天使の子守唄 焔の刀を研ぎ澄ませact1
数日して。俺は完全回復。昌浩は傷が完全には治っていないにも関らず参内すると言い出しやがりました。もち、清明様を初め、十二神将たち総出(めったに出てこない神将や青龍は除く)で止めたけど、無理でしたー。・・・なんでこういういらないとこで男の子って頑固なんだろう。
昌浩曰く。敏次殿から叱責の文を貰ってしまったのでこれ以上休むわけにもいかない。とか。とっしーなんかほっとけよー。自分の体のこと一番に考えなさいよねー!とか思ったのは俺だけじゃないはず。
「それに、六合と・・・ほかにも、誰か一緒にくるんでしょ?」
「だからってさー・・・」
「・・・立后の宣旨も近く、せわしない。致しかたあるまい。」
「清明様までー。」
そういわれてしまえば仕方ない。
「じゃー、行く前に。もう一回魔法使っとくから。はい、そこ立って。」
「え、の方が負担になるんじゃ・・・「つべこべ言わない!」はい。」
これ以上言っても無理だろうと判断し、まだ完全に治りきっていない傷を少しでも回復させるために魔法を使う。全部治してしまうと、自己治癒力が低下してしまうから、完全には治さないけど、痛みが抑えられる程度に。
「”癒しの風”。」
昌浩の周りを風が包む。
「はい。コレでよし。はい。いってらっしゃい。」
「うん。いってきます。」
昌浩が門をくぐって行くの見送っていると、
「・・・六合と、太陰?」
「ん。そだね。」
「隠形しているというのに、よくわかったな。さすが、当代一の見鬼。」
彰子と俺の呟きに呼応するように玄武が顕現する。表情はあんまりないけど、感心してるようだ。
そんな玄武ににっと笑いかけてみれば何故か顔を背けられてしまった。・・・俺なんかしたっけ?
「・・・ね、玄武、。尋いてもいい?」
「なんだ。」
「答えられることなら。」
「・・・・・・もっくんは、どうしたの?」
・・・とうとうきたか、その質問。玄武もどう答えればいいか考えているのか、さらに表情が固くなる。
「どうして帰ってこないの?・・・どうして、昌浩は何も言わないの?いないのがわかっているのに、どうして誰もないも言わないの?・・・・・・私には、話せないようなことがあったの?」
不安げに訊ねてくる彰子に、俺も玄武も、答を返せない。あんなこと、話せるわけがない。
「・・・・・・ゴメン。彰子。俺達が話せることじゃないんだ・・・。」
俯いて答えても、それでも何か言おうとする彰子を、誰かが止めた。
「・・・勾陳・・・。」
「あまり二人を責めないでやってくれ。理由が聞きたいのなら、清明に尋ねるといい。あれは必要があれば答えるだろう。決して、昌浩を問い詰めることだけはしてくれるな。」
その声は穏やかに、だが絶対的な力を持っている。
「あなたは・・・」
「そっか。彰子は勾陳を見るの、初めてか。」
俺は最初の日に全員に一応会ってるからなー。などとその場の雰囲気を少し緩めてみる。それに勾陳も少し笑って自己紹介をする。
「十二神将勾陳。・・・藤原の彰子姫、お目にかかるのは初めてだったか。あなたは私を知らないだろうが、私はあなたを知っている。」
ふっと、笑って、昌浩が出て行った門の方を見る。
「話さないのは、姫を慮ってのこと。決して疎外しているわけではない。」
「・・・・・・・私は、聞かないほうがいいのね・・・。」
「そうじゃないよ。彰子。」
寂しそうに呟く彰子に、慌てて否定すれば困ったように首を振る。
「いいの。私は何もできない。知ってはいけないことだってあるはずだわ。・・・わかってるの。でも、昌浩のあんな目を見たら、・・・心配で。」
辛そうな顔をする彰子に俺はかける言葉が出てこない。
「安倍の男どもに関る女は、程度の差こそあれど、みな同じ想いをしている。」
「・・・勾陳?」
何だか楽しそうに言う勾陳に思わず首をかしげる。
「自分たちばかりが大変な思いをしていると考えて、全部を抱え込んでいるつもりになるのも安倍の男どもの特徴だな。姫よ、度量の広さに磨きをかけたほうが、後々の憂いが減るぞ。」
「え?」
さらに楽しそうに言い捨てて勾陳は隠形してしまった。後に残されたのはぽかんとする彰子と、だんだんと意味が飲み込めてきた俺。何故か困ったような顔をした玄武。
「・・・、勾陳は最後になんて言ったのかしら?」
「ん・・・そう遠いことでもないだろうから、だってさ。がんばれ、彰子。」
「え?」
当の本人が分かってないのが末期だな。