経を尖らせていた。

ごく短いハンバー村のメインストリートを抜け、さらにガタガタする田舎道を十数分走ったところで、馬車は森の中に入った。
相変わらず一等立ての馬車はガタガタと景気よく揺れ、あまり馬車になれていないトーヤは軽く酔ってしまっていた。
「あーあ。せっかく早起きしてお弁当作ってくれたのに、吐きそうだって言われちゃったらハリエット報われないね。」
「・・・弁当の話は、今すんな。頼むから。」
本気で死にそうな顔をしているトーヤはの言葉にクスクスと笑うエドワードに対して文句を言ってやろうとするがすぐに青い顔で口を閉ざす。・・・開いたらなんか出てくるんだろうか。
そんなトーヤをよそに馬車は進み、
「やあ、我らがスワン・ホテルが見えてきたようだよ。」
「ほ・・・ホント・・・?」
「嘘言ってどうすんのさ。」
それにトーヤは目を開け、窓の外を見れば深い木立の向こうに城らしき建物が見えてきた。
「わあ!」
子供のように目を丸くするトーヤ。はと言うとあまり感動した様子は無く、むしろ窓にへばりつくトーヤに苦笑をもらしている。
そしてさらに曲がりくねった道を数分走って、馬車はようやく城のエントランスに横付けになった。馬車の中から見たように小さな城だけあって、立派な門もなく、森の中にいきなり城の建物だけが佇んでいる。ただ、城の周囲には、長年丁寧に手入れしてきたことが窺えるみっしり詰まった芝が、薄く雪を被っていた。
エドワードが二三言御者と話をすると、御者は逃げるように城から離れていった。その脅えた様子からしてエドワードが聞いた面白い話と関係があるのだろう。
「わあ、ホントに城じゃん!やった!俺、絵本で見てから、ずっとこういう城にきてみたかったんだ。」
さっきまでの馬車酔いが嘘のように、元気一杯にはしゃぐトーヤには苦笑する。そんなトーヤを追うようにエントランスへ向かうは急にビクンッ!と体を痙攣させる。それと同時にトーヤも行き成りその場にしゃがみこんでしまった。
!」
「トーヤ様!」
エドワードとシーヴァが駆け寄る。は眉間に皺を寄せ、トーヤは馬車の中で見せていたような真っ青な顔で自分の体を抱きしめている。
、大丈夫か?トーヤも、まだ吐きそうなのか?」
「・・・・・・ちょっと・・・ね。うん、ちょっと。」
「・・・なんか・・・今、変な感じがしたんだ。」
とトーヤの言葉にエドワードは眉をひそめる。
「変な感じ?」
トーヤは、脅えたように周囲を見回す。
「何だろ。今は平気なんだけど、さっき・・・急にゾクッってした。」
は?」
「うん・・・僕もそんな感じかな・・・、」
「寒気かい?」
「うん。急に体中を小さな針で刺されたみたいな感じがしたんだ。気持ち悪かった。・・・でももう何でもない。気のせいかな。エドワードとアトウッドさんは?」
「僕は何も。お前は、シーヴァ。」
「わたしも、特に何も。トーヤ様、あんなに気持ちが悪いと仰っていたのに、急に走ったりなさるから・・・それで血の気が引いたのではありませんか?様も、ずっと列車や馬車の中で、急に動いたりしたからめまいがしたのではないでしょうか。」
「あ・・・そういわれりゃそうかも。」
「・・・そうだね。そうかもしれない。」
シーヴァにそう言われて自己完結させてしまうトーヤに、もまだあまりいろいろと言うべきではないと思いなおして話をあわせる。そして一気に元気になったてまた走り出すトーヤに苦笑しながら城の中へと入っていくのだった。
ただ、エドワードはまだ何か考え込むように眉間に皺を寄せるに心配そうな視線を向けていた。
自分にしては名前変換の多い回でした(そこ?)。
back