天使の子守唄 黄泉に誘う風を追えact8

周りにいた化け物たちが、一瞬で消滅した。紅蓮の地獄の炎。
昌浩の視線の先には腕に炎の蛇を絡ませた紅蓮の姿。・・・だけど、なんだか様子が・・・おかしい。
それに気付かない昌浩は嬉しそうに紅蓮に近づく。
「・・・紅蓮、帰ろう。早く・・・」
「かざね・・・かざね!」
玄武にかばわれていた少女(おそらく脩子様だろう)が駆け出す。その先には、ボロボロになった風音の姿。その姿に一瞬意識を奪われた次の瞬間、
「・・・・・・はっ・・・!」
小さな、小さな昌浩のうめき声。鉄の臭い。そちらに意識を戻した瞬間、信じられないものが目に飛び込んできた。
「っ!昌浩っ!」
紅蓮の手が、昌浩の腹部を、貫いていた。

一瞬遅れて太陰が声にならない悲鳴を上げ、その叫びに六合と玄武が振り返る。貫かれた紅蓮の手が引き抜かれ、昌浩の体が重力に逆らえず、崩れ落ちる。そのまま動かない昌浩の周りに血が広がる。
「・・・紅蓮・・・。」
「嘘・・・!どうしてよ、なんで、こんな・・・!」
血で濡れた手を舐める紅蓮を信じられないような目で見つめるしかない俺たちを、当の紅蓮は残忍な笑みを浮かべ、見ている。その瞳が恐ろしくて、俺は隣に立つ黒耀の衣を無意識に握り締めていた。
「・・・・・・人間は、もろいな。手ごたえがないから、つまらない。」
そう言って昌浩の襟首を掴み上げ、こちらに放り投げる。地面に叩きつけられる寸前で、太陰の風が昌浩を受け止め、ゆっくりと降ろし、そばに駆け寄る。
「昌浩!昌浩!」
「昌浩、しっかりして!」
「おい、目を開けるのだ、昌浩・・・!」
必死に声をかけても反応がない。仰向けに寝かされた昌浩の腹部は服ごと肉が抉られて、明らかに内臓まで損傷している。このままじゃ、死んじゃう・・・!
「くそ、間に合うか・・・!」
「俺がやる!」
玄武が傷口に手を当てて、何かしようとするのを抑えて、俺は昌浩の傷に全神経を集中させる。
「”癒しの風”。」
精一杯の”心”を。昌浩を、こんなところで死なせてはいけない。死なせてなるものか・・・!俺はそのためにここにいる。神様に託された俺の『役目』。それが、コレだというのなら、俺の命に代えても、昌浩は死なせはしない・・・!
「昌浩、ちょっと冗談じゃないわよ!目を開けなさいったら、ねぇ・・・!」
必死で太陰が昌浩に声をかけるが、反応は皆無。・・・傷が深すぎる・・・!俺だけの力じゃ、足りない・・・!
「――――無駄よ、その子は死ぬわ。あれほど信頼していた騰蛇の手にかかったんだもの、本望でしょう。」
「昌浩は死なせない!!死ぬもんか!」
力ない風音の言葉に負けないように魔法を使いながらも叫ぶ。そうだ、死なせない。言葉は、言霊となる。真実となる。絶対に、死なせない!

風音と太陰のやり取りが、遠く聞こえる。・・・くそ!足りない・・・!”力”が・・・”心”が・・・!
そうこうしているうちに六合と紅蓮が戦いを始めたようだ。俺はそちらに神経を向けるほど余裕がない。早く、邸に連れて帰って、きちんと手当てをしないと・・・!そのとき、
「―――凶魔風斬!」
高いところから凄まじい力と共に、凛とした声が降り注いだ。この声は・・・清明様(魂魄バージョン)・・・。
「清明、昌浩が死んじゃうわ!」
隣にいた太陰が叫ぶ。・・・ヤバイ・・・そろそろ俺も限界かも・・・。そう思ったとき、冷たい声が聞こえた。
「――――安倍清明。どうだ。お前の式神は、もはや我が傀儡。」
低く、地の底から這い上がってくるような声。背中に嫌な汗が伝った。
「ャ斎・・・!?」
清明様の声が響く・・・。そして、ャ斎は言い放った。
「屍鬼よ。この者たち全てを、お前の放つ炎で屠れ。」
その言葉に、紅蓮が冷たく笑った気配がした。
あれ?名前変換がない?(爆)。
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