1/3の純情な感情
リング戦に敗北して後、組織としてのヴァリアーは君主たる九代目に弓引いたとして再びの無期限の凍結と相成った。
幹部達は皆身柄を拘束された。
近々処刑されるのだろうな、と流石に二度目のクーデターだけに皆が皆思っていた。
しかし―――
「負けた奴は勝った奴に忠誠を誓う、それがボンゴレの不文律であり伝統だ」
ニヒルに笑ってかなり低位置からなのに見下すように嘲う漆黒纏う黄色のアルコバレーの言葉に、スクアーロは瞬いた。
「この場合はツナにだ」
にやり言う彼に、ヴァリアーの女帝は目を眇めた。
「…ドカスが…」
紅薔薇の唇が、口汚く吐き捨てた。
自身の出生を知ってから後、凛然と美しく女王のようだった彼女はまさに嵐天の女神となった。しかし、どれほど蓮っ葉な口をきこうがその美しさが損なわれはしない。彼女の魂が依然気高いままだからだ。
その点において、九代目は彼女の育て方を誤りはしなかった。
激しい気性の彼女は、まさにプリンチペッツァ・ボンゴレの称号に相応しく高潔にして高貴だ。
「まあそう言うな」
言いながらも、九代目の命を奪いかけたザンザス等に対し、まだ怒りが完全に解けていないリボーンの態度は少々刺々しい。
極力押さえ込んではいるが。
「…正直、実力ある側近は出来るだけ欲しいんだ。本国に行くまでに、出来る限りな…」
ほろ苦く言う小さな体の彼に、ザンザスとスクアーロは何事かと無言で疑問を示す。
「…十代目・沢田 綱吉は、ドンナ・ボンゴレになることになるからな」
言葉に、息を飲んだのは、果たしてどちらだったのか―――あるいは、双方だったのかも知れない。
互いに、衝撃にいま一人の事に気を配る事をしばし忘れた。
言われてみれば、成る程、沢田 綱吉の線は細かった。
少年だとしたら十四という年齢からして貧相の一言に尽きたが、少女なのだとしたら、かなり華奢な部類だが有り得る範囲だ。
イタリアーノであるスクアーロから見ると、随分と小柄で痩せっぽち過ぎたが。
「…あの、スクアーロさん?」
おどおどとした口調は、男ならイラつくものだが、女なのだとしたら少々内気でも許せる…と、フェミニスト根性の染み付いたスクアーロはぼんやり思った。
俯く仕草も、この年齢の女の子なのだとしたら、可愛らしいものだ。
「あ゙?何だぁ?」
視線を向けると、少し顔を赤くして答える言葉を捜すのは、内気なのだというジャッポネーゼであるからであろうか。いや、そう一括りにも出来ないかと、綱吉の親友なのだという三浦 ハルのはきはきとした口調と割と物怖じないキャラクターを連想して思う。
「…あの、…ごめんなさい」
迷惑かけて―――か細く言う声に、何がと首を傾げた。
「…だって、…守ってもらうだけじゃなく、勉強まで教えて貰ってる…」
お仕事増やしてごめんなさい―――言う小さな彼女に、どうにも調子が狂う。
マーモン同様、中身はともかく赤ん坊の肉体は睡眠時間を多く必要としているらしく、リボーンはハンモックで御昼寝中―――代打での家庭教師中だった。
ヴァリアーに所属するための最低条件の一つである七ヶ国語以上を操るスクアーロに、日本の中学程度の英語を教えるのはさしたる労力では無い。流石に古典やら国語を教えるのは荷が重いが、後理数科目も教えている。
一度目の凍結期間、暇に飽かせて当時幼かったベルフェゴールを教えたと云う、昔取った杵柄もあったし。気に食わない家庭教師を殺し捲った挙句だったクソ餓鬼に比べ、理解力では劣ったが教え易い事この上ない。
「気にすんなぁ、嫌なら嫌ってそこのアルコバレーノに言ってるぞぉ」
ハンモックで御昼寝中のリボーンをぐっと親指で指して、伝法な口調ながら言ってくれる青年に、綱吉はほにゃっと微笑んだ。
なんだかぽわぽわの猫っ毛をかい繰り回したくなるような笑顔だった。
ずずっと玄米茶啜った超一流暗殺者にとて気付かれず、黒衣のヒットマンは狸寝入りでほくそ笑んだ。
互いの性格のためもあってたらたらとだが、順調にお互いへの好感度を高めつつある青年と少女ゆえに。
「つーわけで、プール行くぞ」
きゃるんと可愛ゆく家庭教師様は仰った。
「って、つーわけってどんな訳ーっ!?」
思わずと、綱吉は突っ込みを炸裂させた。
一年半余りという時間を経て、心身症気味だった少女は少々内気だがこうして感情やら疑問やらを発露するようになった。
良い傾向だとリボーンは微笑ましく思っている。
「プールですかー、楽しみですっ」
