15.Angels[中]

そしてイザークはなんとか講義には間に合った。行き成り走り出したイザークを追いかけるキラが、『瞬間移動』なんてものを発動させたのだ。ただし、行き成りだったので、大学の敷地に移動できたのはいいが、木の上に出てしまった。再びキラはすごい勢いで謝った。イザークのほうは呆れて起こる気も失せたと言う感じで、無言で木を降りた。
そのあと。キラは本当に目だった。見慣れない少年が大学の敷地内にいればそれはそれで話題にもなるだろう。しかし、キラはそれだけでは済まなかった。キラは「かわいい」という言葉を人の形にしたような容姿だ。女子も男子もキラの元へやってくる。
イザークは、最初の講義はキラをどこかで待っているように言う暇もなかったので連れて行ったのだが、ものすごい人に囲まれて思いっきり眉間に皺を寄せていた。
〈キーンコーンカーンコーン〉
「キラ。」
「はい!」
呼びかけるとキラは満面の笑みで応える。まるでご主人様に使える忠犬のようだ。
「俺はまだ講義がある。鐘が鳴ったら今日着いた木のところに居ろ。迎えに行く。」
イザークはそれだけ言うと、次の講義へ向かった。
「はーい!いってらっしゃーい!!」
後ろのほうでキラの叫ぶ声が響いていた。イザークは、
(なんで俺はあんなやつのことを気にしているんだ・・・。)
内心、そんなことを思っていた。

〈キーンコーンカーンコーン〉
イザークは講義が終わると、木のところへ向かった。そこには待ちくたびれて眠ってしまったらしい、やすらかな寝顔のキラの姿があった。
「キラ。」
イザークが声をかけるとキラは眠い目をこすりながら目を覚ました。目に前にいるのがイザークだとわかるとご主人様の帰りを待つ子犬のようにイザークに飛びついた。
「・・・帰るぞ。」
「はい!」
キラにシッポがあったら、ものすごい勢いで振られていただろうと思われるくらい、嬉しそうにイザークの隣をキラは歩いていた。

それからはわりとイザークはキラとの生活を楽しんでいた。子犬のように擦り寄ってくるキラを、イザークは愛おしく思い始めていた。

十二月二十四日。クリスマス・イヴ。その日は珍しくキラは家で留守番をしていると言った。イザークは一人で大学の講義を受けに行き、なんとなく物足りなさを感じながら、帰り道を歩いていた。
ケーキ屋の前。さすがクリスマスと言うだけあって、『クリスマスケーキ販売中』という張り紙が張ってある。イザークはキラにケーキでも買って行ってやろうとおもい、ケーキ屋へと入っていった。
「お。イザークじゃねぇか。珍しいな。おまえがケーキ屋にはいってくるなんて。」
そこにいたのはサンタクロースの格好をしたディアッカ・エルスマン。イザークの悪友である。
「・・・あぁ、キラに買って行ってやろうと思ってな。」
ディアッカは明らかに意味がわからないと言う顔をした。
「なぁ。嫌って誰だ?まさかお前の彼女か?」
その言葉にイザークがクエスチョンマークを浮かべた。
「何を言っている、貴様。キラはキラだろう。」
「は?だからキラって誰だよ。」
その瞬間、イザークは不安を覚え、買ったケーキも受け取らずに走り出した。
「おい!イザーク!ケーキどうすんだよ!?」
後ろでディアッカが叫ぶ声もイザークの耳には入らなかった。

「キラ!?」
飛び込んだ部屋にキラの姿はなかった。
(どこかへ遊びに行っているんだ。そのうち帰ってくる。)
イザークはそう自分に言い聞かせた。今までキラが無断で外出するなんてことは一度もなかった。キラのあの性格上、ありえない。ありえないことだから、イザークは自分に言い聞かせていた。キラは帰ってくると。
しばらくして玄関のチャイムが鳴った。
「キラ!?」
イザークは勢い良く扉を開けた。しかし、そこにいたのはディアッカだった。
「貴様か・・・。何の用だ。」
あからさまに嫌そうな顔をするイザークに、ディアッカはケーキの箱を押し付ける。
「別に。お前が忘れていったケーキ、届けに来てやっただけだ。じゃあな。」
そういってディアッカは帰っていった。

後もう少し・・・!
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