人魚姫

昔々のお話。海の底には人魚たちの王国がありました。王家には双子の姉弟の王女と王子がありました。
王女の名はカガリ。金の髪のとても強気で活発な姫。
王子の名はキラ。カガリとは違い、亜麻色の髪にすみれの瞳のおっとりとしたとても優しい王子でした。

そんなある日。二人は女王に呼ばれました。二人は何があったのかと女王の元へ行きました。
「カガリ、キラ。二人とも海の上へ出ることを許可します。」
桃色の髪の海の王国の女王はにっこりと微笑み二人に言いました。
「いいのですか?」
キラは嬉しいような困ったような複雑な表情で女王に尋ねます。
「ええ。二人ともこの国を継ぐ者として地上を見てくるのもいいでしょう。」
女王がそう答えると、キラとカガリは顔を見合わせて喜びました。
「ただし。」
はしゃぐ二人に女王はこう言いました。
「私たち人魚の存在は地上の者達には知られてはいけません。行くのは夜。月が満ちてから沈むまでの間だけです。決して、人間に見られてはいけません。いいですね。」
「「はい。」」
キラとカガリは真面目な顔でそう答え女王の部屋を後にしました。

その日の夜。二人は海の上へと出かけました。するとそこには月明かりに照らされた大きな船が浮んでいました。今日はこの国の王子様の誕生パーティーが船上で盛大に行われていました。
「大きな船だねぇ。」
キラの視線は船ではなく船の舳先に立つ人物に向けられていました。そこには退屈そうな表情の銀の髪にサファイアの瞳のとても美しい青年が立っていました。青年の名はイザーク。この国の王子です。キラの視線はその青年に向けられていました。
「キラ?」
カガリの声にも反応はありません。しばらくすると。
ゴロゴロゴロ・・・
急に月明かりを黒雲が覆い隠し、あたりが真っ暗になり雷が鳴り始め、嵐がやってきました。そして海が荒れ始めました。次の瞬間。
「!」
船の舳先に乗っていたイザークは船のゆれに耐え切れず、海に投げ出されてしまいました。それを見たキラはカガリがとめるのも聞かず、イザークの姿を追いかけます。もうすぐ夜が明ける時間です。
「キラ!」

夜が明けました。嵐もすっかり収まり、東の空は朝の太陽の光で明るく輝いています。キラはイザークを浜辺に横たえその隣でじっとイザークの姿を見守っています。
「キラ!」
カガリが心配そうにやってきます。
「あ、姉さん。ごめんね。僕、この人の目が覚めるまでここにいるから、姉さんは先に帰ってて。女王様に怒られちゃうよ。」
困ったように笑ってカガリにそう言うキラをカガリは更に困ったように見つめています。
「ん・・・。」
キラの後ろで声がします。イザークが、気がついたようです。
「あ・・・。」
「ほら、キラ。気がついたみたいだ。目が覚める前に離れよう。あたし達の姿見られないうちに。」
「う・・・うん・・・。」
キラは心配そうに後ろを振り返りながらもカガリの後について海の底へと帰っていきました。
しかし、キラは見られていたのです。朦朧とする意識の中、イザークはキラの姿を見ていました。朝の光を背に亜麻色の髪を揺らす海の妖精のごとき美しいキラを。

それからしばらくキラとカガリは女王に約束を破った罰として一ヶ月ほど外出を禁じられていました。その間もキラはずっとあの銀の髪の青年、王子であるイザークのことを考えていました。
―もう一度、一目でいい。遠くから見つめるだけでいい。会いたい。―
と。

そのころ、イザークもキラのことを考えていました。あの妖精のような美しい人魚。キラにもう一度会いたいと。そして、毎夜海岸に出てキラの姿を探していました。

一ヶ月の後、二人の外出禁止も解かれ、はれて堂々と地上へ行くことが許されました。キラは毎夜毎夜、イザークの姿を、見つからないように見つめていました。その眼差しはまさしく、恋する乙女といった風でした。
 「・・・僕が・・・人間だったらいいのに。」
その姿を見つめるものがありました。海の魔法使い。ニコル。

