天使の子守唄 真紅の空を翔けあがれact3
次の日は曇り。
「陽が射さないと、気温が上がらないのよね。変な湿気もこもるし。やになっちゃう。」
「おっはよーん、昌浩ーよく眠れたー・・・って酷い顔。隅出来てるぞー。」
太陰が板戸を開け、俺は中に入る。俺達がきたことで起き上がった昌浩を見て俺は顔をしかめてしまった。
「本当。ちゃんと寝たの?青い顔してるし、精気も覇気もどっかに落っことしてきたみたいじゃない。猪じゃ元気になれないなら、鹿でも熊でも獲ってくるわよ?」
「・・・太陰、熊は・・・やめとこ?せめて兎くらいじゃないかな。あとはなんかいる?」
「雉や鶉が生息している。それくらいにしておけ。」
それに対して太陰は苦虫を潰したような顔をする。不思議に思って聞いてみると、曰く、的が小さすぎる。だそうだ。それを聞いて、不謹慎にも噴出してしまった・・・!
「笑い事じゃないわよぉ!あんまりはずして空振りするといっぱい木倒しちゃって、白虎にお説教されるんだからー!」
「あはは、ゴメンゴメン。じゃー・・・せめて鹿くらいにしとこう。うん。」
あの白虎のお説教かー・・・普段温厚な人って怒ると怖いんだよねー・・・うん。俺も白虎に説教食らわないように注意しよう。
そんな様子を昌浩はちょっと引きつった顔で見ている。大方、猪でびびった所に今度は鹿やら熊やら持ってこられるとちょっと引いているんだろう。がんばれ、昌浩。
太陰はそんな様子にも気付かずに腕組みして苦い顔をする。
「清明のときは真冬で苦労したのよね。すぐ動かすわけにもいかないし。獲物はろくにいないし、雪で野草なんかも隠れちゃって。仕方ないから雪上を駆ける兎を追い回したり、適当な鳥を叩き落したり。」
「へ、へぇ・・・。」
まだ引きつったまま昌浩はとりあえず相槌を打つ。
この庵は五十年以上前に清明様が道反へ赴いた時に使用した場所らしい。そのときも、今以上に大変だったのだろうなー。神将たちにとっては大変どころの騒ぎじゃないだろうけど。そんなことを考えているとは知らずに太陰は愚痴を続ける。
「これが秋だったら木の実だって取り放題で楽だったんだけど。あ、せっかくだから川魚捕ってこようかしら。筑陽川にいくらでもいそうだし。ねえ玄武、それだったらいいと思わない?いっそ海まで足をのばしたっていいわ、風でひとっ飛びだもの。」
いいこと思いついたーvvと一気にご機嫌になり、玄武に同意を求める太陰。本当、太陰は表情がころころ変わるから面白いなぁ(笑)。
「うむ、それはいい考えだ。たまには変ったものがいいだろう。」
珍しく同意した玄武の腕をしっかりと掴み、満面の笑みで振り返る。・・・がんばれ玄武。こうなった太陰の風は物凄いぞ・・・おそらく。
「ちょっと行ってくるわ。だから昌浩、おとなしくして待ってるのよ。昨日みたいに外に出てたりしないのよ、そんな顔してるんだから!!今日は貴女が一緒でも外に出しちゃだめよ!」
「うん、わかった。」
「了解ー!」
びしり!と指を差されて昌浩は苦笑する。俺もあははと笑って返事をする。それを、よし、と見届けると太陰は玄武を引きずるようにして外に出る。何歩か走る間に風が起こり、一瞬で竜巻になる。突風が中に吹き込んでくるので昌浩を抱き込むようにかばい、風が収まった外を見れば既に二人の姿は無い。
「・・・玄武、目まわしてなきゃいいね・・・。」
「・・・そうだね・・・。多分、無理だと思うけど。」
とりあえず、玄武が無事に戻ってくることを祈っておこう。合掌(笑)。