暴露大会とあいなりました
「……どうしたの、綱吉」
綱吉の執務室、ソファーに座りローテーブルに向かい固まる綱吉と獄寺を見て、雲雀は首を傾げた。
「お、よー雲雀!」
にかっと十年経っても変らない笑顔を見せて、随分と逞しく男臭く成長した山本は、手にした何かをヒラヒラ振った。
「ふぅん、同窓会ねぇ」
返信用でカードのような葉書を眺め、雲雀は言った。
「…そうなんです」
どんよりと暗雲背負った様な顔で、綱吉は言った。
「…しかも、リボーンが…面白そうだから行って来いとか言うんです…」
「うん。そうだね。僕が知ったからには、欠席なんて許さないよ」
にぃっと笑み、雲雀まで言い切った。
「僕の並中の行事を、まさかサボらないよね、綱吉?」
逃げたらどんな御仕置きが待っているか解らない旦那様の質問形式の脅迫に、綱吉の顔が引き攣る。琥珀の双眸が、あまりの御無体にうるり潤んだ。
発育不良極まった中学生時代とは違う。チビの上に何処もかしこもガリガリの棒切れの様だった綱吉は特に。
綱吉にしても獄寺にしても、イタリアの血のせいか細身の割に出るべき所が、がっつり出てしまっているのだ。
そんな身体つきのみならず、顔立ちからして、男装で誤魔化すのはもう無理だった。
「…どうしましょう…」
「…ね…」
落ち込む二人に、無邪気に無敵にボンゴレ十世の有能な秘書は提案した。
「そんなの、ツナさんも獄寺さんも、いつもの格好で行けば良いじゃないですか!」
にっこり微笑み言うハルに、逸れを避けたかったから悩んでいたのだと、二人して更に凹んだ。確かに、実際それ以上の方法も無いと解ってはいるのであったが。
女姿で行く覚悟は決めた。
しかし、ここまで女らしい格好で行く意味は果たしてあるのだろうかと、綱吉と獄寺は疑問で一杯だ。
「そんなのそうに決まってるじゃないですか!普段はカチッとしたスーツ、着飾るって言ったら正装、両極端すぎるんです!!偶には遊び心も必要でしょう!?」
握り拳で力説するハルに押し切られてしまった。
昔から朗らかで可愛く、心を支え続けてくれた彼女に、綱吉も獄寺も弱いのである。
日本の普通のOLがお洒落着にしていそう…というコンセプトらしい服を着せられた二人は、お互いを見てちょっと溜息を吐いた。
似合っているは似合っている、とういのは、お互いに解っている。
でも、それを男で通した中学時代の友人知人に見せるのが、なんとも気が重いのだ。
皆からすれば、同級生がそっちの道に目覚めたようにしか見えないのではないかとも思って。
口々にぽしょぽしょ言うと、山本はかんらかんらと笑った。そういう彼は、普段どおりのスーツに、普段よりは少し遊び心のあるネクタイを合わせている。そんな彼は、見える部分は顎に傷がある程度で、まあ、明るいキャラクターを前面に出していけば、まあそもそもが裏社会の匂いがプンプンというタイプでないから、どうにか乗り切れるだろう。なんとも羨ましい事に。
「ばぁか言ってねーで」
行くぞ―――と、山本は綱吉の背中をぽふぽふ叩き、獄寺も促す。何気にウエストに手が回されていたのが眼に入って、ちょっぴりまったりしてしつつ、綱吉も腹を括って歩き出した。
「うお、山本!?」
声に、会場内は漫ろ騒がしくなった。
まだ大半が学生という事もあり、会場は居酒屋を借り切ってというスタイルにしたらしい。山本は兎も角、こういう店になじみの無い二人は物珍しくて少し視線を彷徨わせた。
「よ!真打登場…ってか?」
にかっと笑って言う人気者だった彼だけに、賑々しさは増した。
「きゃーっ、山本君!」
だの元ファンクラブのお嬢さんの色めき立った声やら、
「お前今何やってんだ?プロ野球行くんじゃなかったのかよ〜」
とかの男子の言葉に、へらっと昔ながらの笑顔で対応する彼を防波堤に、隅の席でこそこそやり過ごそうとしたドンナ・ボンゴレとその右腕の目論見は、脆くも崩れ去った。
「あ、ツナ君!…じゃなかった、ツナちゃん!」
朗らかに響く甘いソプラノに、涙がちょちょぎれるかと思った。
悲しい事に、自身の晴の守護者・笹川 了平の妹たる京子の声は良く響く。
