白銀の獣が紡ぐモノ 白き古城に眠るもの編 act12
目が覚めたら目の前に金髪碧眼美少年のどあっぷがありました。まる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おはよう、エド。」
「うん。おはよう、。」
たっぷり十秒ほど沈黙してからはエドワードに手を貸してもらいベッドから起き上がる。
「ずいぶんよく寝ていたね。トーヤはもうとっくに目を覚ましていたのに。」
「悪かったね。・・・油断したんだよ。」
むぅ、むくれるの頭を子供をあやすようになでて、エドワードは手を差し出す。
「さぁ、そろそろおなかもすいただろう。トーヤとシーヴァもお待ち兼ねだ。そこで、情報交換といこう。」
昔々あるところに、病弱な娘を持つ領主様がおりました。十七にあんる娘は心臓が悪く、空気の綺麗なところで療養する必要がありました。領主様は娘のために緑豊かで空気の綺麗なハンバー村のはずれに小さな城を建てました。ちょうど季節は夏となり、家族で避暑にやってきました。村人達は領主に拝謁し、村娘とは違う、妖精のように儚い、娘の美しさに驚嘆しました。
一家は森の中の静かな城で、穏やかなときを過ごし、夏の休暇を楽しんでいました。娘も、空気がよかったのか、徐々に健康を回復していきました。そんなある夜のことです。
森に長年隠れ住んでいた魔物がバルコニーに出てきた娘を見て心を奪われてしまいました。娘はそれほどに美しかったのです。
しかし、魔物は森の獣達や、森を夜通抜けようとする人間達の精を喰らって命を永らえていました。だから、娘にどれだけ心惹かれようとも近づけば精を吸い取ってしまう。魔物は、毎晩木陰から月を眺める娘の姿をこっそり眺めていたのです。ですが、娘のほうが、そんな魔物の姿を見つけてしまいました。
魔物はとても大きく、恐ろしい姿をしていました。ですが、娘は自分を見つめる魔物の瞳がとても澄んでいて美しいことに気付きました。娘は、自分から魔物に近づいていったのです。
魔物は愛する娘を殺したくない一心で、娘に近づくな、近づけば精を吸い取り、殺してしまう。殺したくないと言いました。しかし、娘は怯むことはありませんでした。
そして寂しい魔物の心を感じた心優しい娘は言いました。これからは、私があなたと共にいて、あなたを愛してあげましょう。それは、脅える人間の精などより、ずっとあなたを満たしてくれるはずだから。と。
二人は夜ごと城の前を流れる川の畔で会い、色々なことを話しました。いつしか、魔物は娘の愛情で満たされ、以前のような飢えを感じなくなっていました。魔物は心から、優しい娘を慕っていました。娘もまた、外見は恐ろしいけれど、心根は子供のように純粋な魔物を愛するようになってました。
しかし、幸せな時間は長くは続かないものです。
そんな、愛し合う二人を、領主が見つけてしまいました。愛する娘を、魔物などにやれるわけが無い。領主は怒りました。しかし、魔物と戦うのは恐ろしい。領主はこのことが村人に知れる前に、以前から自分の後継者にと考えていた腹心の部下と娘を結婚させることにしてしまいました。
魔物を愛していた娘は意に染まない結婚が心底嫌でした。でも、育ててくれた両親を裏切ることも出来ない。娘は魔物と共に語らった川に身を投げてしまいました。
それを知った魔物は娘の死を嘆き悲しみました。そして娘を死に追いやった領主を激しく恨みました。娘の愛情で影を潜めていた邪悪で凶暴な魔物の本性が再び目覚めてしまいました。そして、娘の葬儀が行われたその夜、魔物は城を襲い、領主一家を皆殺しにしました。それどころか、城にいた使用人達も皆殺しです。城の中は血の海と化し、あちこちに惨たらしい死体が転がり、さながら地獄絵図のようでした。
そんな中、重症を負いながらも執事が一人、命からがらハンバー村に辿り着き、村人達に助けを求めましたが、皆話を聞いて恐れてしまい、誰も城へ行こうとするものはいませんでした。ただ、幸運だったのは、その夜、村の宿屋に旅の神官様がお泊りになられていました。
神官様は城に赴き、魔物と戦いましたが、魔物は強く、神官様といえども止めを刺すことは出来ませんでした。神官様は弱らせた魔物を城の地下室へと追いやり、扉を閉めて厳重な封印を施しました。神官様はこのまま五百年も閉じ込めておけば、魔物といえども弱って死んでしまうだろうと言い残して去っていきました。
村人達はようやく城に集まり、領主の一族や使用人たちを懇ろに弔いました。そして皆で相談し、ただ一人生き残った執事が城を守り、魔物を決して外に出さないよう見張り続けることに決めました。
「なるほど。おとぎ話・・・って言われたらそう信じても無理は無いような話だね。」
パンを頬張りながらが呟けばトーヤは根菜と牛肉の煮込みを口いっぱいに詰め込んで首振り人形のように勢いよく首を縦に振る。
「この城とその周囲の環境自体が、ある意味おとぎ話そのものの光景だからね。近代化の進んだロンドラでは失われつつある本物の闇が、ここにはまだ確かに存在する。昔はもっと、闇が深かったんだろう。・・・魔物が棲んでいても、何の不思議も無いよ。」
「確かにそうだよなあ。夜なんて真っ暗で、怖いくらいだもん。特にこの辺、夜には誰もいないだろうし。」
「それに、トーヤと。二人は現に魔物の毒気に当てられたんだ。・・・そしてさらに踏み込んで考えてみれば、だ。謎の宿泊客が禁を破って地下室を開け放った時期と、魔物が出現し始めた時期は見事に合致している。」
「村人達もベイカー夫人も、地下室に閉じ込められていた魔物は、『人の精を吸う』と言っておられましたね。だとすれば・・・宿泊客が、眠っても疲れが取れないといっていたことにも説明が付きます。」
「なる。爆睡してる間に魔物に生気を吸われていたら、」
「・・・あまり結論を急ぎすぎるのはよくないが、その可能性は確かにあるな。」
なんて淡々とした会話をしながらもしっかり食事は進んでいる辺りお前達どんだけおなかすいてたんだと突っ込みを入れたい。まぁ、正常ですけどね。
「トーヤ、。魔物は今、この城内にいないことは確かなんだな?」
「・・・(ごっくん)。うん。今は、しくなくとも一階と二階にはいないって断言できる。」
「トーヤと同じく。地下室は行ってみないと解らないけど。・・・ただ魔物がいたら・・・今度は僕は大丈夫かも知れないけど、トーヤがどうなるか保障は出来ないよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・否定できない・・・・・・・・・・・・。」
に指摘されてズーンと重い空気を背負うトーヤに少し苦笑する。
「それにしても・・・『人の精を吸う』魔物ねぇ・・・。」
「はそういうものに心当たりは無いのかい?」
エドワードに尋ねられてうーん、と首を捻る。
「こっちの妖しはあんまり詳しくないからなぁ・・・向こうでも『人の精を吸う』っていうか・・・むしろ『食い殺す』系のほうが多かった気がする。」
「・・・・・・・・・食事中の話じゃないよな。」
「うん。僕も言ってから思った。」
顔を見合わせて苦笑して、食事を再開した。