Love Doll act7
ここまでとはな。
イザークは大きくため息をついた。
最初、キラの入ったトランクを見たときは、なぜ部屋にこんなものがあるのかと眉間に皺を寄せた。次にトランクを開けて眠るキラを見て、その美しさに息を飲んだ。そして目を覚ましたキラの、宝石のようなその瞳に、笑顔にとらわれた。
キッチンで悪戦苦闘しながらクッキーを焼いているキラに視線を向ければ、その視線に気づいたのかこちらに向けてにっこりと微笑む。その笑顔に自分の表情も緩むのを感じて。
「(相手はdollで、男だぞ・・・?)。」
dollと婚姻関係を結ぶことは無くはない。だがそんな中でも、同姓婚というのは、さすがに聞いたことはない。
「(だがまぁ、共にいたいと思うのは、別にいいだろう)。」
自己完結。
「イザーク!できました!」
バスケットにチェック模様や星型、チェリーを乗せたものなどさまざまなバリエーションのクッキーをいっぱいにしてリビングに駆け込んでくる。
「よくできてるじゃないか。」
そう言って差し出されたクッキーをつまめばキラキラとした目で見つめてくる。そんなキラに苦笑しながらクッキーを口に運ぶ。
「うん。うまい。」
ぱぁと満面の笑みを浮かべるキラの頭をなでてやれば猫のように嬉しそうに擦り寄ってくる。
穏やかなとき。
そんな中でも、ふと不安がよぎる。
―キラが、自分から離れてしまったら―
なぜか今日はそんな思いが強く心にのしかかって、思わずキラを抱きしめる。
「・・・イザーク?どうしたんですか?」
驚いたようにキラが声をかけても、イザークはますます強くキラを抱きしめるだけで。そんなイザークを不振に思いつつも、キラもそっとイザークを抱きすめ返す。
「大丈夫です。僕は、ここにいます。どこにも行きません。」
「!」
イザークの心を読んだかのような言葉に驚いて顔を上げれば、アメジストの瞳を細めて優しく微笑むキラの姿。
「僕はイザークが好きです。ただ、僕を目覚めさせてくれたマスターとしてじゃなくて、一人の人として、男の人として、好きです。僕は、dollで、男だけど、それでも、僕は、イザークのことが好きですよ。」
思いもよらないキラからの告白に驚きで固まってしまったイザークからキラはそっと離れる。
「ずっと、言っていいのかわからなかったから。ラクス達に相談したんです。そしたら言った方がいいって言われて・・・。」
気持ち悪いですよね。
そう言って困ったように笑うキラを、イザークは無言で抱きしめる。それに驚いたのはキラ。
「・・・イザーク?」
「いやなわけ・・・ないだろう・・・。」
ぼそりとつぶやくように言われた言葉にキラは一瞬フリーズする。そんなキラの様子もお構いなしにイザークは畳み掛ける。
「俺だってな・・・俺だってお前が好きだ。初めてお前を見たときからずっと。dollだとか男だとか関係ない。俺は、お前が好きだ。」
ギュッと更に力を入れてキラを抱きしめるとキラはそのまま表情を歪めてその大きな瞳から大粒の涙を流す。
「・・・僕は・・・ここにいてもいいんですか?イザークと、一緒にいても・・・いいんですか?」
「いいにきまってるだろう。いやだといっても、お前を手放す気はない。」
ふっと笑うイザークに、今度はキラから抱きついて、大声で泣きじゃくる。そんなキラをなだめるように抱きしめかえして。
「ずっと一緒だ。お前が逃げても、どこまでも追いかけてやる。」
その言葉に、二人はどちらからともなく、微笑いあった。