15.Angels[後]

イザークはリビングに電気もつけずにいた。何時間も何時間も。キラを待ち続けていた。
(なんで俺は・・・待っているのだ・・・。)
そんなことを考えながらも待ち続けずにはいられなかった。
〈コト〉
隣の部屋で音がした。イザークが隣の部屋の扉を開けるとそこには窓から差し込む月の光を浴びて、純白の翼を広げた雨ジストの瞳の天使が微笑みながら立っていた。
「!」
イザークは思わずキラを抱きしめていた。
「・・・イザークさん、苦しいですよぉ。」
その声にイザークはキラを開放してやった。キラはニッコリと微笑み、子犬のような人懐っこい瞳でイザークを見上げた。
「勝手にいなくなるな。」
「すみません。天使長様に呼び戻されてしまって。」
「天使長?」
イザークはいぶかしげな表情でキラを見つめた。
「はい!僕ら天使の中で一番偉いお方です。」
キラは嬉しそうに天使長について語っている。イザークは笑顔で語るキラを見つめる自分がいつの間にか微笑んでいることに気が付いた。
「で。」
「はい?」
「呼び戻された理由が出てこない。」
イザークがそういうと、キラは少し寂しそうな顔になった。
「天界に帰って来いと言われました。試験は今日で終了だからって。」
イザークは驚いた。驚いて言葉が出なかった。
「ですから、天使長様に頼んで、お別れを言いに来たんです。他の方々は天使長様が記憶を消しました。でも、イザークさん。あなたには忘れて欲しくなかったんです。だから・・・。もう・・・行きますね。さようなら。僕、あなたのことが好きでした。最初に会ったときからずっと。」
キラは必死で笑顔を作っていたが、その瞳には大粒の涙が光っていた。イザークはその瞳を見て部屋を出ようとするキラの腕をつかみ、引き寄せた。
「行くな!」
キラは涙でぬれた瞳を白黒させてイザークを見上げた。
「行くな。キラ。ずっとここに居ろ。」
「・・・でも僕、何もできないし。迷惑かけてばっかだし・・・。」
キラは戸惑いながらイザークを見つめる。
「迷惑じゃない。俺はお前といる時間が幸せだった。だから、おまえはここにいて欲しい。」
キラの大きな瞳から涙がこぼれる。
「こ・・・ここに・・・僕もここにいたい・・・!ずっと・・・!ずっと!!」
「あぁ、居てくれ。ずっと・・・。」
「うぁ・・・。」
大粒の涙をこぼすキラをイザークはきつく抱きしめた。

「キラ。」
突然、少女の声が響いた。二人が振り向くと、そこには、桃色の長い髪に純白のドレスを纏い、同じく純白の翼を広げた少女と、キラと同じ服に純白の翼、エメラルドの瞳の少年が立っていた。
「天使長様。アスラン。」
「キラ、あんまり帰りが遅いから迎えに来たよ。一緒に帰ろう。」
エメラルドの瞳の少年がキラへと手を差し伸べる。キラは少し困ったような表情で少年を見つめ、そしてイザークの服をつかんで少年に向かっていった。
「アスラン、僕、行かない。」
イザークはアスランと呼ばれたエメラルドの瞳の少年を睨むように見つめた。アスランのほうもイザークを睨みつけている。
「キラ。」
桃色の髪の少女がキラに声をかける。キラは一瞬体をこわばらせた。
「あなたは・・・ここに残りたいのですか?」
キラは一瞬戸惑いながらも、「はい」と応えた。桃色の髪の少女は楽しそうに微笑んだ。
「そうですか。では、キラ。あなたは堕天使となってもここにいたいですか?」
「え・・・!?」
キラは戸惑う。
「冗談ですよ。あなたはもう、正天使ですからね。自分の居るべき場所は自分でお決めなさい。」
少女は微笑む。キラは大きな瞳を更に大きくして、満面の笑みを浮かべた。
「ラクス様!」
そのとき、アスランの声が響いた。
「そんな!試験が終われば天界へ戻るとのお話ではありませんか!」
アスランはどうしてもキラを連れて帰りたいらしく、ラクスと呼ばれた少女を説得し始めた。時折、イザークのほうを睨みつけている。
「いいではありませんか。キラはここに居たいと言うのですから。私の命令は絶対ですわよ?」
顔は微笑んでいるが、「てめぇ、ぐだぐだいってんじゃねぇよ」的なオーラを発するラクスにアスランもこれ以上は無意味だと悟ったらしく、おとなしくなった。
「イザーク・ジュール。キラをお願いしますわね。」
それだけ言うと、ラクスはアスランを伴い、部屋から消えた。
そのあと、イザークとキラは買って来たケーキを微笑みながら食べていた。

次の日はいつもどおりだった。イザークが目を覚ますと、隣ではキラが寝息を立てていた。イザークはその姿に安心感を覚え、キラを起こさぬようベッドから出ると朝食の準備をした。
大学も、いつも通りだった。皆、キラのことを「知っている」。だが、一つだけ、、いつも通りではないことがあった。
「キラ!」
「ア、アスラン?!」
キラの友人、アスランが大学の敷地内にいる。
「アスラン!どうしてここにいるの?!」
今にもキラに抱きつきそうな勢いのアスランを止めるべく、キラの前に立ちはだかるイザーク。そのイザークの後ろからひょっこり顔を出してキラはアスランに聞く。
「ラクス様にお願いしたんだ!俺も正天使だからな!自分の居場所は自分で選びたいって!」
そういってイザークのほうを睨みつける。
「と言うわけだから、イザーク・ジュール!キラは俺のだ!おまえみたいなおかっぱになんか渡さない!」
宣戦布告だ。
「じゃぁ、キラ。俺はこの辺で失礼するよ。またね。」
アスランはキラのほうを向いてニッコリと微笑むとどこかへ走り去った。
「・・・イザーク・・・さん?」
アスランの走り去ったほうを険しい表情で見つめるイザークを、キラが心配そうに覗き込む。
その日から、イザークとアスランの『キラ争奪戦』が始まったのだった。

Happy End・・・?

ラクス様は絶対です(笑)。
そしてアスランはキラのストーカー(笑)。
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