伸びた髪と共に、艶やかさを増した愛らしい容貌を持つ彼女は、相変わらずちょっぴり空気は読まずに、ニコニコ歩み寄ってくる。
彼女自身に寄せられた視線諸共引き連れて。
いっそ壁に懐いてしくしく泣きたいと思いつつ、この数年で身についた外面被って、どうにかこうにか綱吉はへらっと笑った。
「こ、こんにちは…こんばんは?京子ちゃん…」
誰だっけ、あれ?―――刺さる視線と共に囁かれる言葉に、胃がちくちく痛い。ばれないという細〜い希望をちょっぴり望みつつ、京子に小さく手を振り返す。
匣兵器の台等と共に煙草を殆ど吸わなくなっていた獄寺が、ごそごそ懐探ってシガレットケースを取り出そうとした程度には、ストレスだったことは確かだ。
しかもお仕事なら兎も角、これがプライベート―――ヤバイ、本当に泣きたいと綱吉は思った。
「久しぶり、ツナちゃん。元気だった?」
お兄ちゃんとかハルちゃんも、変わりない?―――朗らかに愛らしく聞いてくる京子に手を取られつつ、綱吉はうんと応える。それに微塵の可否も無かったし。
綱吉達の学年の同窓会という事で今回はイタリアに残った笹川家の長男・了平はいつ見てもピーカンなまでに元気だし、この場には他校だったのでと来なかったものの、一緒に来日してホテルで待機中のハルもバリバリ有能な秘書としてボンゴレ事務方を仕切る勢いで綱吉を支えてくれている。
そんな近況を、ボンゴレがマフィアだとかは勿論隠して、本家ともどもそこがやってる企業を継いでいる的に誤魔化しつつ告げると、京子も黒川 花もそうかと肯いてくれた。
天然な京子は兎も角、了平とお付き合いしていることもあり、花は諸々をそれなりに理解しつつもぺらぺら喋りたくもないという事情を察してくれているのだと思う。その、少し斜に構えた微笑からしても。
そんな美女四人が寄り集まり話す様を遠目に、こなたは元野球部と男ばかりが寄り集まった中で、ふいと一人が「あれ」と首を傾げた。
「笹川と黒川と居るの、誰だっけか」
メイクだのの力もあって、女性の変化は目覚しい。
それを考慮しても、あんな女の子いたっけかと首を捻る青年達に、連れ立って現れた山本はあっさり応えた。
「ん?あー、家のかみさんとツナだぜ」
ピリ辛の唐揚げをもぐもぐ食べビールを飲みつつ言った山本に、はぁぁっ?と声が上がる。
「って、何!?関係者以外連れてきたのか?」
「へ?何言ってんだよ」
ぱちくりと瞬いた山本は、周囲の疑問がいまいち判らなかった様だ。
「だから、ツナとローラ…じゃなくて、獄寺だって」
ローラって誰やねん、あの美人さんですかー?と皆が驚きに思考力の低下した頭で突っ込みを入れること数瞬。
その間に山本は会費の元を取る気かという勢いでもりもりと料理を食べたり、ビールのおかわりと鯛茶漬けを頼んだりしていた。
そーいや、銀髪美形で不良で山本と双璧なんていわれてたモテ男の獄寺と、駄目ツナとか言われてた沢田はいつも三人でつるんでたなー―――とか思って。
「…つ、ツナって、ダメツナ…?」
「おー、そーだけど、ダメとか言うなー」
へらり笑って山本は応えて。
「…獄寺って、あの上級生の不良どころか高校生のヤンキー締めてワビ入れさせたって武勇伝もちのあの獄寺か?お前と二人してファンクラブなんて作られちゃってた?」
「おーそーそー、その獄寺。今は山本 ローラなー」
まー仕事じゃ今も獄寺で通してっけどなー、やっぱ職場で山本二人は紛らわしーかんなー―――との言葉に、
『へー、山本と獄寺?は同じ職場なのかー』
『つーかやっぱ学生じゃなく社会人なのかー』
『どーりでスーツ板についてんなー』
とか、まだも真っ白けの頭で山本周囲数メートルの男女はまったりと考えていた。
「…って…やまもとろーら?」
「おう。」
「獄寺の名前って、隼人じゃなかったか?」
「偽名っつーかなー。本名がローラだぜ」
「へー…」
届いた鯛茶漬けをずずーっと啜り食べつつ、山本は応える。
「あ、今五ヶ月に入ったとこなんだ。おーい、そっち側禁煙なー、獄寺腹ボテなんだわー!」
山本周囲のだけでなく、会場内が静まり返った。
獄寺って、あの獄寺 隼人君のことでしょうか。
あのファンクラブとかあった。
え、それで何で腹ボテ?今五ヶ月!?
