天使の子守唄 真紅の空を翔けあがれact2
最初に気付いたのは六合と、俺。ようやく意識を取戻した昌浩が、まだ焦点の合わない瞳で周りを見回して呟いた一言がキッカケだったと思う。そのとき、昌浩の隣には、六合がいた。隠形もしていなかったから、『目』を持っていさえすれば、『視える』はずだった。だけど、昌浩の視線は六合を素通りした。因みに俺はそのとき六合の隣に座っていたから、昌浩の視線は六合を通り過ぎて俺に向けられた。
「ねぇ、六合、いるよね?気配は感じるんだ。」
「え・・・何言って・・・。」
必死に何かを探すように手を伸ばす昌浩に、六合が手を伸ばす。その手に、確かめるように触れる。そして、何かを諦めるように呟いた。
「・・・見えない・・・。」
と。
俺も、六合も、外にいた勾陳も、息を飲んだ。陰陽師になるには必要不可欠であろう見鬼の才。それが失われた。ただただ見えないと昌浩は言った。気配は感じる。声も聞こえる。触れる事もできる。でも、見えない。と。
そのことにショックを受けながら、少し神気を強めて昌浩にも見えるように顕現する。その表情が暗いのに気付いた昌浩は苦笑して、こまったなぁと呟いただけだった。
そんな事を考えていると、眉をハの字にした太陰が俺と昌浩の手を引っ張っていた。ふと顔を上げると、いつもあまり感情を表に出さない玄武まで心配するような顔をしている。・・・あー・・・やっちゃった・・・かな・・・。
「あはは・・・。」
「あ、そろそろお腹すいたね。て言っても、食べるのは俺だけだけど。」
「人型を取れば食物摂取は可能だが、そこまでするのもどうかと思われる。」
「あー、冷たいなぁ。ひとり寂しくご飯食べるのはむなしいんだってば。」
「むなしくても食べなきゃ元気になれないわよ。」
いつもの調子で昌浩集中攻撃(笑)。
「なんだったら俺が付き合うぞー?神の眷属に(無理矢理だけど)なったとは言っても、元は人間だからねー。食べようと思えば食べられるよ?ただいつもは食べる必要がないから食べないだけー。」
抱きついたままそういえば本当!とちょっと嬉しそうな声が返ってくる。
「うん。前にも干し桃貰って食べたし。まぁ、すーちゃんの話によると、そのうち俺も神将たちと同じような身体になるらしいから今のうちらしいけどねー。」
そんな会話をしていると隣で太陰がも私達と同じになるの!と猪引きずりながら(え)嬉しそうに声を上げている。・・・そんなに嬉しいですかー?(笑)。可愛いけどね。
「まぁ、それより今は、昌浩は、元気になって、成親が到着したらすぐに山代郷に出発しないと、螢の季節までに帰れないじゃない。」
びしっ!と猪を引っ張っていないほうの手で昌浩を指差す。それに昌浩はそうだね、と一言だけ呟いて、ふと屋根を見上げた。つられて俺も屋根の上を見上げれば、そこにはなんの感情も持たない、白い身体に紅い瞳の物の怪が此方を見ていた。そして、無表情に、無感情に、消えた。
主人公が最強設定すぎると今更ながらに思う←
back