Der Wachhund der Rose act25
迎え入れられた屋敷でジュンと。翠星石たちはバスケットの中で待機し、はに抱かれて大人しくしている。だが、蒼星石のことを問い詰めても屋敷の主人は知らないの一点張り。
「用が済んだら帰りたまえ・・・騒がしいのは好かん・・・残念だが見当外れだよ。」
「嘘・・・「嘘ですよ!!」え。」
「蒼星石を出すですこの極悪爺さん!!」
「極悪爺さんって・・・(苦笑)。」
「リボンが乱れたわ。」
「いきが苦しかったのよー。」
翠星石がバスケットから飛び出したのを合図に真紅と雛苺も一緒に飛び出してくる。
「あら、この香りはセイロンね。なかなかよい茶葉だわ。ジュン、私にも紅茶を。」
「ハイハイ・・・じゃなくてぇ!!」
マイペースに出された紅茶を飲み始める真紅に突っ込みを入れるジュン。はそれをくすくす笑いながら見ているだけ。
「僕が呼ぶまで出てくるなって言っただろ〜!も笑ってんじゃねぇよ!」
「ふふ、すいません。」
「・・・・・・・・・素晴らしい。」
ぽつりと呟かれた声に視線がそちらに集中する。
「ローゼンメイデンを三体も所有しているとは・・・マスターは君かね・・・?」
呟くように、しかし、しっかりとジュンに向けて発せられた言葉。そして、
「なんと素晴らしい・・・。」
ぐにゃあ
部屋が歪み、物凄い勢いでゆれ始める。
「ゆ・・・ゆれてるのッ!じしんなのよ!」
「・・・いいえ。違います。」
揺れなどないように、はを抱いたまま立ち上がる。
「このお屋敷、玄関の扉の先は既に異空間。」
すっと、流れるような動作でを床に降ろす。もまた、揺れなど感じないようにそこに立っている。
「・・・そうさ、この館の扉を開いた時から・・・君たちはもう・・・僕のフィールドの中。」
そこには既に鋏を構えた蒼星石の姿。その姿に翠星石が悲痛な声で叫ぶ。
「やはりそう・・・この世界は夢の中だわ。」
冷静に真紅が呟く。
「ようこそ人形たち・・・私の夢の世界へ・・・。」
館の主人が呟くとそこかしこに窓が現れる。そして主人の過去を映し出す。
―双子の弟、一緒に駆け落ちした女性、船の沈没、偽りの生―
「・・・・・・私はどうしても二葉の死を認めたくなかった・・・だから・・・代わりに私が二葉となって行き続ける事を選んだ。半身を失い・・・自分自身も失った。私の人生はあの日に捕らえられたまま・・・抜け殻のようなものだ。・・・なのに・・・・・・、」
屋敷の主人、結菱二葉、否、結菱一葉は叫ぶ。
「あの女は生きていた・・・!私たちを引き裂き、何もかも奪った女が・・・今も・・・のうのうと・・・!」
結菱一葉の慟哭が響く。
「私の事も二葉の事も忘れ・・・別の男と一緒になり幸せに暮らしているという。許せない・・・あの女に復讐しなければ・・そして私は一葉としての私自身を取り戻すのだ・・・。」
憎しみと悲しみのない交ぜになった叫びに、は眉間に皺を寄せる。
「・・・だから、その女性を殺そうと言うのですか・・・?」
「そう、だから僕はその女性の心の樹を探していた・・・記憶の枝葉を刈り取るために・・・。」
翠星石の唖然とした呟きに蒼星石が答える。
「一つの夢は全ての夢。僕はマスターの心の樹を辿った。樹の幹は世界樹と繋がり、無意識の海に根を浸す・・・そこはあらゆる人の精神と繋がっている。辿って辿って・・・、」
ふっと蒼星石が振り返る。
「僕はようやく見つけた・・・。」
そこには懸命に生きる、一本の樹が立っていた。