とニコニコ云うハルや「そーだなー」と微笑む山本は兎も角、割と良識派のスクアーロと獄寺は綱吉の言葉にうんうんと肯首した。
「だって、ツナ金槌なんだもん。克服しなきゃ駄〜目駄目〜」
一体何キャラだと云う感じでのたまうリボーンと連携して、ビアンキがはいと教え子と異母妹とその友人に紙袋を渡す。
「水着と服よ。ふふ、ジャッポーネのブランドも可愛いわよね」
いつに無く楽しそうににんまり微笑む毒蠍嬢。
リボーンのお言葉は、綱吉の薄い胸にぐっさりと刺さった。
綱吉は性別を隠さざるを得なかった為、塩素アレルギーということにして学校の水泳をオールスルーし続けてきた為に泳げない。それは綱吉のせいではなかったが。
「みんなよろしくな。…つーわけで、明日はプールに行くぞ〜」
おーっと云うリボーンとビアンキに、綱吉はせめてもの反抗をした。
「って、この寒空の中ー!?」
問いに、
「大丈夫。ホテルのプール借り切ったから!」
とあっさり返された。
無駄にお金持ちなボンゴレを、綱吉はちょっぴり恨んだ。
小さなリボーンや山本やベルフェゴール―――男性陣はさくさく着替えて待ち構えていた。
「お待たせしました〜」
朗らかなハルと、ゆったり余裕の微笑を湛えたビアンキに引きずられ、唯でさえ慣れない女装の上水着という高いハードルゆえに縮こまった琥珀と銀灰の髪の少女達はやってきた。
「おー、獄寺もツナもイイのな〜」
天然と云われつつ、何気にイイ性格と思われるボンゴレ雨の守護者たる少年は、にっかり微笑み云った。
「っ!!妙な言い方してんじゃねぇっ、この野球馬鹿ッ!!」
いつもは透き通るように白い頬を桜色に染め上げた中性的な美貌の少女に、山本はにこにこ笑みながら、まーまーと宥める。
「ふ〜ん、ま、いいんじゃない、メイド。」
「はひ〜、ハルはベルさんのメイドさんでも子分さんでもありません!!」
ベルの問題発言に、ハルが全力で言い返すのも何時ものことだ。
ビアンキには愛人たるリボーンが抜け目無く褒め言葉を送っている。
ここで綱吉だけを放置出来る男などいるだろうか―――少なくとも、フェミニズムを幼少時から骨身に叩き込まれたいたイタリアーノには無理だ。
「…おう、似合ってんじゃねぇかぁ」
肉付きに乏しい―――を通り越して、がりがりで所々骨の存在をすかせる肉好きに乏しい、発育不良の少女に、スクアーロは云った。
幼女趣味も少女趣味もないから三割方はリップサービスも込みだが、お年頃らしい丸ろみは無い体に出来るだけ似合う物をと選ばれた、フリルを寄せた白に近い可愛らしいベビーピンクの水着は、実際綱吉に良く似合っていた。どうせなら、肋の浮いた薄い腹がカバーできるワンピースタイプの水着が望ましかっただろうが、キュートさを追求した結果、昨今主流のビキニタイプを選ばずに居られなくなったのだろう。
髪は短いままだが、前髪をピンク色の石をはめ込んだ花の形のヘアピンで留めて形のいい額を出しているのが、また可愛らしい。
欧米の男性ならではのフェミニズムに起因した褒め言葉と頭ではわかっていても、褒められて何も感じないほど綱吉はこなれても無神経でも無い。
ぼぼっと色白の頬を染め上げた彼女に少し笑って、じゃあと云ってスクアーロは準備体操を先ずは促した。
ヴァリアーにおいては良識派寄りな為やられキャラ寄りのスクアーロだが、常識もある程度わきまえているし面倒見も良いだけに、何かにつけて教え方は上手い方だ。
貸切のプールで、付きっ切りで教えて貰って、綱吉はどうにかこうにか25メートルを泳げるようになった。
この日まで、洒落でなく金槌だったので綱吉的には大快挙だ。
「ありがとうございます、スクアーロさん!!」
その満面の笑顔に、不機嫌な顔になる青年に、綱吉はすぐにしょんぼりとする。
身も心も幼い彼女には、まだまだ理解できそうもない。
男の照れというものは。
それは、幼児の姿ながら四人目の愛人といちゃつく家庭教師様のせいもあったし、十四歳にしては規格外だろう、惚れた少女にあけすけなくどき文句を連ねる野球少年やら、妻への愛を全世界へ向かって叫ぶ実父のせいでもあろうが。
絶賛日参中な携帯サイト
雪月花
の雨里様からキリリクでいただきました。「青天(『雪月花』で連載中ヒバツナ♀連載)な感じのスクツナで、ツナが女の子だと知ってほれたスクアーロががんばるお話」です。か・・・可愛い・・・!あーもう超可愛い!!ぐっじょぶです!
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