沢田さん家の骸ちゃん。

殺気なんてものに反応できるようになってしまった自分が、綱吉はとってもいやんだった。
 家庭教師様には目覚めてよかったよかったと言われた、超直感なるボンゴレの血筋に宿り伝わるという迷惑で厄介なものに、綱吉は最近げっそりだ。
 小テストの選択問題が不気味な程の正解率をたたき出しているのは、補習予備軍に目出度く繰り上がったり良き事だったが。
「…おい、あれ…」
「…うっわ…雲雀サンじゃん…」
 こそこそと言い合うクラスメイトの会話に、泣きたくなった。
 それは、綱吉が感じた気配というか闘気が、少なくとも片方は正解なのだと示していたから。
「うっわ…あれ…女の子じゃね?」
「げ〜、雲雀サンも、容赦ねぇなー…」
「うそ…酷ぉ…」
 こそこそ話しは、どんどんと電波して、皆が窓から校庭を伺い見ようと目線を送る。
 雲雀の恐怖政治の恐ろしいところは、教師すらそんな騒ぎを黙認してしまうところだ。触らぬ雲雀に祟り無しとばかりに。
 あーっ、もう、こーゆーの嫌なのに―――葛藤すること数秒。
 ガッキーンといい音が響いたのをきっかけに、綱吉のフェミニズムに起因する堪忍袋の緒はブチっと切れた。
 ガタッと音をさせて席を立ったダメツナこと沢田 綱吉に、視線は集まり、この時間の担当教師も「ど、どうした沢田!?」トイレか?―――なんて、空気を和ませるためか問いかけてくる。
「いえ…」
 とそれに控え目に応えた綱吉は、けれど、にっこりと微笑んだ。
 その微笑に、思わずきゅんときてしまった生徒は複数人いたりした。男女問わず…。
 あれ、ダメツナって、こんなにかっこよかった(or可愛かった)っけ?―――とか思われるなか、
「すいません、ちょっと止めて来ます」
 とぺこっと会釈して、ごそごそ鞄からミトンの手袋を取り出した綱吉は窓に寄った。
 何故にミトンの手袋!?と約二名を除くクラスメイトと教師が思う中、綱吉はがらり窓を開け放ち、枠に手を掛けひらり飛び降りた。
「ぎゃーっ」
「きゃーぁぁぁっ」
「だっ、大丈夫かツナ!?」
「さっ沢田ぁぁぁあああっ」
 リボーンに鍛えられて?無駄に身体能力を日々鍛えられている綱吉は、それも仕方が無いと承知していつつも、二階からだが一番のショートカットだからとやってしまった。
「十代目だからな!」
「ツナだもんなー」
 両腕を自称している友人二人は、そう鼻高々にだったりへらっとだったりコメントしたのみであった。

「こぉらぁあああっ、骸ぉっ、雲雀さあぁあんっ」
ドップラー効果させながら、綱吉はガッキンバッキンとトンファーと三叉槍で対決する、見た目だけなら極上上吉な少年少女を止めに入った。
「…」
 ちっと、雲雀から舌打ちが聞こえた気がした。気のせいと思いたいが、多分違うのだろう。
 雲雀の形のいい脳天を、ゴチッと槍の柄でぶん殴った骸は、ぱあっと表情を輝かせる。
「あっ、つぅなぁよぉしぃくぅ〜ぅん!」
 ぽいっと槍を投げ捨て、まだまだ小柄な美少女はひらひらふわふわのスカートを揺らして綱吉に駆け寄った。
 ほきゅーっと抱きついてくるロリロリファッションを本日は御召しの美少女を抱きとめつつ、綱吉はこらとちょっと顔を顰めて言う。
「ダメだろ、骸」
「…綱吉くん?」
 不安気に見上げてくる骸に、心を鬼にして綱吉は怒っていますという顔を崩さず、くしゃくしゃっと独特の形状に結われた髪を撫でた。本日はちっちゃな熊ちゃんのぬいぐるみ飾りが付いたゴムが、藍色に近い色合いをした髪を飾っている。
 綱吉君、怒ってる?怒ってる?―――とオロオロする骸は、やっぱり何時も通り色々解っていないのだろう。
 普通だの常識だのがイマイチ解らないのは彼女のせいではない。
 彼女のせいではないのだ、けれど。
「…骸?」
「…はい…」
 解らないなりに、それならこれからきちんと教えてやればいいとは、綱吉とリボーンの間で一致した考えだ。その為の沢田家での保護観察である、と。
 真剣に言葉を紡いだ綱吉に、骸は真摯に応えた。なんだかんだいって、こういう所はまっすぐで真面目なのだ、この小さな少女は。
 そういう真っ正直さゆえに、きっと前に世界大戦だの言い出しちゃったのだろう。
 頭がいいのに、妙に斜めってお馬鹿さんだなーと、綱吉は溜息付きながら、小さな骸を抱き寄せ、ぽふぽふ頭を撫でる。
「学校来るのは、止めない。でもね?騒動は起こさない。無駄に喧嘩もしない…そう、約束したよね?」
「…っだって…」
 がばちょと胸に抱きついて、だってだってと涙目になって見上げてくる。
「僕、綱吉君に会いに来ただけですよ?こっそりしてたんですよ?でも、でもね、雲雀君が咬み殺すって…!」
 あーもー…そんなこったろうと思って居ましたがね…―――綱吉はやれやれと溜息を吐く。
「無抵抗だとボコボコにされちゃいますっ、僕ボコボコやです〜〜〜っ」
 ひんひん半ば過剰演出も混じってのベソかきに、『あーもーちくしょー、何気に女力は高いよなー』とか思いつつ、それを承知の上でまったり「よしよし」と綱吉は受け止め宥める。

