買い物デート

「…デートしましょう!」
「沙織様、今回は何を思いついたんですか?」

唐突に叫んだ女神に、冷静に対処する
にこり、と微笑んだは、そのまま女神の言葉を待つ。
女神は楽しそうな笑顔を浮かべて、あのですね、と始めた。

「グラード財団で、今度、カップル向けの事業を始めようと思いまして。」
「なるほど、それで、サンプルを集めるためにご自分でデートしてみよう、と?」
「流石です、さん。その通りです。」
「…では、相手は誰に頼みますか?星矢君たちならすぐに連絡が取れると思いますが。」

上司と部下、という関係を崩すことなく二人は会話を続ける。
うーん、と顎の当たりに手を置いた女神を後目に、は、自分の仕事を処理し始めた。
数分後、そうですわ、と今日手を合わせた女神はお姉様、とオフの呼び方でを呼んだ。

「お姉様もデートしてください。ダブルデートというヤツですわ。」
「構いませんが、相手はどうするおつもりですか。」
「お姉様は黄金の中からでも選んでおいてください。」

投げやりな感じで、肩をすくめた女神に、執務室にいる私を含む黄金が視線を交わした。
が、次の瞬間、が衝撃の発言をする。

「なら、一輝君にでもお願いします。」
「あら、一輝に?」
「紫龍君でも、氷河君でも、瞬君でもいいんですけどね。」

にこり、笑った彼女は、そうすれば、沙織様は勿論、星矢君を誘うんでしょう?と首を傾げた。
元々ぱっちりとした目の女神が、更に大きく目を見開く。
それから、何かを言おうとして、無言になって、視線を逸らした。

「なら、わたくしは、お姉様とデートしますわ。」
「…勿論、喜んでお相手させて頂きますよ。」

にこり、綺麗に笑ったは、とんとん、と書類を整えて、女神に差し出す。
確認しておいてくださいね、と笑い、仮眠室に消えた。
女神が静かに私を見る。

「サガ、」
「は。」
「黄金から二人、護衛を選んでおいてください。」

明後日、希望者がいればそれで構いません。
と、続けて、女神は仕事に戻った。

鏡を覗き込んで、髪留めを付け直す。
やはり、これよりも、あちらの方が…と思いながらも、お姉様がくれたこの髪留めがいい、と思った。
アマリリスを象ったこの髪留めは、お姉様からグラード財団の総帥になったときにもらったプレゼントだ。
『誇り』を忘れないで、と。
頑張るさおちゃんは『素晴らしく美しい』から、と。
それから、時々『おしゃべり』しようね、と。
最初カードに書いてあった時は、言葉のまま受け取ったのだが、ひょんなことから花言葉だと知った。
だから、この髪留めは私のお守りであり、私の誓いでもある。
いつか忘れてしまわないように。

「さおちゃん、大丈夫?」
「あっ、はい!お姉様!」

ノックの音が聞こえ、慌てて扉を開く。
と、そこには、七分袖のVネックに、裾の長いベスト、ショートパンツにショートブーツを履いたお姉様。
髪の毛は簡単にバレッタで留めていて、全部を上げていることもあってか、すごく大人っぽい。
元々、私よりも年上で、大人であるのは事実でも、彼女の笑顔はどこか幼くて、可愛らしいのだ。
だからこそ、ふとした拍子の大人には、同性のはずの私までドキドキしてしまう。

「うん、可愛い。あ、その髪留め、使ってくれてるんだ?」

嬉しいな、と破顔した彼女の笑顔は、やはり少し幼くて。
じゃぁ、行こうか、と差し出された手にそっと自分の手を重ねる。
ペンだこができている指に、何とも言えない気持ちが沸き上がってきて、お姉様、と声をかけた。

「ん?」
「…なんでもありません!今日は、何処に連れて行ってくれるんですか?」
「ふふ、そうだなぁ…定番デートコース、かな?」

目を細めて、繋いでいない方の手で、私の頬をくすぐる。
ぎゅ、とお姉様の指に自分の指を絡めて、屋敷の玄関で待っているアイオリアと童虎の元へ向かった。

「今日はリアと童虎さまなんですね。格好いいお二人について来て頂くんですから、頑張らないと。」

悪戯っ子のように微笑んで、それから、さり気なく二人の服装を褒める言葉を続けた。
じゃぁ、行きましょうか、と私の手を引いて、ゆっくり歩き始める。
私の後ろに童虎が、お姉様の後ろにアイオリアがついた。
童虎が話し、お姉様が頷きながら、私やアイオリアに話を振りながら歩いた道は、いつもより短い。
最初に向かったのは、映画館だった。
チケット売り場の前で、お姉様は私の顔を覗き込むようにして、綺麗な笑顔を浮かべる。

