白銀の獣が紡ぐモノ 白き古城に眠るもの編 act17
柄から迸ったそれは、まさしく”光の剣”と呼ぶにふさわしい姿であり、
「どれほどの威力を持っているかは知らないが・・・行くぞ、魔物!」
エドワードは魔物に駆け寄るとまずはプライスの首を締め上げている魔物の腕めがけて切りつけた。
「たあッ!」
『ギャアアッ!』
光の刃は魔物の両腕を易々と切り落とした。
「プライス刑事!しっかりしてください。」
「プライスさん、大丈夫?」
「ぐうッ・・・ゲホ、ガハアッ・・・、」
落下したプライスの首から、シーヴァとが魔物の腕を引き剥がす。床に打ち捨てられた魔物の腕はトカゲの尻尾のように指をうごめかせていたが、が放つ光に当てられると跡形もなく消え去った。それを確認して振り返り、は息を飲む。トーヤの上に、両腕を失った魔物が倒れていた。早くしないとトーヤが魔物の気に当てられて死んでしまう、エドワードも剣を構え、振り下ろそうとした瞬間・・・魔物の体を光の筋が貫いた。
魔物は絶叫し、体のあちこちから煙を放ながら床の上を転げまわって苦しんでいる。
「トーヤ!」
が駆け寄ると呼吸は荒いがなんとかなっているようだ。
「大丈夫?」
「・・・ん・・・へい、き・・・。ちょ・・・きつい、けど・・・っ、の気・・・あったか、く、て・・・、」
そういいながらシャツの胸元から砕けた翡翠のペンダントを取り出す。
「それ、ジェイドのだよね?魔よけかな?」
「うん・・・おれのこと・・・マジで、守ってくれ・・・た。すげえ・・・、」
「ん。ジェイドに感謝だね。・・・無事でよかった。」
そう言ってはトーヤを抱き起こす。ふと視線を動かし、目に入ったのは力尽き、床に仰向けに倒れた魔物と、傍に片膝をついているエドワードの姿だった。その背後には少々赤みの残る顔のプライスも立っている。
「お前の一撃と、最後の派手な奴が効いたな。さすがのこいつも、もう終わりだろう。」
魔物なんてものが、本当にいるとはな・・・、なんて呟きが聞こえた気がした。
『・・・あ・・・を・・・いる・・・、』
「ん?」
「あれ・・・何か、聞こえる。」
『・・・あなたを・・・ている・・・、』
若い、娘の声。
「(・・・あぁ)。」
は手を伸ばす。スッとの身体に何かが降りた。
「・・・トーヤ。」
「うん。わかった・・・ちゃんと伝える・・・から。」
トーヤは一度目を閉じ、もう一度開いたその瞳は黒ではなく、銀色。とトーヤは魔物の傍へと座り込む。
「聞こえるか?あんたに伝言預ったよ。・・・あんたのこと、大好きだった女の子から。・・・ええと、名前は・・・、」
「アグネス。」
は魔物の手を取り、微笑む。その姿が、変化しする。のものではない、少女のものへ。
「あんたの大好きなアグネスが、あんたに残した最後の言葉だよ!」
『アグ・・・ネ、ス・・・、』
『あなたをあいしてる、』
の変化した少女の口から、のものではない声で、言葉が紡がれる。
『アグネス・・・アグ・・・ネス・・・、』
「四百年も前のアグネスの声、俺にも、にも聞こえたんだ。そのくらい、アグネスはあんたのことが好きだったんだよ。・・・いいか、そのことだけ考えてろ。憎しみとか、恨みとか・・・そんな気持ちを抱えて死んだら、いつまでもこの世に迷うんだって母さんが言ってた。魔物だって、きっと同じだ。」
真剣に魔物に語りかけるトーヤの隣では魔物の手を握り、優しく微笑んでいる。
「だから・・・あんたはアグネスにいっぱい愛された。そのことだけ忘れんな。そしたらきっと、大好きな人と同じところへ行ける。きっと!」
魔物の全身が痙攣し始めた。
『ア・・・グ、ネ、ス・・・、』
最後に一言、そう呟いて、ついに魔物は動かなくなり、も元のの姿に戻る。銀色だった髪と瞳も何時もの漆黒である。
「・・・終わったな。」
プライスが低い声で呻くように言った。は魔物の瞳を閉じてやる。
「・・・何だか、つらいね。」
「うん、殺されかけてビビッたけど・・・それでも俺、こいつがかわいそうだと思う。」
「、トーヤ・・・、」
「だって、好きな人と引き離されたら、それでその人が自殺しちゃったら、誰だっておかしくなるよ。・・・確かに、たくさんの人を殺しちゃったのはいけないけど。・・・でも・・・。それってホントにアグネスさんのこと、好きだったからだよね。」
「ああ。」
「そうだね。」
はよしよしと、トーヤの頭をなでる。トーヤはぽたぽたと大粒の涙を流しながら言う。
「俺の聞いたアグネスさんの声、凄く優しかったんだ。母さんにギュッて抱きしめられたみたいに、胸が温かくなった。・・・大好きな気持ちが、いっぱい詰まった声だった。」
「うん。」
「そんなにお互いが大好きだったのに、どうして二人とも、酷い死にかたしなきゃいけなかったんだろう。人間が魔物を好きになって、魔物が人間を好きになるの、全然悪いことじゃないのに。・・・俺、やだよ、こんなの。やだよ・・・、」
トーヤはとうとう、エドワードに抱きついてしゃくり上げた。
「トーヤ・・・ごめんよ・・・、」
エドワードのその呟きの意味を理解したは唇をかんだ。