う゛ぁんぷ!2

群れの群れだと雑踏を疎ましく思いつつ、注文していた本やらを手にした雲雀は、雑踏の中ふと足を止めた。
「…沢田 ツナ?」
「…ふえ?」
 呟きに近い声だったが、ぽややんとした割に五感は鋭いほうらしい少女は雲雀の方を直ぐに見る。
「あっ!!」
 只でさえ大きな双眸を瞠って、あんぐり小さな口をぽかんと開いた様子は、ちょっと間抜けだが可愛らしい。
 小柄とはいえ腰まであるふわふわの琥珀色の髪を今日は下ろして、ヒラヒラのワンピースとマッチする可愛らしいカチューシャで飾っている。フリルとピンタックとリボンたっぷりの乙女というかロリータというかという感じのワンピースを纏った少女は、ぱっと微笑み、駆け出した。
「ひーばりさーん」
 てってってっと駆けてくるその危なっかしさに、雲雀ですらもはらはらしてしまう。
 どうして鈍臭いのにこうもちょろちょろと動くのだろうこのちびっこは―――ぽふんと抱きついて来たツナに思う。
 揺れる髪が、柑橘系に甘さをもう一加えした良い匂いをさせる少女は、にこにこ見上げてくる。
 これを見て可愛いと思わぬ人間はいるだろうか―――いやいるまい。
「こんにちは、ひばりさん!」
「うん」
 甘いソプラノに応えて、柔らかな髪をふわふわ撫でた雲雀は、冷やかと燃えるような、二種類の鋭い殺気に少女の肩を守る様に抱いて構えた。
「ふえ?」
 雲雀の左腕によって胸に抱き寄せられた小柄で華奢な少女は、ぱちくり瞬いた。
 鋭いかと思うと鈍いツナは、あっと声を上げた。
「リボーン、ザンにぃ!」
 一緒に居たの忘れてた!―――と言った少女の言葉に、「駄目ツナが」と蟲惑的なテノールが言う。
 現れたのは、共に黒髪だが一目にヨーロッパ系と判る男達。
「瘤つきとはいえこの俺様とのデートの途中で、他の野郎のとこいってんじゃねーよ」
 艶やかなテノールで言って、髪と同様切れ長な漆黒の双眸の映える白皙の美青年は、ツナの柔らかな髪を一房掬い取り、ちゅっとキスする。
 先だって、ジョットに呼ばれて『貧血』で倒れたツナを迎えに来たため見知った彼に、雲雀は端麗な美貌を顰めた。これは敵だと、ファーストコンタクトから感じていた事も勿論ある。
「…誰が瘤だ、カス」
 口悪く言うのは、ジャジーな低音。
 小麦色した肌の彼は、水色のサングラス越しで瞳の色は定かではないものの、強面系だが矢張り大層整った容貌をしている。
 先の青年リボーンが万人受けするハンサムだとすると、こちらは癖はあるものの一部に強烈にうけるタイプだろう。
 それなりに長身の雲雀でも見上げる大柄な彼は、リボーンに対抗するように身を屈めて小柄な従妹のマシュマロめいた頬にチュッとキスする。
 流石にヨーロッパ系と言った所か、慣れている様でツナはきゃっとくすぐったがったものの、お返しに美丈夫の精悍な頬に挨拶代わりのスキンシップを返す。
 それにむぅっと顔を顰めて、雲雀はツナをほきゅっと肩から抱き竦める。
「…ツナ」
「ん?どしたの、リボーン」
 雲雀の腕の中、こてっと首を傾げるツナに、リボーンは溜息を吐いた。
「…見た目は兎も角それなりの歳なんだから、もうちっとは危機感持て」
 育ての親にも等しい兄の養育係の言葉に、少女は更に逆に首を傾げた。

「…あの野郎何者だ?」
 ザンザスは低音で言った。
 その元より視線だけで人を殺せるといわれる強面の顔が湛える凶悪な面相に、堪えるような繊細な機微の持ち主は現状居なかった。
「春巻きに小龍包に海老蒸し餃子に酢豚に海老チリだー♪」
 ちんまいしどちらかというと小食な方(甘い物は別腹)だが、割と食いしん坊なツナは、中華尽くしな本日の夕食にわぁいと諸手を上げて喜んだ。
 因みに純和食だろうがトルコ料理だろうがハワイアンだろうが、美味しいものさえ出てくれば文句を言わない程度には雑食である少女は、嬉々としてぽてぽて食卓へと走り向う。
 それに待ったをかけ、ザンザスは冒頭の如く聞いたのである。
 製作者の権限として、それに答えない限り何人たりとも喰わせねぇぞと、その目線が語っていた。
「うにゅ〜〜〜〜…っ」
 美味しそうな良い匂いをさせた御飯を前に、待ったをかけられ取り押さえられた少女は、見るからに物悲しい顔をして指を咥える。
 くぅぅぅ…と、そのお腹が物悲しく鳴った。
 ほこほこ湯気を立てる炒飯とデザートの杏仁豆腐に、じゅるり涎を垂らして物欲しそうにロリロリの少女はガン見している。
「…なんのことだ?」
 食欲に負けて、従兄に問い掛けたジョットに、斯く斯く然々とザンザスは言って。
 それでやっと如何云うことか解ったか、ツナは言った。
「雲雀さん、学校の先輩?ですよ」
 あの様子でか?―――と顔を顰めるザンザスに、ジョットがフォローを入れる。
「…オレ達のことを知っている。そして、ツナに血を飲ませた。」
「ああ?」
 一族の者としては掟違反もいいところのとんでもない発言に、さしもの強面兄さんも驚きを隠せない。
 その腕の中でむーむー抗議に呻いていたツナは、ほややんと言った。
「雲雀さんの血、美味しかったのー。なんかね、ジョットが濃縮還元だとするとー雲雀さんのは果汁云%って感じでー」
「…その例え止めてやれ」
 溜息交じりのリボーンの言葉に、何でと首を傾げる少女は、矢張り色々判って居なさ過ぎると身内の男どもは深深溜息を吐いた。
 ならと、そう言われてツナは言った。
「んじゃあー、カルピスの原液とちょーどいい濃さ〜」
 どこまでいっても食べ物でしか例えられそうに無いツナに、育て方間違ったかとリボーンは疲れた溜息を吐いて、ザンザス共々晩酌の上海ビールを煽った。

絶賛日参中な携帯サイト雪月花の雨里様からキリリクでいただきました。「ヒバツナ♀吸血鬼パロの続きでリボ様とザンザス様もご登場」というリクエストでした。あーもう!ほわほわしたツナって何でこんなに可愛いんだろう・・・!!(落ち着け)。

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