天使の子守唄 六花に抱かれて眠れact16
高淤の神様とのにらみ合いがしばらく続いた。もちろん、ナメクジを牽制しながら。と、唐突にナメクジが硬直した。次の瞬間、
「「昌浩!」」
俺と紅蓮の叫びが引き金になったようにナメクジの中から白い光があふれ出す。そして、一瞬のうちに爆発し、消え去り、その場に残されたのは、
「昌浩!!」
俺たちを押さえつけていた高淤の神様の力が消えると、紅蓮は真っ先に昌浩の下へ駆け寄る。俺も、一応、高淤の神様に一礼して、昌浩の下へ。
「大丈夫か!?おい、昌浩!」
「昌浩!返事しなさい!昌浩!!」
ピクリとも動かない。返事もない。息を・・・してない・・・!
それに気付くと俺は紅蓮から昌浩をひったくると後ろから抱きつくように抱える。
あんなどろどろした奴の中にいたんだ・・・もしかたら喉に何か詰まらせてるのかもしれない!
胃の辺りを押さえ、背中を思いっきり叩く。
「紅蓮!昌浩の名前を呼んであげて!」
「・・・あ・・・目を・・・目を開けろ、息をしろ!いくら半人前でも、許されんぞ!おい、ふざけるなよ、昌浩・・・っ!」
「昌浩!起きなさい!昌浩、あんたはこんなところで死んでいいはずがないでしょ!!何のために俺が此処にいるんだよ!」
俺も紅蓮も必死。昌浩はこんなところで死んでいい人間じゃない。
「昌浩、昌浩、昌浩・・・!昌浩!目を開けろ・・・!・・・このっ・・・清明の、孫・・・っ!」
ピク
「昌浩!」
抱きかかえていた昌浩の体が、一瞬反応した。次の瞬間には、口からなにやら黒い物体が吐き出され、何度か咳き込んでから思いっきり息を吸い込んで一言。
「孫言うな―――っ!」
・・・復活早々大声を出すなっつーの。そのまま俺の腕の中でぐったりとする。
「大丈夫かー・・・昌浩ー。復活早々大声なんて出すもんじゃないぞー?」
「・・・あ。・・・ごめん。っていうか、・・・言うに事欠いて・・・孫言うな・・・っ!」
前半は俺に対して。後半は紅蓮に対して。うん。それだけ憎まれ口が叩ければ大丈夫だ。
「・・・あまり・・・心配かけるな・・・。」
「人のこと言えるかよ、散々心配させておいてさ。」
安心しきった声で呟く紅蓮に昌浩の容赦ない一言が突き刺さる。その言葉に紅蓮の方が震えたのが分かる。
「大体、俺たちの知らないところで、紅蓮に何があったのかなんて、紅蓮が言ってくれなきゃ、俺たちわからないんだ。物の怪のもっくんの分際で、隠し事なんてしてるんじゃないよ。俺たちだって、心配ぐらいするんだい。」
ねぇ?と俺に同意を求めるように、拗ねた口調で言えば、紅蓮は戸惑いを隠せないといった表情をする。神気が消えたと思ったら紅蓮からもっくんの姿に変っていた。気がつけば、黒耀もすーちゃんになり、俺の隣にお座りの姿勢で控えていた。
「。さっきはありがとう。もっくん。さっきはよくも、どさくさにまぎれて孫言ってくれたな。覚えてろ。」
「いえいえーv
「・・・非常時だ、忘れろ。」
「やなこった。絶対忘れてやんない。」
そのやり取りにくすくすと笑って、自分で体を支えられるようになった昌浩を腕の中から解放してやり、俺とすーちゃんは少しはなれたところの石のうえに座る。
「アレだけ言い合えれば大丈夫だね。」
「そうだな。」
「やはり、見所のある奴だよ。」
「あたり前です。天照様も、お認めになられたんですから。」
「そうだな。お前も、今度はこのような非常時ではなく、ちゃんと顔を見せに来い。」
「はい。」
いいたいことだけ言うと、高淤の神様は姿を消した。