それっておめでたって事ですか!?何で!!?
地獄の沈黙を破ったのは、当の本人だった。
「……たぁあぁけぇしぃぃぃぃぃぃい!!!!!」
果てろ―――と懐かしい台詞を吐きながら、すっくと立ち上がった灰銀髪の美女は手近に合った取り皿を投じた。
「ははは、危ないのなー」
フリスビーの要領でぱしっとそれを受け取った山本は、片手に持ったジョッキのビールをまたもグビグビ飲む。
獄寺と思われる灰銀髪美女の傍ら、ふわふわの琥珀色の髪の少女が「ごっ、獄寺君っ、いきなり立ったり怒ったりしちゃだめ…」とおろおろ宥めた。
「は、はい、十代目…」
彼女のこの言葉に、『あー、そういえば、獄寺は沢田をそう呼んでたっけなー』とか思い出して。
「って、獄寺とダメツナっッ!!?」
漸く情報が思考に辿り着いたらしい山本の友人の一人の叫びに、悲鳴やら驚愕の叫びやらがたちまち起こって、同窓会会場はカオスと化した。
「嘘〜〜っ、獄寺君が女の子って…」
「…あたしの青春ったのにーっ」
酒も入っている事もあって興奮して詰め寄る元ファンクラブの女子達に、獄寺はたじたじだ。
「いや、何かもう、ヅカだったの?って感じ?」
中にはけたけた大うけしている者もいたりするが。
「線細いとは思ってたけど、まさか沢田も女の子だったなんてねー」
隣に座った小池さん(京子ちゃんと名簿が並んでいた子なので覚えていた)に言われ、綱吉は曖昧に笑う。そんな綱吉の複雑そうな顔を見て、聡明な花は彼女が思っていそうなことを察してくすっと笑みを零して。
「意外と、案ずるより生むが易し…だったって顔ね?」
「う、うん…」
本当にそんな感じ―――ふにゃっと表情を崩す、母親似の驚異的童顔の彼女の頭を花はくしゃっと撫でた。
「そういえば、あんたの所のは?」
酔っ払いな旧ファンクラブに半泣きになられたり懐妊を祝われたり、すっかり取り囲まれてしまっている獄寺を横目に、花は水を向けた。
「ん?慶(よし)も美奈もハルとイーピンに双子達が見てくれてるよ。恭弥さんの所で」
綱吉の第一秘書という要職でなかったらナニーになっていただろうハルだけでなく、あのアジトという名の雲雀 恭弥の私邸になら草壁も居るからという信頼感から、綱吉は割りとけろっと言った。警備の上でも、雲雀兄弟にリボーンに一応ランボも…と、下手に数を置くより余程信頼の置けるものであったし。
ドキドキタイムは終わったとばかりに、開放感を満喫するが如く、水かジュースでも飲むようにくいくいとチューハイやら日本酒をちゃんぽん何のそので乾していく綱吉に、「そう」と花は烏龍ハイを飲みながら肯いた。
下手したら現在も中学生に見られそうな脅威の童顔にも関わらず、このぽわぽわした少女めいた要望の娘は笊を通り越して枠の疑惑すらある酒豪だったりする。
「そっかー、美奈ちゃんもう大分大きくなったでしょ?」
いいなー、会いたいなぁ―――と、目をキラキラさせながら言う京子に、「暫くこっちに居るし、京子ちゃんの予定のいい日教えて?」と綱吉はニコニコ応える。
「えー、何の話?」
酔っ払いな旧クラスメイトにがばっと後ろから抱きつかれ、カシスソーダを飲んでいた綱吉はちょっと咽た。
「けほ…えと、家の子の話」
