天使の子守唄 黄泉に誘う風を追えact3
「あ、清明様帰ってきた。」
「ほんと?じゃぁちょっと行ってこなきゃ。もっくん行くよ。も来る?」
「もち。」
昌浩は陰陽寮から帰ってくると真っ先に彰子の部屋へ来た。あれからしばらくして、彰子の状態も少し落ち着いたので部屋を移動させたのだ。そのあと、清明様が帰ってきたのを確認。部屋へと向った。
「失礼します、いいですか?」
「ああ、入って来い。」
昌浩が声をかけると少し疲れたような清明様の声がした。許可が出たので、妻戸を開けて中に入る。
「暗いなぁ。いくらまだ日が落ちきってないとはいえ、そろそろ燈台つけましょうよ。」
そういって昌浩が燈台に火を灯し、今日合ったことを報告する。やっぱり、呪詛と瘴気の影響は大きいらしい。そして彰子の変わりに入内したという異母姉妹も、体調が思わしくないとのこと。
報告を聞いていた清明様がおもむろに口を開く。
「風音が、な。」
「風音?」
「風音、て・・・。あの?」
「そう。・・・内親王の脩子姫をさらって、姿を晦ました。」
「―――え?」
言われた言葉に、俺も昌浩も一瞬意味を理解できなかった。間抜けな顔をする俺たちを見て清明様は腕を組んでため息を一つ。
「どうやってかは知らんが、一条院に女房として紛れ込んでいた。そして、脩子姫をさらっていった。」
そして、清明様は一拍置いて、呟くように吐き出した。
「この状況を作り上げたのは、脩子姫だ。」
言われた事実に、俺も、昌浩も言葉を無くす。
「瘴穴を本当の意味で穿ったのは、脩子姫だろう。風音の術は、その介添えをしたに過ぎない。」
風音の術を介添えにして瘴穴を穿つことができるほど、その姫には何かがあったのか。闇に呼応してしまうほど、心に闇を抱えていたということなのか。何だか・・・悲しくなった。
「じゃあ、早く脩子姫を探し出して、浄化しなきゃ・・・。」
「そだね。」
「待て、まだ話は終わっとらん。」
「へ?」
部屋を後にしようとしたら、昌浩は清明様に狩衣の袂を引っ張られて、危うく顔面スライディングをするところだった。・・・よかったね。のけぞるくらいで終って。当の昌浩は「なにすんだ、狸爺。」とでも言わんばかりに清明様を一瞥し、もう一度座りなおす。
「残りの話って、なんですか。」
昌浩のバックに「とっととしやがれ狸爺。一刻を争うとかほざいてたのはてめぇだろうが。」という文字と共に何か黒いものが見えます・・・。ゴメン、昌浩が何だか黒いです。はい。やっぱ彰子がらみだからかな・・・。
「・・・・・・少し、昔語りをする。付き合え。様も、聞いていただけますかな?」
「えっ?」
「・・・俺もですか?」
清明様は頷いて、俺にも座るように言う。そして、何だか辛そうなもっくんを一瞥すると、五十年以上前に起こった、一つの出来事について、話し始めた。