Bloody Night〜愛が為に〜
「エンヴィー?居るか?」
森の奥に佇む廃墟となった教会に少年の声が響く。少年の名はエドワード。エドはこの廃墟となった教会で、しきりに誰かの姿を探していた。
「エンヴィー?」
「どうしたの?おちびさん。」
何処から現れたのか、後ろには黒い瞳に紫がかった長い黒髪の男が立っていた。
「何処にいたんだよエンヴィー。人が折角来たってのに。」
エドと、エンヴィーと呼ばれたその男は埃をかぶったベンチに並んで腰掛ける。
「ん〜ずっとそこに居たよ?いつ気がつくかなぁって。」
いたずらっ子のように笑う。
「それよりさ。どうしたの今日は。またあの男になんかされた?」
「どうもこうもねぇよ。ロイのやつ、なんか有るごとにエドワードエドワードってしつこいったらありゃしねぇよ。まぁ、いつも最後はリザさんが連れて帰ってくれるけど。」
今日の出来事(主にシツコイストーカーもどきについて)をエンヴィーに一通り話し、大きなため息をつく。
「俺がエンヴィーの仲間だったら、エンヴィーはどうする?」
「?」
「な!なんでもない!!そろそろもどんねぇと、アルが心配する!じゃな!」
エドは自分の言った言葉をかき消すようにあわててベンチから立ち上がり、教会を後にした。
「じゃぁ、俺たちの仲間にしてあげるよ。」
エドがいなくなった教会にエンヴィーの呟きだけが響き渡った。
次の日。エドは何かを考えなえながら買い物帰りの道を歩いていた。
ドン!
「わ!」
前方不注意のため、エドは何かに激突し、反動で後ろに倒れこみ、持っていた荷物を全て道にぶちまけた。
「うわ。やべぇ。」
「大丈夫かい?」
ぶつかったのは人だったらしく、エドがぶちまけた荷物のオレンジを差し出す手があった。
「あ、ありがとうございま・・・す・・・。」
オレンジを持つ人物を確認した瞬間、一瞬エドはフリーズした。そして凄いスピードで荷物をかき集めると、回れ右でその人物から離れようとした。が。逃げられない。
「待ちたまえ。そんな必死で逃げなくてもいいではないか。どうだい、そこの喫茶店でお茶でも。」
などとナンパの典型的な台詞をはくのはロイ・マスタング。エドに猛烈アタックを続けるが、連敗街道まっしぐらである。
「離せ。俺は買い物のの途中だ。」
襟首をつかまれて身動きの取れないエドはあからさまな怒りのオーラを放っている。
「どうせまたさぼってんだろ。仕事しろよ。無能。給料泥棒。」
「まったくエドワード君の言う通りかもしれませんね。仕事をしてください。書類が机から雪崩を起こします。」
ロイの頭の後ろで銃を構える音。ロイの部下、リザ・ホークアイが毎度のごとくロイを迎えに来たらしい。
「わ・・・わかった、今戻る。」
そう言いながらエドの襟首から手を離す。
「では行きますよ。ごきげんよう。エドワード君。」
ズルズルズル・・・
こんな感じでロイは連行されていった。
そして、満月の夜。
エドはなんとなく、あの教会へと向かっていた。別に理由もない。ただなんとなく、教会へと足を進めていた。
「や。おちびさん♪」
教会に入ると、そこには自分が来ることを知っていたかのような口ぶりのエンヴィーがステンドグラスを通して降り注ぐ月明かりを受けて座っていた。
驚くエドにエンヴィーは不敵な笑みを向けながら近づき、耳元でそっと呟いた。
―俺たちと一緒に行こう―
そのエンヴィーの言葉と同時にエドは首筋に鋭い痛みを覚え、気を失った。
「さてと。早く行かないとおばはんが五月蝿いからなぁ〜。」
エドを横抱きにし、教会を後にしようとしたそのとき、
「待て!」
教会の扉が勢いよく開かれた。ものすごい怒りのオーラを背負ったロイがたっている。どうやら一部始終を見ていたらしい。
「そこの男!何者だ!私のエドワードから離れろ!!」
かなりぶちきれる寸前である。
「やだよ♪おちびさんは俺のだもん。それにおちびさんはもう、昼の光の下を歩くことは出来ない。俺たちの仲間になったんだから。」
エンヴィーの言葉が終わると同時にロイの視界は大量の蝙蝠によって遮られた。
そのとき、ロイは一瞬だけ見た。エドの首筋に残る二つの赤いあと。―魔物―ヴァンパイアの印だった。
「エンヴィー。早く行くわよ。」
「へいへい。ったく、おばはんはせっかちで嫌だねぇ。」
「あんた・・・石にするわよ・・・?」
「ラスト〜お腹すいたぁ〜。」
「ほら、早くしないとグラトニーがその坊や、食べるわよ。」
「駄目!おちびさんだけは絶対に駄目!」
「だったら早く行くわよ。グリードがちゃんと獲物見つけてればいいんだけど。」
そんな会話を残し、魔物たちは月明かり降り注ぐ教会を後にした。そして、魔物の一人、ヴァンパイアのエンヴィーの腕の中では、エドワードがとても安らかな寝顔で眠っていた。
fin
Bloody Night二本目。これも前に発行したモノから。
・・・いやぁ・・・泣きたくなりますな。
ちなみに配役(笑)は『愛故に』と同じデス。