律儀に応えた綱吉に、再びの絶叫が起こる。
「沢田もか!!」
と。
「って、いつ?今腹に居るんじゃねぇよな!?」
まさか酒飲んでるし、と目を白黒させながら言う者が居れば、
「相手は?まさか笹川センパイとか!?」
と京子との親しげな様子から言われたり。
「違う違う!お兄さんはちゃんと彼女さん居るから!」
一応花とは言わずに否定して。
「うちの学校の奴とかまさかいわねぇよな!?」
「…まさか…持田センパイとか?」
「っぶはっ…!そっちも違う!!」
思わずザンザスのように噴出した綱吉は、手を振って否定した。
「うん。持田先輩の訳ないよ」
ツナちゃんの旦那さんもっと格好いいもの―――綱吉の関係者…ということで当時の周囲の男どもを思い浮かべて上がった頓珍漢な例に、ほやほやの笑顔ながらすっぱりと京子は言い切る。仮にもそれが自分ところの彼氏に言う台詞かと、綱吉と花はへタレで尻に敷かれっぱなしの彼氏様が可哀想になった。
「…格好いい…」
と形容されそうな綱吉の周辺人物を、皆脳内検索にかけた。
「…フェラーリで向かえに来てた金髪さん?」
「ディーノさんかな?違うよ」
あの人は兄弟子とプルプル綱吉は首を振った。
「あ、もしかして留学生の…」
「バジル君はね、なんていうか、兄妹みたいなものだよ」
父の弟子だし、多分そんな感じだろう。
じゃあ二年の後半から良く迎えに来てた銀髪さん(療養をかねてボディーガードをしていたスクアーロの事だ)だとか問われる綱吉は、ううんと首を振り続けた。
「ふふ、皆肝心な人を忘れてるよ」
京子の朗らかなソプラノに、皆何故だかとても嫌な予感がした。
皆、心の平穏の為に、かの人物の事は隔離していたのであろう、きっと。
「…無駄に群れてる上に、失礼な連中だね」
僕以外に綱吉の夫が居るわけないじゃない―――魅惑的ながら恐ろしいテノールに、会場となった店内には地獄の沈黙が落ちた。
水を打つような沈黙のなか、澄んだボーイソプラノが良く響く。
「母さま!」
「恭弥さんに慶弥!?」
恭弥さん…って、恭弥さんって、もしかしてもしかしなくても『雲雀 恭弥』さんだったりしますか!?―――一般生徒を慄かせる中、
「よお、雲雀やっぱ来たかー」
と山本の暢気な声だとか、
「ったく、無駄な時だけ来てんじゃない!」
との獄寺の舌打ち交じりの声が響く。
「って、何で恭弥さんと慶が!?」
わたわた駆け寄りながら声を上げた綱吉に、良く似た父子は応えた。
「慶が君に会いたいって泣くからね」
「父さまが母さま心配だからお迎え行こって!」
抱っこした息子の小さな形のいい頭に、微笑しながらも軽〜くアイアンクローかける雲雀に、綱吉やそのご一行ならずとも皆察した。嘘吐きはどちらかを。
「うわあああぁん、母さまーっ」
「…恭弥さん…判りましたから…」
理不尽な教育的指導に待ったをかけて、綱吉は旦那のミニチュアの如き長男を保護した。
絶賛日参中な携帯サイト
雪月花
の雨里様からキリリクでいただきました。「青天(『雪月花』で連載中ヒバツナ♀連載)でツナが女の子だとカミングアウトしたときのみんなの反応&同窓会」です。二つリクをくっつけてこんな素敵なものに仕上げてくださいました!素敵ですvぐっじょぶですv大好きです!
← 戻る