Der Wachhund der Rose act23
「蒼星石・・・!!」
現れた蒼星石に翠星石は動揺する。
「先に言っておくよ。僕は争いに来たわけじゃない・・・君を迎えに来たんだ、翠星石。」
「・・・え?」
予期せぬ言葉に、翠星石も、それを見守るたちも呆気にとられる。
「マスターは、君を許すと言っている。翠星石。」
「・・・・・・・・・え?」
「聞こえなかったかな。大人しく戻り協力するなら『許す』と、それ以外の答えを選ぶなら、」
蒼星石の表情が鋭くなる。
「君の如雨露とローザミスティカを奪えと・・・庭師は一人でも構わないそうだ・・・。」
翠星石の顔が悲しそうに歪む。
「君はどちらを望む?翠星石・・・、」
それでも蒼星石は淡々と告げる。マスターの言葉を。
「・・・マスターは、気付いたのですね。」
を抱き上げながら、はポツリと呟く。
「鋏と如雨露の対なる意味・・・鋏だけでは心を殺す事はできないもの。」
それに続けるように真紅が言う。その声で今そこに真紅がいたことに気付いたように蒼星石は振り返り、嫌味のように言う。
「・・・やぁ真紅。腕の調子はどうだい。もう片方も切り落としては?その方が美しいよ。」
その嫌味のような言葉にジュンが切れかけるががそれを止める。
「違いますよ、ジュンさん。」
「私たち夢の庭師は人の心を生かす事も殺す事もできる。」
翠星石の言葉が続く。
「鋏は必要な枝を切り落とす事もできます。それは心にしまわれた大切な記憶を奪うということ。多すぎる養分は葉を腐らせるです・・・。雑草を増やす事だって。それは心の成長を妨げて、記憶に縛り付けるということ。」
鋏と如雨露の対なる意味。
「幸福な記憶は失われ、悲しい記憶にのみ支配されます。」
がポツリと言う。
「人の心はすぐに壊れてしまいます。蒼星石義姉様のマスターは復讐すると仰ってました。そのためには鋏の力だけでは足りなかったのですね。・・・不覚悲しい恨みの念。おそらく自分と同じ長い苦しみを相手に与えたいのです。」
の言葉にジュンは驚く。
「生きてるのか・・・?駆け落ちした女の人が・・・、」
「・・・そう。マスターが探してたのはその女性の木。」
それに蒼星石が答える。
「でも・・・マスターが消し去りたいものは別にある・・・君は・・・わからない?翠星石・・・。」
蒼星石は無表情に翠星石に問いかける。
「鏡と向かい合ったように、」
蒼星石が語りかける。
「半身という影に縛られる。世界はどっちに向いている?時計はどっちに回っている?自分はどこに立っている?」
無表情に語りながらもその瞳は苦しみを湛えていて、
「・・・僕には・・・マスターの気持ちがわかる。だから・・・彼を守らなくてはならない。」
それでもしっかりと言い切る蒼星石に、翠星石はこわごわ口を開く。
「・・・・・・す・・・翠星石は・・・いつも蒼星石と一緒胃いたいと・・・思ってます。蒼星石も同じ気持ちじゃなったです・・・?」
「君と僕は同じじゃない。翠星石。」
キィン・・・
蒼星石が翠星石に鋏を向ける。
「そんな君だから僕は・・・僕は君と戦える。他の誰とでも。マスターのために。」
蒼星石に向けられていた鋏の切っ先がジュンに向けられる。と、翠星石はさっとジュンを庇うように、ジュンの前に動く。
「ダメです・・・ケンカは・・・ケンカは嫌ですけど・・・」
キッと翠星石は、蒼星石を鋭い瞳で見つめる。
「翠星石はジュンをマスターに選んだです!!だから・・・守るです!」
しっかりとした翠星石の意思表示。
「ジュンだけではないです・・・真紅も・・・雛苺も・・・のりも・・・も・・・も・・・みんなみんな守ってやるですっ!」
声が震えて、涙がこぼれそうになりながらも、それでも翠星石は言う。
「だから・・・い・・・いくら蒼星石でも・・・来るなら容赦しないです!」
言い切った翠星石は震えている。それでもその意思は変わらずに。それを見た蒼星石はスッと鋏を下ろし、自嘲気味に笑う。
「・・・これは、分が悪そうだ。」
呟くように言ってドールたちを見回す。
「手負いの真紅に翠星石、その上二体のドールマスターに薔薇審判<ローゼン・シート>、そのマスター相手ではね。」
「私たちは戦いませんけどね、。」
「はい、マスター。」
「ヒナもいるのよ!真紅の下僕だけど・・・」
「そう・・・雛苺も。」
蒼星石はくすりと笑って、こちらに背を向ける。
「レンピカ。」
人口精霊の名を呼ぶ。
「次は・・・大切なものをかけて闘おう。翠星石・・・、」
夢の扉を開きながらこちらを振り向く。
「薔薇屋敷で待っている。闘おう、ドールズ。」
そう言って蒼星石は消えた。