※刹那がおにゃのこで姫です








ロックオンことニール・ディランディは広い屋敷をこれでもかと探し回っていた。

「姫ー!おーい、姫ー!‥‥ったくどこ行ったんだお転婆娘め‥‥」
「どうしたのです?ロックオン」
「お、ティエリアいい所に!せ――姫、見なかったか?」
「姫なら、ずっと前からあそこに居ますよ」

そう言われて振り返ったロックオンは思わず口を呆然と開いた。
ティエリアが指をさした先は広い屋敷が囲む中庭だ。王宮だけあって様々な花や木々で賑やかな庭はこの国の自慢の一つで、それが探し人の愛するものだということもロックオンは重々承知している。だからこそ一番最初に探しに行ったのはそこなのだ。しかし、ああ確かにそこは見てねえよ、と思わず呟いた。
この国の次期女帝で護衛対象であり、探し人でもあり、更に言うなら幼馴染の少女は、木の上に居た。遠目から見ても寝息を立てているのがよく分かる。木漏れ日の中で眠る少女は実に絵になっていた。ロックオンはピキリと青筋を立てるも、何故だかその寝顔を見ているとどうでもよくなり、はあと深い溜息を吐いた。

「家庭教師さま、大国の姫ともあろう方が木の上で昼寝してるんですけど‥‥」
「ええ、そうですね。早く回収しに行って下さいよ、側近」

もう3時ですから、休憩時間も終了です。
そう言って胸に書類を抱えたままスタスタと歩き始めた家庭教師を見て、ロックオンは思わず笑った。

「ティエリアも大概、姫に甘いよな」
「お互い様ですよ」

後ろから小さく笑みながらの言葉が返ってきて、ロックオンは振り返った。

「アレルヤ。お前なあ、どこ行ってたんだよ?ずっと1人でこんな無駄に広い城で姫を探し回ってたんだぜ?」
「ああ、すみません。ちょっと昼寝してました」

はあ?ロックオンは不思議そうな声を出そうとして途中でやめた。
アレルヤはロックオンと同じく姫の護衛を王から任されている。幼馴染であるのはアレルヤも同じで、ちなみに家庭教師のティエリアもそうだ。小さな頃からずっと隣にあった存在は、身体が成長しても変わらない。周りの眼がないときには、昔と変わらずそれなりに砕けた態度で接している。
しかし、やはり護衛は護衛だ。この国の姫だからとか、王に一任されているからとか、そういうのではない。守りたいと、心の底からそう思えるからこその役割だ。だからそんな同志のアレルヤが姫の存在を無視して昼寝などとするはずはない――そう不思議に思って声を出そうとしたわけだが、ロックオンはある答えに行き着いて眉を顰めた。思わずじと眼になるのは仕方がないと主張したい。

「アレルヤー‥‥一応聞くが、どこで昼寝してたんだ?」
「中庭の日差しが当りすぎない木の下で」

畜生こいつグルだ!
よくも除け者にしてくれたなという気持ちと、まあ姫の言うことなら勿論命令とかではなく逆らえないよなあ、なんて様々なことを考えながら結局はがっくしと肩を落とした。ソレスタルビーイングのマイスターと恐れられる男も姫にかかれば形なしだ。

「うるさいぞ、ロックオン」
「!せっ――姫!」

突然会話に介入したのは誰であろう刹那・F・セイエイ。いつのまに近くに来ていたのか、と騎士としてどうなんだろうという感想を抱きつつ素直に驚く。身軽に木から飛び降りただろう少女は、正真正銘のCB国の次期後継者だ。
しかしどこからどう見ても刹那は14だというのに年頃の少女の姿をしていなかった。その姿は姫という立場でありながらもシャツにパンツという何ともラフな姿だ。髪だって寝癖だろうあちこちに伸びてアピールしているし、服も何だかよれている気さえする。しかしこの宮に住んでいる臣下たちは知っていた。ここぞという時には立ち振る舞いから言葉遣いまで完璧にそつなくこなし、一見すれば少年にしか見えない刹那が息を呑むほどに壮絶な笑みを浮かべる姫の顔を持つことを。だからこそ周りは姫に頭を下げ、周りにいる護衛たちにも会釈をし、そんな彼らは護衛たちの顔を見て微笑んだ。顔には微笑ましいと書いてある。そうして彼らは静かに自分の持ち場へと帰って行った。護衛たちがそんな周りの臣下たちの微笑みに何とも言えない思いを抱くのはいつものことだ。
驚いて思わず名前を口走りそうになりながらも、何とか持ち直して説教をし始めようとしたロックオンの言葉は、もう1人の護衛によってかき消された。

