天使の子守唄 禍つ鎖を解き放てact14

祈祷が終り、昌浩が邸から出てきた。その表情は、なんだか暗い。
なんとなく声をかけづらくて、一歩下がった後ろから付いて行く。
「・・・・・・どうするつもりだ。」
ぴた
もっくんが一言、重々しく声を発すると昌浩がその場に立ち止まり、慌てて俺も止まる。
「あれは呪詛だ。憑依された敏次が、おそらく怨呪の玉を使って、完全な呪殺の法を行い発動した、紛れもない呪法。一度発動した呪詛は、もう止まらない。対象者を死に追いやるまでは。」
もっくんの真剣な声に、俺は声をかけられない。
「いいや・・・、もう一つ、方法がある。」
拳を握り締め、昌浩は顔を上げる。
「呪詛を、返す。」
しっかりと、決意を秘めた瞳で、昌浩は宣言した。

『呪詛を返す』
昌浩ともっくんが真剣な顔で話をするのを、俺は見詰めるしかできない。そして、
「なら、見捨てなければいい。見捨てなければいいだろう。それがお前の望なら、俺はそのために心を砕こう、力を貸そう。俺はそのために、お前の許にいる。」
「もっくん・・・。」
「あー、もっくんずるい!俺だっているんだからね!」
「うわぁ!!?」
いい加減、重苦しい空気に耐え切れなくなって俺は後ろから昌浩にタックルをかました。
昌浩は唇を噛締め、拳を握り締める。
「・・・呪詛を返して、行成様を守って、怨霊を調伏して。」
「あの偉そうな敏次の鼻っ柱を、ここでひとつ叩き折ってやろうじゃないか。なぁ?清明の孫よ。」
「・・・・・・孫、言うな!」
「うん!いつもの調子に戻ったねv」

帰り道。
「ところでさ。敏次がどうとかー、怨霊がどうとか言ってたけどどういうこと?話が見えないんだけど。」
右からもっくん、昌浩、俺、すーちゃんの順で並んで歩きながら、昌浩に尋ねると、あ、という顔をする。
「あーそっか。には話してなかったっけ。俺の陰陽寮の先輩の藤原敏次殿が、こないだの怨霊に憑依されてるんだ。怨霊は敏次殿の力と、怨呪の玉っていうのの力で行成様のことを殺そうとしてるんだ。」
「・・・いろいろと複雑だねぇ・・・。まぁ、俺は昌浩がやるって言うんなら、それを助ける。それだけだけどね。」
よしよしと頭を撫でてやれば子ども扱いするなーと返ってくる。
「だってさ。俺の世界では十三歳はまだ子供よー?義務教育中だもんー。二十歳でようやく大人の仲間入りだもーん。」
ぐしゃぐしゃと頭をかき回してやる。
「だからー、もっと大人に頼んなさい。ね?」
大丈夫、と言ってやれば、昌浩もしっかりと、決意を宿した瞳で頷いた。
大人になりきれていない二十歳もいますけどね。
back