白銀の獣が紡ぐモノ 白き古城に眠るもの編 act5
「ようこそ、遠路はるばるお越しくださって、ありがとうございます。」
ロンドラに半死半生といった姿で現れたときとは違い笑顔でたちを出迎えたロレンス氏は少々疲れた様子ではあるが、あのときよりははるかに回復している様子だ。
「今日からしばらく、お客様は一組だけにします。ですからグラッドストーンさんたちには、こちらのお部屋をお使いいただけます。」
そう言ってロレンスは城の二階、通路の奥の客室を案内した。
「うっわぁv凄いv」
は天蓋付きのベッドに感動している。なんだか瞳がキラキラしている。
「いいお部屋ですね。」
シーヴァの言葉に、ロレンスは嬉しそうに目礼した。
「ありがとうございます。とにかく古い建物ですし、家具はほとんどここに暮らしていた方が残してくださった、これまた時代遅れのものばかりで。ご不自由をおかけするかもしれませんが、お許しください。」
「そんなことないですよーvv古いものが悪いなんてことは無いんだからね!」
なんだか物凄く嬉しそうだ。テンションが当社比二倍(笑)。
その間にエドワードはロレンス氏から宿泊客の状況を聞いていた。そして宿泊客がいないうちに城を案内してもらうことになった。
ロレンス氏の説明によると二階には客室が二つとそれぞれに洗面所、さらにメイド用の部屋を物置として使っているらしい。壁にかけられた絵は元々城の主だった代々の領主たちとその家族の肖像らしい。
「そういえば。」
そう切り出したエドワードはこの城をロレンス氏に売った人物と、城を所有していた領主についてロレンス氏からそれとなく情報を引き出す。曰く、取引をした人物はベイカーという老婦人で元々この城の使用人だった人間の子孫で、領主の家系はキャメロン家というらしい。そしてベイカー夫人はずっと「申し訳ない、お務めを果たせず申し訳ない」と呟いていたらしい。
そんな話をしながらも案内は続き、一階には玄関ホール、食堂、ビリヤード室兼書斎、厨房にロレンス氏の部屋とやはりこじんまりとした感じである。
「・・・ロレンスさん、あの塔は?」
「塔は、一応見張り台のように造ってあるのですが、低いものですし、見晴らしといっても森や川が見渡せるばかりです。階段が老朽化しているので、誰も入らないように入口は閉めてあります。」
「・・・そう。」
何かを考えているに視線を向けても何も無い空を見つめて何かを探しているようで、
「・・・さて、城の案内は、以上ですか?」
「そうですね。あとは地下室がありますが、今は、食糧貯蔵庫や物置にしているだけです。屋上にも出られますが、特に何があるというわけではありません。恥ずかしながら、洗濯物を干す場所として使っております。」
「なるほど。」
エドワードが頷いたとき、玄関ホールに置かれた大きな振り子時計が、太い豊かな音で三度鳴った。
おや、という顔をしたエドワードとぴくりっと我に返ったようにこちらを振り向くに応え、ロレンス氏は微笑んで食堂のテーブルを指し示した。
「ちょうどいい時間になりました。シードケーキと杏のプディングをご用意していますので、まずはお茶を召し上がりませんか。」
実は相当に甘党なエドワード、常に食べ盛りのトーヤは顔を見合わせて大きく頷いている。はというと、あーもうそんな時間かーという顔だ。シーヴァはシーヴァで既にロレンス氏を手伝う気満々でシャツの袖をまくっていた。