天使の子守唄 黄泉に誘う風を追えact6
大内裏の近くまで来たのはいいが、ちょっと困った。何がって、人が多過ぎる。いつもだったら此処まで人は多くないだろうけど、今は北辰が翳っただの、帝が倒れただの大騒ぎだから人が多いのもあたり前だけど、こっちにしてみれば大いに困った。
「まず入るのが厄介だよな。見当違いかもしれないし、人に見つかったら言い逃れできないし・・・。」
「だよねー・・・。神将たちみたく隠形できるわけでもないしー・・・。」
いくら(無理矢理)神の眷属にされたからと言っても、俺だって元・人間。隠形なんて器用なこと出来ません。はい。
「見つからなきゃいいのよ。ほら、行くわよ!」
「え?!」
「うわっ!」
気がつきゃ竜巻の中。いきなり身体が浮く感覚に、「あぁ、ネズミの国の岩山な感じ・・・」とか一瞬現実逃避しかけたけど、次の瞬間には風が消えていた。
ドスン
「うぉう!」
「・・・いててて。」
俺はなんとか無事に着地できたけど、隣の昌浩は盛大にこけた。しかももっくん下敷きにして(苦笑)。すーちゃんも腕の中で目を回しかけている。昌浩はもっくんを慌てて抱え上げ、辺りを見回している。
「これが、清涼殿か・・・。」
「でっかいねぇ・・・。」
俺も昌浩もため息をつくと、もっくんが呆れたように呟く。
「清涼殿の外観見ただけでそこまで感動するもんなのか?」
「だって、俺の位階じゃ一生かかっても内裏に入れるところまで行きそうにないしさー。」
「っていうか、俺は一生縁のないとこだと思うぞー。」
緊張感ゼロな会話。だってねぇ。俺の場合本当のことだし。ね?とすーちゃんにふってみれば、知るか。と返されてしまった。うーん、冷たいなぁー。
「ねぇ、あれって本当に騰蛇なの?あの騰蛇?ほんとに?嘘だわ、絶対に何かの間違いよ。清明にだまされたんだわ、騰蛇は異界にいるのよ、そうでなきゃ・・・」
ほえほえーとしていると急に太陰がわなわなと信じられないような顔をしてもっくんを見つめ、ぶつぶつと呟きだしたと思ったら、ビシィっと音がしそうな勢いでもっくんを指差す。
「あんな緊張感の欠片もない妙な姿の生き物が、あの苛烈で冷酷な騰蛇だなんて世界がひっくり返ったってありえないっ!」
・・・なんだか凄いいわれようだなぁ・・・もっくん。昌浩もそれは同じなようで。
「随分な言われようだなぁ。」
「苛烈で冷酷・・・もっくんそうだったの?」
「・・・そういうつもりはないが周りから見たらそうなんだろうな。」
「えー可愛いのになー。」
「可愛い言うな。」
「太陰、これほんとうに紅蓮だよ。」
「お前もこれ言うな。」
これまた緊張感ゼロな会話に太陰は「絶対嘘だ」なんていう文字を背負ってもっくんを見詰めている。
と、急に嫌な気配にそちらに視線を移せば、なにやら黒い穴(?)。そこからものっすごく嫌な風が吹き出してくる。それを見て太陰はえっへんと胸をそらす。
「ほら見なさい、当ってたじゃない。」
「太陰が威張ることかなぁ・・・?」
「のん気なことを言ってられる状況じゃあ、なさそうだがな。」
「同感だ。」
もっくんが地面に飛び降りるのと同時に、すーちゃんも俺の腕から飛び降りる。六合が銀の槍を構え、太陰も戦闘態勢に入る。俺は前回の貴船での対ナメクジ戦で昇霊銃や斬魄刀じゃ埒が明かないと判断し、巨大な鎌、死神の鎌を顕現させ、構える。
穴の中から、貴船で倒したのと同じようなタイプの、巨大ナメクジがずるずると這い出てくる。・・・キモイ・・・。
「まさか・・・妖たちは、みんな瘴穴の中に・・・!?」
「え!」
その瞬間、穴が急激に広がり、俺たちは全員、穴に飲み込まれた。