「姫、もうお昼寝は堪能したんですか?」
「いや。だが、そろそろティエリアも急かす頃だろうから‥‥仕方なく、起きた」

仕方なく、という言葉を全面に強調して押し出しながら言う姫に、ロックオンは仕方ないなあと肩を竦めた。つまり姫は適当な時間に休息という名のサボタージュを行い、頃合を見計らって出てきたというわけだ。結局、幼い頃からこの関係性は変わらない。隣のアレルヤも共に中庭へ出ていたとはいえ、気持ちは同じだったらしく苦笑が漏れていた。

「それより」

片目をいつまでも擦っている姫の手をやんわりと外しながら、ロックオンが言う。忘れるところだったが、そもそも王に呼び出されたせいで姫から眼を離し、そうしている間に彼女は行方不明になったのだ。結局はアレルヤと共に中庭で昼寝をしていたわけだが、かれこれ1時間は探し回っていた気がする。ふう、と息をつきながら、ロックオンは刹那に視線を合わせた。

「陛下が探してましたよ、姫。またパーティー招待されたんだって?俺からも出るように言えと陛下直々に言われました」
「‥‥アリーが1人で行けばいい。俺には関係ない」

王をアリーと呼び捨てにできるのは刹那だけだ。そんな刹那はロックオンとアレルヤ、この場には居ないがティエリアだからこそ分かるくらいの表情だが、少し拗ねたような顔をした。何でいちいち俺をパーティーに出そうとするのか、という眉を顰めた姫を見ながらアレルヤとロックオンは揃って苦い顔をした。
(そりゃあ、うちの姫を自慢したくて仕方ないからだよ、刹那)
国の王であるアリーが、敵国にはどこまでも冷酷なことを知っている。だが同時に、自国にはとても優しいことを知っている。そして、一人娘である刹那を溺愛していることは暗黙を飛び越えて公然の了解だ。だからこそ、ある程度力のある国が出席するパーティーに出させようとするのだろう。確かに刹那は国の宝であるし、だから自慢したい気持ちも分かる。だが、必要に迫られない限り非社交的である刹那には酷でもあった。そんな嫌がる刹那を知っていて尚も言うのだから、王は性質が悪いことこの上ない。愛情表現が下手よね、とはこの国の戦術予報士の言葉だ。

「っておい、刹那?」
「ロックオン、名前、それと敬語」
「え?あ、やべ」

背を向けた刹那にロックオンが声をかけ、しかしいつもの地が出てしまったことを指摘される。気を取り直して、さあ姫、と口を開いたところでロックオンは気づいた。

「居ない!」

おいアレルヤ、姫が居ない!
慌てて護衛仲間に声を掛ければ苦笑したアレルヤが居た。まあ仕方ないですよね、休息は大事ですよね。そう言って口元には笑みを残しながらも眼を逸らしたアレルヤ。明らかに刹那の逃亡を見逃した証拠だ。ロックオンは本日2度目となる深い溜息をついて肩を落とした。

「アレルヤも大概、姫に甘いよな」
「だからお互い様ですって」

くすくすと、どこからともなく笑みが漏れた。

絶賛日参中な携帯サイト純恋のria様からカウンター77777踏みで書いていただきました!せっちゃんが可愛い・・・!頭の中でこの光景がエンドレスリピートしております・・・!

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