「さおちゃんは、ファンタジー嫌いじゃなかったよね?」
「はい!」

頷いた私に、後ろ二人にも同じ質問をした。
二人とも大丈夫だ、と返したことで、彼女は嬉しそうに笑って、売り場に進んで行こうとする。
が、慌ててアイオリアがそれを止め、童虎と私に此処で待っていて欲しいと告げた。
そのまま、二人でチケット売り場に向かい、会計のときにアイオリアが財布を出している。
…ああ、そういうことですか。
そのままチケットを買って、帰って来た二人。
前もってお姉様が予定を考えていたのか、待ち時間は長くない。

「さおちゃんは何か飲み物飲む?あ、ポップコーン食べる?私キャラメルが好きなんだよね。」
「まぁ!」

昔テレビで見た、ポップコーンを抱えて映画館に座る、アレですね。
ドキドキと胸が高鳴るのがわかる。
憧れていたそれのためにポップコーンは必要不可欠。
お姉様はそれがわかっているかのように、私の手を引いて、売店に並んだ。

「じゃあ、烏龍茶とアイスティー2つとコーラ、あと、ポップコーンの塩のMとキャラメルのMください。」

店員さんにそう告げて、お金を払おうとするお姉様。
アイオリアが止めようとするが、お姉様はだーめ、と言いながらにこりと笑う。

「リアはさっきチケット代出してくれたでしょ?だから、此処は私が出すの。」

ね?と可愛らしく首を傾げたお姉様に、目を見開いて真っ赤になるアイオリア。
ぎこちなく一度頷いて、店員さんの差し出してくれたポップコーンとアイスティー1つを持つ。
童虎もポップコーンと烏龍茶を持ち、私はコーラを持った。
お金を払って、ありがとうございます、と店員さんに微笑んだお姉様はアイスティーを手にする。
席に着いた時、お姉様がはい、とブランケットを差し出してくれた。

「足元冷えるかもしれないから。」

それから映画が始まるまで、私たちはどんな映画なのかをお姉様に聞いた。


映画が終わり、未だにドキドキとする胸に手を当てる。

「素敵な映画でした!」
「本当?そう言ってもらえて嬉しいな。」

実は、この映画、私の好きな小説なんだ。
と照れたように笑ったお姉様は、他の二人にも視線を向けた。
アイオリアは途中のヒーローとヒロインのキスシーンでテンパっていたように思う。
あと、童虎がアクションシーンを食い入るように見つめていたのは確認した。
ストーリーについて話しながら、連れられるがまま歩いていると、あるお店に着く。
そのお店は、お姉様曰く、隠れ家的オムライスのお店。
美味しくて、思わず笑みが溢れる。
先ほどの映画の話をしながら、4人で話が尽きない状況であったが、ふと気がついたようにお姉様が立ち上がった。
少しお化粧直してくる、と告げた彼女は数分で帰ってくる。

「さて、と、時間は大丈夫?」

首を傾げたお姉様に時計を見ると、予想外に時間が経っていた。
が、大丈夫です、と告げる。
じゃ、最後、行こうか、と私の手を取って、二人も促した。

「お支払いは…?」
「さっき、お化粧直すついでに払ったから大丈夫よ。」

ふふ、と笑うお姉様に何か言おうとするが、ほら、行くよと手を引かれて、何も言えないままついて行く。
到着したのは、少し広めの公園。

「3、2、1、」

腕時計を見ながらカウントをするお姉様。
その声が、ゼロ、と告げた瞬間、目の前に水が上がる。
水の芸術、というのだろうか、見惚れて何も言えなくなっていると、お姉様がそっと私の頭を撫でた。
芸術は20分程で終わる。
にこり、微笑んだお姉様は屈んで、わたしと視線を合わせる。

「今日は楽しかった?」
「はい!とても、」

ぎゅう、と抱きついて、頷いた。
お姉様は、一瞬固まって、すぐに私の頭に手を乗せてくれる。
表情は見えないけれど、きっと、いつものように、少し幼い綺麗な笑顔で笑っているのだろう。


「あの、お姉様、」
「なぁに?さおちゃん」

帰り道、私は隣をゆっくりとしたペースで歩くお姉様に声をかけた。
甘く、恋人に向けるような笑顔で、首を傾げる様子に、繋いでいた手をギュ、と握る。

「また、連れて行ってくれますか?」

まだ、本当は終わりにしたくない。
そう思うが、私も、彼女も時間に追われた生活をしている。
もし、断られたら、と緊張でドキドキと痛いくらいに心臓が鳴った。
私の言葉にふふ、とお姉様は楽しそうに笑う。

「勿論。」

眩しい程の笑顔は、悪戯っ子のようで、なのに、とても綺麗で。

「今度は、リアと童虎さま無しで、ね?」

魅力的な女性、というのは、きっと、お姉様のことなのだ。
…ヘタな男には、渡せません。
なんて、前々からもっていた考えをもう一度自分に言い聞かせて、私は大きく頷いた。
きゃああああvv毒林檎の恋のそらいろ様より、キリ番のリクエストで「連載主人公で沙織様とデート」というリクエストをしたところこんな素敵なものをいただいてしまいましたきゃーvvありがとうございますーvv闇猫はどうもデートさせるのが好きらしいです本人彼氏いない歴=年齢なのにねー←
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