白銀の獣が紡ぐモノ 白き古城に眠るもの編 act15
それから四時間後。たちは昨夜老夫婦が泊まっていた客室で魔物の訪れを待つことにした。囮、ということでベッドにはシーヴァが横たわっている。
真っ先に魔物に狙われる役目なだけにエドワードやトーヤ、にはやらせられない、プライスには万全の状態で魔物に対峙して欲しい。
珍しくシーヴァに強く主張されて誰も反論できなかった。結局、たち四人は戸棚やカーテンの陰、クローゼットの中に隠れて魔物を待つことになった。
ただエドワードがベイカー夫人から渡された「何か」がどう役に立つのか解らないし、幽霊相手ならある程度なれているトーヤも魔物に対してどうすればいいかわからない。以外に身のこなし素早いシーヴァの機転、プライスの腕力、そして余り使いたくないが、拳銃が頼みというのが現状だ。に関しては異国の魔物相手ということで自分でもどれだけ力になれるか解らないということなので、保留である。
そんな不安要素しか見つからない中、エドワードは自室に閉じこもったきりのロレンスの様子を見に行くといって客室を出た。はそんなエドワードの後を着いていく。誰にも気付かれていないのは人外クオリティー(笑)。予想通り、エドワードはロレンスの部屋には行かず、外に出た。迷わず城の前を流れる川に掛かった小さな橋へと向かう。そしてそこにいたのは、
「久しぶりだね、グラッドストーン。」
「・・・あ・・・やっぱり・・・あなただったんですか。」
エドワードの声が震える。そこに立っていたのはエドワードがよく誇らしげに語っていた、学生時代の先輩であるクレメンス・マクファーソン。
「そう、僕だよ。・・・久しぶりの再会を喜んでくれないのかい?それと、そこにいる君のガールフレンドも照会して欲しいな。」
そう言われては眉間に皺を寄せながら姿を現す。
「っ!!・・・そうですね。こんな再会でなければ、嬉しかったですし、のことも、ちゃんと紹介したんでしょうね。・・・先輩。何故、この城の地下室へ入ったんです?あなたは・・・そこで魔物を解き放ったんですか?」
「ふふ、相変わらず明快だね、グラッドストーン。・・・そう、君とお仲間が推測したとおりだよ。僕は村の古老に、この城の地下室に長年幽閉された哀れな魔物がいることを聞いた。だから、宿の客となり、地下室に入った。」
「いったいどうやったの?あの封印はとても強い。普通の人間には触れることすら出来ないはず。」
の言葉にクレメンスは白手袋の手を軽く挙げてみせる。
「だが、事実として僕にはできた。何故かを君に説明する気は、今はない。そしてもう一つ事実として、あの哀れな魔物を牢獄から解き放ってやったのも僕だよ。」
「聖なる鎖を穢して、ですか?」
「そう。・・・遠くから見ていたが、君のお仲間には、そのこともう一人魔物や聖なる気配を感じることの出来る子がいるようだね。・・・もう一人のほうはまだ未熟なようだが。昔から人望がある君だったから、そうした貴重な人材にも慕われるんだろうね。」
「先輩・・・。いった何故です。いったあなたは、何をたくらんでいるんですか?そして、何故あなたは魔物に襲われずに寸断ですか?そして何故・・・っ、」
「相手を質問攻めにするのは不作法だよ、グラッドストーン。」
クレメンスは苛立った様子で手にしたステッキの先端をエドワードの鼻先に突きつける。
「マクファーソン先輩・・・いったいあなたに、何が・・・、」
「僕は、君の質問に答えるためにここに来たわけじゃないよ。・・・ただ、懐かしい後輩の顔を見たかっただけだ。・・・けれど、昔のよしみで少しだけ教えてあげよう。」
「・・・。」
「・・・。」
クレメンスはどれだけ自分が不幸かを淡々と語る。はそんなクレメンスに対して、呆れの感情しか浮かばない。だが、「忠実な僕となる魔物を探している」という言葉は聞き流すことが出来なかったらしく、表情が変わる。この城に幽閉されていた魔物も、クレメンスが操っていたと、そう言う。ホテルの客が見た謎の人影も、クレメンスが魔物を操っていた結果。長い間幽閉されていて弱まった力を取り戻させるため、宿泊客の生気を少しずつすわせていたらしい。
「・・・そういうこと・・・、」
嘆息するエドワードと、苦々しげに吐き出す。
だが、もう、あの魔物は用済みだと。失格だと。好きに処分しろと。クレメンスは言う。
「魔物を斃して、依頼人の歓心を買うといい。つまらない魔物でも、そのくらいの役には立つだろう。僕から可愛い後輩と、そのガールフレンドへのはなむけさ。・・・では、時間が惜しい。僕はもう行くよ。」
「待ってください、マクファーソン先輩・・・!いったい、あなたは何をするつもりなんですか!僕は・・・僕の知っているあなたは、こんなことをする人では・・・、」
「僕には、君の知っている僕である義務などない。・・・また、縁があれば会えるだろう。でなと、話にならないからね。では、失敬。」
固い靴音を響かせて橋を渡っていくクレメンスにエドワードはなおも食い下がろうとするが、がそれを止める。
「今は何を言っても無理だよ。それより魔物の気配が強くなってきている。客室に戻ったほうがいい。」
「まさか、魔物に彼らを襲わせて・・・!」
一瞬トーヤたちがいる二階の窓に視線を向けて、もう一度橋に戻したときにはクレメンスの姿は何処にもなく、
「・・・くそッ!」
「早く!」
エドワードは思いきり地面を蹴りつけると、城に向かって全速力で駆け出し、もそれを追った。
クレメンスをどう登場させようか悩んでこうなりました(爆)。
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