Der Wachhund der Rose act11
「やっぱり・・・だよなぁ・・・。」
「何が『やっぱり』ですの?」
扉のところに立っていたのはと真紅を抱いた。
「な!?さん、真紅、・・・。」
「でいいですよ。お邪魔いたしますね。」
ニッコリ笑ってはジュンの部屋に入ってくる。
「な・・・な・・・何だよ・・・。き・・・着替え中じゃなかったのかよ。」
「見ればわかるじゃない。もう終わったわ。」
はと真紅を床におろし、自分も床に座る。
「・・・そこ・・・ベッド座っていいから。」
「ありがとうございます。」
はお礼を言ってベッドに腰掛ける。
「そうです。ジュン君。真紅のドレスの釦が取れそうなので繕ってあげていただけませんか?」
「・・・あァ!?」
「このまま洗濯したら取れてしまうとノリさんに言われたので。」
「じゃなくて!こんな事くらいあいつにやらせろよ!」
あからさまに嫌そうに返すジュン。
「つべこべと煩い下僕だわ。お望みなら呪いとやらで口を塞ぐわよ。」
「お義姉様。呪いがかけられるのですか?すごいです。」
「あら、呪いに興味があって?お望みなら教えて差し上げますわよ。」
「習うな!そして教えるな!」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・何だよ。見てて面白いもんじゃないだろ。」
「面白いわ。」
「面白いです。」
「面白いですわ。」
ジュンの言葉に三人揃って突っ込み返し。
「その指は魔法の指ですわ。」
「そうね・・・あなたのその指はきっと魔法の指だわ。今に女王のローブだって作れるわ。」
「・・・ぷっ。」
と真紅の言葉にジュンは思わず噴出す。
「ホント、大げさなヤツラ。なんなら天女の羽衣だって繕ってやるよ。」
「天女の羽衣とはなんですか?」
「天女の羽衣と言うのは中国の民話に出てくるもので・・・、」
が説明をしようとするとジュンの視線が真紅との球体関節の部分に注がれているのに気づく。
「そんなに球体関節が珍しいですか?」
そう言ってはを自分の膝に抱き上げる。
「・・・別に。・・・ちょっとこいつらの呪い人形設定を忘れてただけ・・・というか・・・そんだけ。」
「ゼンマイが切れますと、この球体関節の部分からこの子達は動かなくなってしまうの。」
「・・・それからとても眠くなるの。」
ジュンの言葉にと真紅が応える。
「とても・・・とても深い眠りです。」
更にが応える。
「それは・・・死んじゃうって事か?」
「いいえネジが切れた間だけ、ちょっと眠るだけです。でも、誰かがゼンマイを巻いてあげなければそのまま永遠に目覚めないかもしれない。そんな眠りなのです。」
悲しそうに・・・が説明する。
「・・・ふーん・・・ちょっといいな・・・ソレ。」
「何故です?」
ジュンの呟きにが聞き返す。
「目が覚めたら僕のこと知ってるヤツなんか誰もいない。スッキリするだろうな。そのまんま目覚めなくたっていいくらいだ。」
「・・・そうかしら。私は目覚めたほうがいいと思うわ。薔薇乙女<ローゼンメイデン>にとって目覚めは闘いの合図でもあるけれど・・・眠っているだけよりずっと色んなものが見られるし聞けるもの。」
真紅は言う。
「それにいつか・・・お父様にも会えるわ。」
「お父様って・・・あの『ローゼン』ってヤツ?」
ジュンが聞く。
「さあ。名前など便宜上の些細なもの。ものの本質を表すには要らないわ。お父様はお父様よ。」
真紅は更に言う。
「私は・・・ローゼンお義父様のことを・・・覚えていますわ。」
「は?」
ニッコリと笑うにジュンは間抜けな声を出す。
「私はローゼンお義父様の養女として育った、『』の生まれ変わり・・・というものでしょうか。その記憶を持って私はここに居ますから。」
「お父様・・・『アリス』を探しているのよ。たった一人でずっとずっと長い間・・・。」
の言葉が耳に入っていないように真紅は話続ける。
「アリスとはお父様の中だけに生きる少女。夢の少女。」
「『どんな花よりも気高くてどんな宝石よりも無垢で一点の穢れもない世界中のどんな少女でも敵わない程至高の美しさを持った少女』」
真紅の言葉に続け、詠うようにが続ける。
「そのアリスを追い求めて形にしようと創られたのが、お義姉様達・・・ローゼンメイデンのドールズですわ。」
更にが続ける。
「でも・・・一体作り・・・二体作り、ついには七体作ってもダメでした。」
顔を歪めて、が呟く。
「私達は誰もアリスに届かなかった。お父様は悲嘆にくれて姿を消してしまった・・・。」
「私も・・・お父様の行方は・・・わかりませんでした。」
「・・・何か・・・悲しい話だな。」
「・・・そう?」
ジュンが呟くが、真紅はそれがどうしたといった風に返す。
「勝手な奴だ。勝手に産み出しといて・・・そんな事で闘わされて・・・後はほったらかしなんて。」
「私たちはそうは思いませんわ。だって・・・闘うことって、生きるってことでしょう?」
は言う。
「・・・できた。」
「まぁ・・・綺麗にできたわね。ご苦労だったわ。」
超上から目線な真紅にとは苦笑する。
「真紅ちゃーん、ジュンくーん、ちゃーん、ちゃーん、まだぁー?」
ちょうどその時、下の階からノリの声がする。
「・・・ホラ呼んでるぞ。さっさと行けよ。」
ぶっきらぼうに突き放すように言う。
「ジュン。抱っこして頂戴。」
「・・・なんだよ?抱っこならにしてもらえよ。来る時もそうしたんだから。」
「あら、今度はジュン君をご指名ですから、して差し上げたら?」
真紅のわがままを突き放すジュンにはくすくすと笑いながら、自分はを抱き上げる。
「そうよ。してくれなければここを動かないわよ。ずっとよ。夜寝る時困るわよ。眠るジュンをずっと睨んでるわよ。」
「あら、それは大変ね、。」
「そうですね、マスター。」
とはくすくすとその様子を笑いながら見ている。
「やっぱりお前も幼稚園だなー。」
「失礼ね。・・・ダメなの?」
「はいはいはい。」
「『はい』は一回よ。」
「仲がよろしいですね。」
結局折れて真紅を抱き上げるジュンにとはくすくすと笑みをこぼす。
下の階からノリの呼ぶ声が聞こえる。
今日も平和な一日が過ぎていく。