オオゾラのうた act7

その夜。ツナは一人で公園にいた。夜、ツナが身支度を整えているとハルから連絡が入り急に予定が入ってしまったとのこと。それを聞いた両親も心配して今日はやめればといわれたが(特に親父がうるさかった)、ツナはそんな両親を押し切って公園に来ていた。が、既にそこには先客がいた。
・・・誰が聞いてもお世辞にもうまいとはいえないような歌を歌っていたが。
それを見てツナはどうしよう・・・と立ち尽くしてしまう。
「(・・・帰ろうかな・・・)。」
そう思って踵を返そうとしたとき、
「う゛お゛お゛い゛。」
おもわずびくりと反応して声のしたほうを見ると、目に入ってくる銀色。
「・・・歌わないのかあ゛?」
声をかけられてはっと我に返ったツナは苦笑して、視線だけ、いつもツナが歌っていた場所で歌っている人物を示せば、スクアーロもなんとなく察したようで。
「・・・ここでないと駄目なのかぁ゛?」
「・・・え?」
「ちょっとつきあえぇ゛。」
「え?」
抵抗する間もなくスクアーロに手を引かれてヘルメットを被されるとそのままバイクに乗せられる。わけのわからないままつれてこられたそこは海の近くの倉庫街。そこではたくさんの人々が各々の音楽を奏でている。その独特の空気に目を丸くして頬を上気させるツナにスクアーロは苦笑する。
「行って来い。」
背中を軽く押されてツナは少し驚いたように振り返るが、スクアーロに頷かれて改めてまだ誰もいない倉庫の前に腰を下ろすとギターを取り出す。最初の観客はスクアーロ一人だけ。だが、ひとたびツナが歌い出せばその歌声に引き付けられるようにして次々に人が集まってくる。いつの間にか別の場所で歌っていたバンドまで加わって。中心で歌うツナは本当に楽しそうで、生き生きとしている。その姿に、なんとなくスクアーロの顔に、柄にもなく笑顔が浮かんだ。

満足するまで歌ったツナとスクアーロは夜の街を回った。昼の太陽の下に出ることの叶わなかったツナにとってこんなにも楽しい時間は初めてだった。見るもの聞くもの全てが新鮮で全てに子供のように反応するツナに、スクアーロも優しい表情を向ける。幸せだった。

だから、忘れていた。ツナは、自分が決して、太陽の下に立つことができないことを。隣で微笑んでくれている人は、太陽の下で、生きる人なのだということを。

やっぱドラマ版より映画版のほうが好き。
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