天使の子守唄 禍つ鎖を解き放てact8
『・・・・・・・・・あの・・・・・・男・・・』
声のしたほうに視線を移せば、仄白い人影。明らかに、生きている人間じゃないことだけは分かる。
「・・・霊・・・だよね?随分化物な気配をぷんぷんと・・・。」
呟く俺の隣で昌浩が硬直しているのが分かる。
「大丈夫?昌浩。」
「う・・・うん・・・大丈夫・・・。」
『・・・己れ・・・奴は・・・どこだ・・・!』
「奴・・・?」
昌浩がそう呟けば怨霊がこちらを振り向き、昌浩に向って手を伸ばしてくる。
「う・・・。」
「昌浩!呑まれちゃだめ!」
「う・・・うん・・・!」
思わず昌浩を抱きしめる。
怨霊の妖気に当てられて、萎縮していた昌浩はなんとか立直った。
隣に佇むもっくんが舌打ちをする気配がした。あは。嫉妬ですかー(爆)。
落ち着いた昌浩を離し、戦闘態勢に入る。今回は斬魄刀を顕現。もっくんとすーちゃんも警戒心を露にする。昌浩もなんとか調子を取戻したらしく、刀印を作っている。
『・・・・・・あの男は・・・どこだ・・・!』
怨霊が呻く。・・・すっげー嫌な感じ・・・。
「・・・あの男・・・?ここの主・・・?」
「とっくの昔に死んでるぞ、それこそ内裏における勢力争いに敗れて・・・」
もっくんの呟きと同時に怨霊の念が広がった。衝撃が叩きつけられる。
「ひゃぁ!!って!」
「・・・・・・ってて・・・。」
立ってられなくて俺と昌浩はしりもちをついてしまった。
もっくんとすーちゃんは既に体制を立て直している。
「大丈夫か?!!」
「おう!」
すーちゃんに叱咤されて立ち上がり、昌浩の腕を引いて立ち上がらせる。
『奴は・・・内裏か!』
怨霊の怒号が轟く。
その叫びの衝撃にまた昌浩はよろめき、膝をついて崩れかかる。
「「昌浩!」」
俺ともっくんの声が重なる。慌てて俺は昌浩の隣に寄り添い、翼を出して包むように抱きしめる。
かろうじて倒れずにすんだが昌浩は明らかに真っ青だ。
大蛇の時もやったが、俺の翼は妖気とかそういったものを防ぐことが出来るらしい。
「大丈夫?」
「奴の怨霊にあてられたか。立てるか?」
「う・・・うん!」
頷く昌浩に安心して、翼をしまう。
凝った妖気というか霊気というか・・・とにかく物凄くいやな感じのする気配の残る場所を見詰めるがそこにはもうあの気配の元となった怨霊の姿は無い。
「・・・なんか物凄く疲れた・・・。」
「内裏って・・・言ってたけど・・・入れはしないだろうけど・・・あれが、くだんの怨霊かな?捜して、調伏したほうがいいよね。」
むーっと辺りを見回しながら眉を寄せる昌浩に俺は苦笑する。
「そんな青い顔で出来る分けないでしょー。早く帰って寝る!体力回復してから!」
「の言うとおりだ。馬鹿。とっとと帰って寝ろ。」
「馬鹿ってなんだよ、馬鹿って!」
《安倍邸に戻れ。》
「だよねー。」
不意に脳に直接響く声。後を振り向くと六合が顕現する。最初っから隠形したままいたんだよね。昌浩は気付いてなかったみたいだけど(苦笑)。
「あれほどの恨鬼はそうそういない。だからまず体調を万全にしろと、と騰蛇は言っている。」
「あ、六合はちゃんと名前呼んでくれるんだーv青龍は呼んでくれないんだよねー。」
むーっと頬を膨らませる俺と、なんだか居心地が悪そうに視線をそらす六合と、不貞腐れたように明後日のほうを向くもっくんを、昌浩は順番に見ている。
「あれってさ、怨霊っていうか・・・化けモンじゃない?だから、体調しっかりばっちり万全にして、準備してから挑んだほうがいいの。」
ね?と言えばしぶしぶというように頷く昌浩に萌!とか思ってしまった!(二回目)。
「・・・わかった。」
昌浩はもっくんを襟巻きにして歩き出す。
「降ろせ、自分で歩く。」
「やだよ、だって寒いんだもん。襟巻きになったってばちは当らないだろ。」
視線を合わせないまま言い合う二人を俺と俺とすーちゃんと六合はちょっと微笑ましそうに見詰めて、後を追った。