Quince Requiem〜act2〜
「君が、助けてくれたのか?」
目を覚ました男は私を見て怯えもせずにそう言ったよ。それだけじゃなく、何で自分があそこで倒れていたかなんて話始めたよ。
話によると男は旅をしていたが、金が底をついて五日ほどのまず食わずでいたそうだよ。挙句の果てに腹の虫を盛大に鳴かせてな。
「あ、あの?」
「ああ、美味いぞ。」
「あ、ありがとうございます。料理なんて九十年ぶりぐらいで心配だったんですが・・・じゃなくて!」
思わず突っ込みを入れてしまったよ。
「人形が動いてるんだぞ?!普通は気味が悪いとか怖いとか思うだろう!?何故そんな平気な顔でぱくぱく食事ができるんだ!!」
「・・・腹が減っているからな・・・。」
その答えに物凄い勢いで脱力してしまったよ(苦笑)。でも、少しだけ、嬉しかった。ずっと孤独で、主人が亡くなってから、
「・・・本当に、私が怖くないのか?」
初めて会った、主人以外で、私に笑いかけてくれる人。
「いや、全く。」
それから男―鏡志郎―は私の暮らす小屋で、一緒に生活するようになった。私は人形だから、食事はしないが、鏡志郎は食べるからな。食材や必要なものを鏡志郎に買いに行ってもらって、私が食事を作る。そんな日が続いたよ。私は楽しかったよ。「おかえり」と言って、「ただいま」と返してくれる声があるというのは、本当に小さいことだけどだけど、本当に幸せなことだと、初めて知ったよ。
「そういえば、いつも迎えに来てくれるが、何故俺が帰ってくることがわかるんだ?」
「においがしたんだ。」
「におい?」
「私は生まれつき鼻がいいんだ。」
そう言ったら笑われたけどな。なんだ、ナナリー。笑うな。本当に鼻がいいんだ。・・・何故かは知らないけどな。
鏡志郎は笑って、私を抱き上げてくれた。そして私の名前―そのときは流々と呼ばれていた―を、呼んでくれた。
幸せだったよ、本当に。化け物と呼ばれていた私が、柄にもなく神に祈ってしまったよ。
―こんな日々が、いつまでも続きますように―
と。