きみがさいた
※現代パロディ
※美大生兄と小学生弟
「…はぁ、」
真っ白なキャンパスを目の前にして、サイは途方に暮れていた。
手元のパレットには大量の色の絵の具が散乱している。生乾きの筆は全く進む気配がない。描こうという気持ちばかりが焦り、また新しい色がパレットの隙間に足される。つまりは、スランプの到来、である。
サイは気だるそうにため息をついて、テーブルの上に置いたフルーツの盛り合わせを適当な机へと退ける。どんな明暗をつけようも、どういった色を使おうも、納得のいくイメージの作品は生まれない。
対象を変えては数十分悩み続け、また変えて、それの繰り返し。
「今回の出展は無理かな……」
スランプ時の下手な足掻きはかえって作風の崩壊に繋がる。
そう教えられていたサイは、自分の不甲斐なさと絵が描けないという確かな事実に肩を竦めながら、後片付けに入ろうとキャンパスに手をかけた。ざらざらした表面の白さが悲しく、機嫌は最低にまで降下する。
丁度その時、こんこん、と窓の方から音がした。
こんな気分最悪な時に一体誰だろう、と振り向けば、窓越しに、花を抱えているナルトが見えた。
サイにいちゃん。たどたどしく小さな唇が自分を呼んでいる。
「どうしたんだい?アトリエに来るなんて珍しいね」
「サイにいちゃんが絵の事で困ってるみたいだったからさ、花持ってきたんだってばよ!」
小さな両腕いっぱいに抱えられている、色とりどりの花が揺れている。きれいだろ、とそれを差し出すナルトの手は黒く土で汚れていた。
「やんちゃもいいけどさ、家に帰ったらシャワー浴びるんだよ」
「仕方ねーじゃん!コスモス取りに行った時に、転んじゃって…」
「……コスモス、」
「あ、これの名前。さっきいのが教えてくれたんだってばよ。この辺では珍しいんだって」
コスモス。
名前だけはよく耳にするものの、現物を見るのは久々だった。何せ家の玄関先や美大の庭にある花と言えば、百合や薔薇等の見栄えの豪華なもので、この花のようなぱっとしないものは飾られるない。
「…うん、確かに綺麗だ。部屋が殺風景だと思っていたところだから丁度いい。ありがとう」
「へへ。どーいたしまして」
ほころぶように笑ったナルトは、背伸びをして色とりどりの花束をサイに渡す。窓枠から手をうんと伸ばして受け取れば、子供は更に満面の笑みを浮かべて、金糸を揺らした。
しかし、この感じはなんだろう。サイは手にしたコスモスをじっと見つめた。色とりどりの、不器用な花束。ふと閃いて、サイはするどくナルトを呼んだ。
「ナルト、もう一度これを持ってくれ」
「え、あ…うん。わかった」
ナルトは小さな手を懸命に伸ばして、高い位置にあるコスモスの束を受け取る。そして、持ってきた時と同様に大切そうに胸に抱えると、よほどこの花が好きなのか、ふにゃ、と頬を緩めてコスモスを見つめた。
「……これだ」
小さな呟きに、きょとん、と首を傾げるナルト。その愛らしさに、サイの頬はだんだんと強張りが解け、自然と笑みが生まれた。
「今すぐこっちに来て。花ごと君を描かせて欲しいんだ」
「お、俺を?」
「うん、君を」
胸の高鳴りは、この気持ちを早く絵にしなければという焦りと、創作家としての作品制作への意欲と、──弟が自分の為に花を持ってきてくれた事の嬉しさ。
全てが合わさって、サイの中に創作意欲にも勝る、それ以上のものが生まれていく。
だから早く、と急かせば、ナルトはわかったと短く頷いて駆け出した。その小さな後ろ姿が、酷く、愛おしい。
「…さて」
真っ白なキャンパス。
パレットは洗い直し、イメージした色を手早く置いていく。
早く、早く描きたい。
サイは、弟が息を切らして勢いよく扉を開ける様子を想像して、小さく笑った。
先ずは感謝の言葉を述べようか、と。
きみがさいた
(それはそれは綺麗なコントラストの日曜日)
日参している携帯サイト
Ms.flange
の蒼木ユキコ様宅の三周年記念フリーのサイナル!素敵です!かーわいーなーvv
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