Quince Requiem〜act3〜

そんな日がしばらく続いて、その日私は食事を作りながら鏡志朗の帰りを待っていた。

「ただいま、流々。」
「おかえりなさい。食事はもうすぐできる。なんだか嬉しそうだな。何かあったのか?」
そう尋ねれば微笑んでくれる。
「仕事が見つかった。これで流々に迷惑を掛けなくてよくなると思ってな。」
「お金のことなら心配しなくていいんだ。主人が残していったものだ。人形の私には意味の無いものだし、家事だって、誰かの為にするのだったら、全然、苦ではない。でも、よかったな。」
自分で言っていてなんだか恥ずかしくなったけど、鏡志朗が嬉しいと私も嬉しくなったのは本当だ。
「・・・流々、顔に米粒がついているぞ。」
「え。ど、どこだっ!?」
「違う、そこじゃない。」
ぺろ
「ここだ。」
・・・鼻の頭を・・・なめられた///。ナナリー!笑うな!は、恥ずかしかったんだからな!思わず握っていたおむすびを、落としてしまった・・・。
「では、薪を拾ってくるな。」
そう言って森へ入っていく鏡志朗を見送って、私は本当に、幸せを噛み締めていたんだ。

それから、鏡志朗は昼間、仕事で街へ行くようになった。その間私はまた一人になったが、独りではないから我慢できる。仕事が終われば鏡志朗はまた帰ってきてくれる。だから私は、小屋で一人、鏡志朗の帰りを待っていた。

ある日、ふと、視線を向けた先に、鏡志朗の荷物が置き忘れられているのを見つけたんだ。

「(・・・別に、鏡志朗がどんな仕事をしているか気になるからじゃなくて・・・ただ、忘れ物を届けるだけだから・・・!)。」
そう、自分に言い聞かせて、私は一人で街に行った。
思えば、それはとても軽率な行動だったんだろうな。今思い出すと恥ずかしいよ。

街へ行って、ようやく見つけた鏡志朗は、綺麗な女の子と、楽しそうに買い物をしていた。それを見た瞬間、私は絶望に襲われたよ。そこに私は、決して立つことはできないのだから。そして、思い知らされた。

きゃぁああ!

呆然とする私の後ろで、人間の悲鳴が響いた。
に、人形が動いている・・・!
化け物だ!
こっち来るな!
近寄るな!
いたるところで悲鳴が上がる。

―バケモノ―

そうだ。私は”ヒト”ではない。”ヒト”とは決して相容れることのない、ヒトならざるもの、”バケモノ”なのだ。
「流々?」
振り向けば、そこには驚いたような表情で立つ、鏡志朗の姿。
「流々、どうしてここに?」
そのとき思ったんだ。私は、この人のそばにいてはいけないと。この人のそばにいては、この優しい人まで、人間達に、迫害されてしまう。住む世界が、違うんだと。
「・・・いい思い出を、ありがとう。―さようなら。」
それだけ言って、私は、小屋へ駆け込んだ。

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