15.Angels[前]

「初めまして、イザーク・ジュールさん。僕は天使見習いのキラです。」
気が付けば、少年がそこに立っていた。
「・・・。」
「あなたを幸せにするために来ました。これからよろしくお願いします。イザークさん?」
純白の翼を広げ、満月の光を背に受けた、まだ幼さが残る顔の少年が、そこには立っていた。アメジストの瞳のその少年は、満面の笑みでニッコリと微笑む。
「・・・俺は夢を見ているのか・・・。」
イザークは、目の前に天使が現れたなんて信じられないといった顔でベッドにもぐりこんだ。
「イザークさん!ちょっと、寝ないでくださいよー!」
イザークの耳元で少年が叫ぶ。イザークはそれを無視して眠りに付いた。

「・・・。」
イザークは良く寝たのか寝不足なのかよくわからない頭で目を覚ました。
「おかしな夢を見た・・・。」
「どんな夢ですか?」
「俺を幸せにするために来たとかいう天使見習いのキラとか言うガキが・・・は?」
イザークは声がしたほうを見た。そこには夢だと思われた天使がなぜか裸にフリフリのエプロン姿でたっていた。しかも背中には純白の羽が広がっている。
「夢じゃないですよ・・・?それvv」
イザークは頭を抱えた。
「・・・夢じゃないのはわかった。わかったからとりあえず服を着てくれ。あと翼はしまえるのか?しまえるのならしまってくれ。うっとおしい。」
天使の少年は少し困ったような顔をしてイザークのほうを見る。子犬のような表情だ。
「早く服を着てくれ。」
「この格好、嫌ですか?」
なんでだかわからないという顔で首をかしげる。
「アスラン・・・友達がこういう格好をすると男の人は嬉しいって・・・。」
どんな友達だ・・・。
イザークは眉間に皺を寄せる。
「少なくとも俺はあまり嬉しくない。早く服を着てくれ。」
「はい・・・。」
少年は大人しく返事をすると、右手を上げた。イザークが何をするのかと思ってい見ていると、少年の体を光が纏い、次の瞬間には昨晩の少年の姿があった。
「これでいいですか?」
「ああ。」
少年は満面の笑みを浮かべる。
「では。改めまして。僕は天使見習いのキラといいます。正天使になるための最終試験であなたをクリスマス・イヴまでに幸せにするために来ました。これからイヴまでよろしくお願いします。」
そういってぺこりと頭を下げる。イザークは何を言っているかわからず、黙っていた。しかし、なんだか焦げ臭い臭いが漂い始めた。隣の部屋から煙まで出ている。
「・・・おい。」
「はい?」
「焦げ臭い。」
イザークの言葉にキラは一瞬固まった。
「わ――――――――!!」
叫びながらキッチンへと走っていった。
「あ――――!目玉焼き―――――!」
キッチンから叫び声が聞こえる。イザークはベッドから立ち上がり、キッチンへと向かった。ダイニングテーブルには焦げたトーストに、何が入っているのかわからないサラダ。なぜか豆まで入ったコーヒー、そしてフライパンに焦げ付いたままの目玉焼きが異様な雰囲気を放って並んでいた。何がしたかったのかわからない。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさぁーい!」
キラは涙目になりながら頭を下げる。イザークはもう怒る気も失せたように頭を抱える。
「もういい。あとは俺が片付ける。おまえは何もするな。」
「え・・・でも・・・。」
「いいから。おまえはなにもするな。」
「はい・・・。」
キラは申し訳なさそうに返事をすると、部屋の隅でおとなしくなった。イザークは謎の物体と化した、元朝食(?)だったと思われるもの達を片付け、部屋に戻り、身支度をして出てきた。
「・・・どこかへ行くんですか?」
「これから大学だ。おまえは・・・。」
「僕も行きます!」
イザークの頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。イザークはキラに何度も「来るな」と言ったが、聞くはずもなく。時間ぎりぎりまで説得したが、キラは諦めなかった。
「・・・ついてきてもいいが、その格好はやめろ。目立つ。」
キラの格好は白い、まさしく、御伽噺に出てくる天使の姿だ。嫌でも目立つ。
「俺の服を貸す。着替えろ。」
イザークはトレーナーとジーパンをキラに渡した。やはり、イザークの服はキラには大きかったらしい。裾を引きずっている。イザークはため息をつきながら服の裾を調節してやった。
「あ・・・ありがとうございます・・・///」
キラは真っ赤になりながらイザークに頭を下げた。時計を見るとぎりぎりどころの騒ぎではない。イザークは無言で家を出ると行き成り走り出した。

以前書いた天使モノを一部手直ししたものです。
長いので分けました。
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