オオゾラのうた act11
次の日の夜。ツナはいつもの公園にいた。ギターも持たず、ただただ滑り台の上で夜空に浮かぶ満月を見上げる。と
「あ゛。」
「・・・へ?」
ふいに聞こえた声に振り向くとこちらを見上げているスクアーロの姿。その姿を視界に入れたとたん、滑り台から一気に滑り降りると、回れ右をして一目散に駆け出した。一瞬、その素早さに呆気にとられたスクアーロだったが、
「って、う゛ぉぉい゛!」
人の顔見て逃げんな!
追いかけっこ開始。
とはいっても男と女の違いに加えリーチの差もあるためつかまるのは時間の問題・・・というか、
「わわわ!」
「暴れんなぁ゛!」
速攻で捕まった。公園から出る前に捕まった。少し(無駄な)抵抗をしていたツナだが、無駄だと悟って大人しく近く似合ったベンチに並んで腰を下ろす。
「・・・。」
「・・・。」
沈黙が痛い。
「あ・・・あの・・・怒って・・・ます?」
「あ゛?あ゛ぁ病気のことか?んなもん怒って「ごめんなさいごめんなさいごめんなs「最後まで聞けぇ・・・。」
いきなりテンパって謝り始めるツナの頭をぽんぽんとたたいて落ち着かせる。当のツナは「ふえ?」とちょっと涙目になりながら上目遣いにスクアーロを見上げる。
「・・・怒って・・・ないんですか?」
「怒ってなんかねぇ・・・。」
更にわしゃわしゃとツナの頭をなでてやれば、ほにゃん、と笑顔になる。
なんとなく打ち解けた二人はいろいろなことを話した。主にスクアーロが学校のことを、ツナが音楽のことを話すという感じだが、二人ともとても楽しそうだった。そこでふと、
「そういえば今日は歌わねぇのかぁ?ギターも持ってねぇし・・・。」
スクアーロがそう言うと、ツナはすっと、表情を暗くして、少し泣きそうな顔で見上げる。
「・・・もう・・・ギター・・・弾けなくなっちゃった・・・。」
そう言って両手を広げて持ち上げる。
「手が・・・動かなくなってきたんだ。ううん、動くんだけど、やっぱりギターみたいな細かいことは、もう無理なんだ。」
そんな寂しそうな悲しそうなツナに、スクアーロがかけた言葉は、ツナにとっては思いも寄らないもので、
「それでも歌は歌えるんだろぉ?歌えばいいじゃぇかぁ゛。お前は歌が好きなんだろぉ?一昨日、俺はお前が歌っているところを始めて見て、初めて聞いたんだが、歌ってるときのお前も、お前の歌も、俺は好きだぞぉ゛。」
瞬間、ツナの大きな瞳が更に大きく開かれ、ぱちくり、と瞬いた。そして次には面白いぐらいの勢いでボン!と顔を真っ赤にして酸欠の金魚の如く口をパクパクさせている。当のスクアーロも、自分で言った言葉に自分で驚き、それによって面白い反応をするツナに、こっちまで恥ずかしくなる。
「え・・・あ・・・う・・・俺・・・っ!」
「お・・・おちつけぇ゛・・・!」
お前もな。
「そ・・・そろそろ帰るかぁ・・・?」
「え?あ・・・は・・・い・・・。」
まだまだ日の出までは時間があるがこのままでは気まずい。非常に気まずい。
公園から、そんなに離れてもいないツナの家まで、二人は並んで、無言で歩く。家について玄関前に立ったツナを確認したスクアーロが背を向けると、その背にツナの声がかかる。
「あの!」
スクアーロが振り向くと、少し、必死な様子のツナ。
「あの!俺の声、まだ、聞こえてますか?」
一瞬、何を言ってるのかわからなかったが、先ほど聞いたツナの病気の話を思い出して、少し微笑む。
「あぁ、聞こえてるぞぉ。」
「じゃぁ、歌う。俺、歌います!歌えなくなるまで、声が出なくなるまで!」
そう、笑顔で言って。ツナは家に駆け込む。その姿を確認すると今度こそスクアーロはその場を後にする。
空には欠けた月と、無数の星が煌いていた。
あの台詞だけは入れたかったんです。