10.ごきげんよう

「ご・・・ごきげんよう・・・?」
「なんだか・・・ぎこちないですわね。」
女子寮の一室。カガリはぎこちない動作であいさつを披露する。
「もう少し自然な感じにしませんと・・・。」
「そ・・・そんなこといわれても・・・慣れてないんだ・・・こういうの・・・。」
しゅんとうつむくカガリにラクスはう〜んとため息をつく。
「もう一度私がやってみますから、よく見ててくださいね?」
「あ・・・あぁ・・・。」
そういってラクスは座っていた椅子から立ち上がる。
「ごきげんよう。」
そしてふわりと自然な動作でお辞儀をしてみせる。
「さぁ、カガリさんももう一度やってみてくださいな。」
「え!あ・・・うん。」
カガリは緊張したようにピンと立ち、
「ご・・・ごきげんよう。」
お辞儀。・・・やっぱりぎこちない。更に顔も引きつっている。
「やっぱりぎこちないですわね。」
ラクスの駄目だし。
「だ――――!やっぱり私には無理なんだ・・・。”清楚でおしとやかなお嬢様”になるなんて・・・!」
叫びながらベッドにダイブ。そんなカガリにラクスは強い口調で言う。
「そんなこといってますと、アスラン、誰かに持っていかれてしまいますわよ。それでも宜しいんですの?」
「そ・・・それは・・・いやだ・・・。」
「なら特訓ですわね。私とキラが協力するんですから絶対にくっついていただきますわよ。」
ラクスは楽しそうに微笑む。

カガリは男子部のアスラン・ザラに片思い中。そこでカガリは男子部に通う弟のキラがアスランと同じクラスだと知り、アスランの情報を集めてもらった。
するとアスランの好きな女の子のタイプは”清楚でおしとやかなお嬢様”タイプだとのこと。
どちらかというと男なさりな性格で”女子部の王子様”などと下級生から慕われているようなカガリはキラの彼女であり、生粋のお嬢様、ラクス・クラインに助けを求めたのである。

「創立記念日の合同パーティまであと一週間。それまで毎日練習ですわよ。」
なんだかものすごく楽しそうなラクスにカガリは苦笑を返すのが精一杯だった。

一週間後。私立SEED学園創立記念日。この日は男子部、女子部合同でパーティが開かれる。もちろん正装。男子はタキシード。女子はドレス。もちろんカガリも着慣れないドレスに身をつつみ、緊張した面持ちでラクスと共にホールに立っていた。
「さ、カガリさん、ファイトですわ!」
「う・・・うん・・・。」
この一週間、毎日カガリの部屋でラクスによる”お嬢様特訓”がされ、微妙に不自然ながらも何とか形にすることは出来ていた。

「キラ。」
「あぁ、ラクス、カガリ。」
早速アスランとキラが一緒にいるのを見つけ、ラクスが声をかける。
「あ、アスラン、彼女はラクス・クライン。僕の彼女だから手、出さないでね。で、こっちがカガリ・ユラ・アスハ。僕の姉だよ。」
「あぁ。俺はアスラン・ザラ。キラのクラスメイトだ。よろしく。」
キラに続いてアスランが自己紹介する。
「ごきげんよう。アスラン。ラクス・クラインですわ。」
そして
「ごきげんよう。カガリ・ユラ・アスハと申します。」
カガリも何とか”お嬢様”風に挨拶をクリア。
「じゃ。アスラン。カガリのことよろしくね。」
「は?」
「え?」
アスランとカガリは二人して間抜けな声を出してしまった。
「だって僕はラクスをエスコートしなくちゃいけないからね。カガリは大事な姉だからしっかりエスコートしてあげてね。じゃ、行こうかラクス。」
「ええ。キラ。」
去っていくキラとラクス。ふと振り向いたらクスの口が
「(がんばってくださいね。)」
といっているのを見てカガリは少し不安を覚えた。

二人がいってしまったあともしばらく呆然としていたアスランとカガリだが、何とか我に返ってお互いを見る。
「・・・行こうか。」
「あ・・・はい。」
何とか必死で”お嬢様”を演じるカガリ。そんな二人を実はキラとラクスは遠くで観察していたのをまだ知らない。

