天使の子守唄 真紅の空を翔けあがれact4
嵐の前の静けさならぬ嵐の後の静けさと言うのだろうか。太陰たちが出かけていったあとは嵐が過ぎ去ったかのように静かだ。・・・比喩じゃなくて本当に。
昌浩が大きく息を吐いて縁側に腰掛ける隣に俺もすとんと腰掛ける。ふと気配を感じて首を回せば昌浩にも見えるくらいに神気を強めて顕現した六合の姿。ふっと、六合の胸の辺りに紅いモノが見えた。・・・勾玉?
「・・・・・・六合。」
昌浩も気付いたように六合の方に身体を向ける。向こう側には勾陳が黙ってこっちを眺めている。
「その・・・胸の紅いの、なに?」
「――――預かりものだ。」
「そか。」
それだけ呟いて昌浩は黙り込んでしまった。何か、つらいことを考えているような、そんな表情。
そのとき、不意に目の前を白い物の怪がふと横切る。その目にはなんの感情も浮かんでいない。その姿を見て昌浩の身体がかすかに震える。
「・・・昌浩?」
「・・・なんでも・・・ない・・・。」
「なんでもない、じゃないでしょ。酷いカオしてる。」
俺は横から昌浩の頭を抱き寄せる。
「痛いときは痛いって言っていいんだよ。・・・昌浩が、いつも言ってたでしょ?」
よしよしと頭を撫でてあげても、昌浩は口をぎゅっと結んだまま耐えるような顔をしている。
「・・・まるで月だな。見えても決して近寄れない。」
物の怪・・・騰蛇が消えて行ったほうを眺めて勾陳が呟く。月・・・か。因みに騰蛇は俺たちのことは覚えていた。でもなんかむかつくから「紅蓮と呼べ」って言われても騰蛇って呼んでやるんだー。嫌がっても紅蓮って呼んでやらないんだー。昌浩をいぢめた仕返しじゃー(黒)。
「・・・てかさ、ああシカトぶっこかれるとむかつくんだよね・・・。後で一発ぶん殴ってもいいかな・・・。」
「シカ・・・?まぁやはり腹は立つな。一発くらいはいいんじゃないか?」
あ、いいんだ。勾陳に許可をもらったから後でとっつかまえて殴っておこう。昌浩がちょっと慌てるけどそれくらいじゃ俺は止まらないのさー☆
ふと、勾陳が近づいてきて膝をつき、昌浩の顔を覗き込む。
「熱は内容だが、本当に顔色が悪いな。横になるか?」
「や・・・、大丈夫。ほんとに。」
「・・・明らかに大丈夫って顔はしてないぞ。」
「の言うとおりだ。」
俺と勾陳の集中攻撃に昌浩は無理矢理平気な顔を作る。
「あの、道反の封印は・・・聖域は、あのあとどうなったんだろうか。」
無理矢理話題を変えた昌浩に俺も勾陳も盛大にため息を吐いて、とりあえず気が済むまで付き合ってやることにした。
「ん。だいたいは昔の姿に戻ったらしいよ。俺は昔の姿ってのを知らないけどね。」
「犠牲もあったがね。」
「犠牲・・・。」
勾陳の言葉に昌浩は小さく、低く呟く。
「俺も勾陳も昌浩に同行してたから、詳しくは清明様に聞いたほうが確実だよ?すぐ聞きたかったら玄武が戻ってきたら、なんだっけ?水鏡だっけ?アレで話出来るらしいけど?」
そう訊ねてみれば昌浩の肩がびくりと震える。なにかが、『恐い』んだ。
「そうだな。まだしばらくこちらに滞在しなければならないわけだから、それでも構わないだろう。どうする?」
昌浩が勾陳に答を促された時、何か嫌な気配が身体を貫いた。
何かが来る。獣が駆け抜けるように。勾陳も、姿を消していた六合も戦闘態勢に入る。
「あっちは・・・西?」
「ああ。やや北方よりだ。」
昌浩も気付いたようで、六合に確認すると、肯定の返事が返ってくる。
「・・・・・・速い。」
昌浩が呟いた次の瞬間、
「―――来た。」
森の木の中から、黒い影がとび出してきた。