  次の日の昼のことでした。キラは一人、海の中の散歩をしていました。
「キラさん。」
後ろから声をかけられ、キラは驚いて後ろを振り向きました。そこには海の魔法使い、二コルが若草色の髪を揺らしています。
「えっと、魔法使いさんが・・・僕に何か?」
なぜ、ここにニコルがいて、自分にどんな用件があるのか検討もつかないキラは意味がわからないといった顔でニコルにたずねました。
ニコルはにっこりとキラに微笑みかけてこう言います。
「キラさん。あなたは今、恋をしていますね?そしてその相手は・・・人間。」
キラは驚き、同時に顔を真っ赤にして手で顔を覆います。
「えっと、あの、あの、僕・・・。」
「大丈夫です。僕はあなたに協力してあげようと思っただけですよ。」
ニコルはにっこりと微笑みキラの手を取りました。
「僕の家に来てください。いいものを差し上げます。」

ニコルの家に着くとキラは奥の部屋に通された。そこには何に使うのかわからないビンに入れられた薬草や大きな鍋などが置かれていました。
「キラさん。これを差し上げます。」
そう言ってニコルはキラに小さな小瓶が渡されました。 「これを飲めばあなたは人間になれますよ。ただし、タイムリミットは一週間。その間に両思いになれなかったらそのときはあなたは・・・泡になって消えてしまいます。それ位の覚悟がないと人間に恋なんてする資格はありません。それでも人間になりたいですか?」
キラは渡された小瓶を見つめながら考えます。自分がこの薬を飲めばイザークに会うことが出来る。もしかしたら両思いになることも出来るかもしれない。でも・・・両思いになれなかったら・・・。
「どうしますか?」
キラは何かを決意した瞳でニコルを見つめました。そして。
「いただきます。有難うございます。魔法使いさん。」
「そうですか、では、がんばってくださいね。」
ニコルはそう言って、キラに微笑みかけました。
「あ、そうです。言い忘れていましたけど、薬を飲むときは地上で、誰もいないところで飲んでください。人間になったら水中で呼吸は出来ませんからね。」
「はい。」
キラは薬を持って嬉しそうにその場を後にしました。
「頑張ってくださいね、キラさんv」

   夜、キラは地上に上り、誰もいない岩陰で薬を飲みました。するとみるみるうちにキラのしっぽは細い足に変わりました。そしてキラは白いワンピースを着た遠目から見たら少女かと思われるようなとても美しい美少年へと変わりました。
「うわぁ。本当に人間の姿だぁ。」
キラが感心して、自分の姿をくるくると回りながら眺めていたときでした。
「そこに誰かいるのか?」
後ろから声をかけられ、文字通りキラは飛び上がって驚きました。その弾みで慣れない足だったため着地に失敗し、その場に尻餅をついてしまいました。
そして声をかけてきた人物はキラが会いたくてたまらなかったあのイザークだったのです。キラは顔を真っ赤にして何かをしゃべろうとしますがうまく言葉が出てきません。
「・・・おまえは・・・?」
「えっと、えっと、ぼ、僕はキラといいます。えっと、えっと、あの・・・。」
うまく言葉がつなげないキラを見てイザークは苦笑してキラの手を取りました。
「俺はイザーク。一応この国の王子だ。・・・キラ。行くところがないのなら城に来い。おまえ一人位おく余裕ならいくらでもある。」
そう言ってキラの手を引き抱き寄せます。キラは顔を赤くしたまま目を見開いています。そして。
「・・・は・・・はい!」
嬉しそうに、そう、返事をしました。

    それからキラはイザークの元で暮らしました。毎日毎日が本当に幸せでした。そんな幸せな生活の中でもキラはあのニコルに言われた『一週間』というタイムリミットを忘れていはいませんでした。そして運命の一週間目の日がやってきてしまったのです。