なんだか気まずい雰囲気が流れる中アスランとカガリはバルコニーで夜の庭を眺めていた。
「なんだか・・・すまないな。」
「え?」
行き成り謝られてカガリは驚く。
「いや・・・俺なんかより・・・エスコートしてもらうのにふさわしい人間がいるだろう・・・だから・・・。」
なんだか恥ずかしそうにアスランは頭を掻く。
「いえ・・・そんな・・・あの有名なザラ財閥のご子息にエスコートしていただけるなんて光栄ですわ。」
ニッコリと微笑みながら自分で自分の口調に鳥肌を立てつつ必死で”お嬢様”を演じ続けるカガリ。少しだけ微笑ましい空気が流れる。そのとき、
「カガリ――――――――――!」
「「!!」」
カガリの名を絶叫しながら誰かが突進してくる。
「カガリー!僕をおいてどこへ行ってたんだよー!」
「ユウナ!」
突進してきた人物はそのままカガリに抱きつく。
「は・・・離れ・・・ユウナ!」
「僕と君は将来を誓い合った仲じゃないか!恥ずかしがることはないよ!」
「それは幼等部のころの話だろう!それに婚約は解消したはずだ!」
「カ・・・カガリ?」
思わず素がでてしまってカガリははっとする。
「あ・・・アスラン・・・これは・・・。」
「カガリ〜。」
ぷち
それでもしがみついたままのユウナにカガリは切れた。
「いいかげんにしろ!ユウナ!」

ドコ

カガリの鉄拳がユウナの顔面に炸裂した。
「う・・・!ひ・・・酷いよカガリ・・・!」
「うるさい!めそめそするな!私はお前のことなんかどうも思っていないんだ!迷惑だ!」
はぁはぁと肩で息をしながら怒鳴る。すると物陰からふと二人の人物が現れる。
「キ・・・キラ?ラクス・・・?」

ガシ

「え?」
「あらあら。お二人のお邪魔をしてはいけませんわね。」
「そうだね。」
そう言いながら黒いオーラを発しつつ、キラとラクスはユウナをどこかへ引きずっていった。
余談だが、次の日ユウナは高熱を出して部屋で寝込んでいたらしい。
そんなこんなでユウナのせいで折角”お嬢様”を演じていたのに思いっきりばれて素を出してしまったカガリは黙り込んでうつむいてしまった。
「えっと・・・カガリ・・・?」
「あ・・・あはははは。」
「?」
急に笑い出したカガリにアスランは首をかしげる。
「やっぱり・・・私には無理だったんだ・・・”お嬢様”なんて・・・。折角好きな人のためにがんばったんだけどな・・・。」
「え?」
「アスランもこんながさつな男女・・・嫌いだよな・・・。ごめんなさい・・・。」
カガリはそう叫ぶとその場から逃げ出そうとする。
「待て!」
が、アスランに腕をつかまれてそれを阻まれる。
「は・・・離せ・・・!」
不意にアスランに抱きしめられる。
「な!」
「・・・俺のことを好きだというのは本当か?」
「え・・・あ・・・うん・・・だが・・・。」
「俺もお前が好きだ。」
「え?」
行き成りの告白にカガリは戸惑う。
「だ・・・で・・・でもアスランは”清楚でおしとやかなお嬢様”みたいのがタイプだって・・・。」
「いや、まぁ。そうだが・・・前から女子部でお前は有名だったんだ・・・それで・・・ずっと気になってて・・・今日初めてみて・・・一目ぼれというか・・・。」
真っ赤になって話すアスラン。カガリはというともう、信じられないといった顔で目を丸くしている。
「俺のほうから言う。俺と・・・付き合ってくれ。」
「!・・・あ・・・ああ・・・。」
カガリは嬉しそうに目に涙を浮かべながら微笑んだ。

次の日二人が学校へ行くと、すでに二人が付き合い始めたという話は全校生徒になぜか知れ渡っていた(犯人はキラとラクス)。

キラ様メインのはずなのにアスカガ(ちょいキララク)になってる・・・!
あがあが・・・。ご・・・ごめんなさい〜!
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