「キラ。」
一週間目の夜。キラとイザークは浜辺を散歩していました。急に名前を呼ばれたキラはびっくりしてイザークを見つめます。
「はい・・・?なんでしょう?」
「一ヶ月と少し前・・・嵐があったのを知っているか?」
キラはびくりとして、体をこわばらせます。
「え・・・ええ。」
イザークはそんなキラも気にかけず、続けます。
「その時俺は人魚を見たんだ。」
キラは『人魚』という言葉に更に体をこわばらせ、思わず足を止めてしまいました。
「へ・・・へぇ・・・。人魚・・・なんて、本当にいるのですね。」
そんなキラにイザークは自分も足を止めまっすぐにキラを見つめます。
「・・・俺はずっとその人魚に会いたいと思っていた。」
「思っていた・・・今はもう会いたくないのですか?もし、今目の前にその人魚がいたとしてもなんとも思わないのですか?」
キラは今にも泣き出しそうな顔でイザークに言う。イザークはそんなキラに微笑みかけ、こう答えました。
「もう、目の前にいるからな。キラ。おまえが、あのときの人魚なのだろう?」
イザークはそう言ってキラを抱きしめます。キラはすみれの大きな瞳から涙を流し続けています。
「会いたかった。キラ。あの岩場でお前を見つけたときからおまえがあのときの人魚ではないかとずっと思っていたのだ。この一週間、おまえと暮らして確信した。おまえはあのときの人魚だ。」
キラはまだ涙が止まりません。嬉しくて嬉しくて・・・気づいてもらえたことが、それだけで本当に嬉しかったのです。もう、泡になって消えてもいいとさえ、思ったほどです。しかし、キラに、更に嬉しいことが起こりました。
「キラ・・・確信したら言おうと思っていた。・・・俺の・・・妃になってはくれないか・・・?」
キラは嬉しくて声も出ません。ただただイザークの服を握り締め、涙を流します。そして、ようやく落ち着くとキラはイザークのサファイアの瞳をしっかりと見つめてこう、答えました。
「はい!喜んで!」
すると、海の中からニコルが現れました。キラが驚いてニコルの姿を見つめていると、後ろから女王とカガリも現れました。
「おめでとう。キラさん。はれてあなたは人間です。」
ニコルがにっこりと微笑み、そういいます。女王とカガリは抱き合うキラとイザークを見つめています。そしておもむろに女王が言葉を発します。
「キラ。」
「は、はい。」
急に呼ばれた自分の名前にちゃんと反応することが出来ず、驚きながら返事をします。
「あなたは・・・本当にこの人と地上で暮らしたいのですか?」
「はい・・・僕はここで・・・地上でこの人と幸せになりたいです。」
女王はにっこりと微笑み、こう言いました。
「いいでしょう。キラ。地上で、幸せになりなさい。」
女王のその言葉にキラは満面の笑みで答えます。
「人間。」
カガリがにらみつけるような視線でイザークを見つめます。
「なんだ。」
イザークもそれに負けじと睨み返します。
「キラを・・・弟を幸せにしろよ。」
そう言って、顔を背けます。
「あたりまえだ。」
イザークはふ、と笑うと、キラを強く抱きしめます。キラはそんなイザークとカガリに少し照れくさそうに微笑みます。
「さぁ、私たちは戻りましょうか。」
女王のその一言でニコル、カガリ、そして女王の三人は海の方に向き直り、そして最後に
「キラ、幸せにおなりなさい。」
そう、言い残して、海の底へと帰っていきました。残されたキラとイザークは顔を見合わせ、そして、
「俺たちも城へ戻ろう。母上にこのことも報告しなくてはいけないしな。」
「はい!」

その後、キラとイザークは国中に祝福されながら結婚し、幸せに暮らしました。
そしてこの国には伝説が残りました。それはこのようなものでした。
―この国の王家には人魚の血が流れている。―と・・・。
fin

昔々に書いたもの発掘。
人魚姫パロディです。
イザキラです。アスランはかけらもでてきません(酷)。
多分最初は出そうと思ってたと思う(え?)。
でも結局でてこれなかった哀れな人(苦笑)。
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