 あさっての方向見ながら雲雀はふんっと鼻を鳴らした。

綱吉君とランチを食べたいんですっ―――とのお姫様のお望みを無碍に出来ない程度には、綱吉は骸に甘い。  ママンと作ったお弁当もちゃんと持参した美少女にうるうるおねだりされて、仕方ないなぁと綱吉は腹を括った。

「すいませーん。一人にしておくと雲雀さんに絡まれるんで、ちょっと保護しときまーす」
 最近とみに人格に厚みが出てきた(腹黒くなったとも肝が据わってきたとも言ふ…)と家庭教師様とか兄弟子の間でもっぱら評判な沢田家の一人息子は、にっこり微笑みながら小首を傾げ、朗らかにだが決定事項として言い切った。
 その腕に、コアラよろしくへばり付く珍妙な髪型をしたロリータファッションの美少女に、否応なく視線は集まった。
「さ、沢田…あー…っと…」
 掛けるべき言葉を探す教師に、
「イタリアの親戚からちょっと預かってる子なんです。なんか雲雀さんに妙に気に入られちゃってまして」
 イタリアの親戚(九代目)から保護観察として身柄を預かっているのも、雲雀に目をつけられているのも事実―――嘘は吐いていないが、さりとて実態かというと微妙という事を言って、綱吉は煙に巻く。
「むーぅ?」
 ほらと促されて、集まる視線に居心地悪そうに綱吉のシャツの腰辺りをグニグニ引っ張り捏ね繰る美少女は大層可愛らしかった。思わず内気な女の子なのだなーと、先ほどの雲雀とドンパチしていたのをうっちゃって記憶して仕舞いたい程。
「…六道 骸です…」
 ぽそっと名乗って、彼女は綱吉の肩に顔を埋めてその背中に隠れてしまった。

「にしても、沢田、外国に親戚なんて居たのか?」
「むくろちゃん?可愛いねー、何歳ー?」
「ってか、雲雀さんの『お気に』って…大丈夫ー?」
 等など。
 四時間目を目前とした休み時間、わいのわいのと綱吉とその席の隣に折り畳み椅子を置いてちょこんと座った骸は取り囲まれた。
 基本『知らない人』に対して警戒心バリバリの骸は、またも綱吉の引っ付き虫になって耐えていた。よしよしと、攻撃的に表面化する対人恐怖症の少女の青み掛かった黒髪を撫でながら、綱吉はへらっと笑って応える。
「んー、イタリアに親戚がいるっていうかー、家のひーひーひー?祖父さん?が何を思ったか日本移住したっつー訳で、本家があっちっていうかー」
 のほほんとした綱吉の答えに、「いえ、沢田家が嫡直系ですから、十代目」と獄寺のいらん注釈が入る。
「…血筋、一番良いから、ボンゴレも沢田家を放したくないんですよ。」
 こくこく肯きながら、ぽそっと骸も挟んだ言葉に、浅蜊のパスタが如何したと首を捻る者多数。
「あ〜…えーと、むぅいくつだっけ?」
 この空気誤魔化してぇ〜、と思っているの丸解りだとクールな黒川辺りに思われる綱吉の言葉に、骸は素直に応えた。
「十歳…ぐらいです」
 なんでそこで曖昧か?と思われる答をした美少女は、「フゥ太君よりおねえさんなんですっ」と綱吉に必死のアピールを重ねる。
「んー、だなー」
 と応えて南国果実をそこはかとなく髣髴とさせる頭を、綱吉はぽふぽふ撫でた。
「ははは〜、ツナ変なとこ鈍いのなー」
 天然山本に言われちまってらと、微妙になった空気を、チャイムと「こらー、皆席に着けー」との教師の声が霧散させた。


取り合えず…
謎多き美少女むくろちゃんは、獄寺と同じぐらい数学が出来ると言うことが判明した、とのみこの時間に起こったことを明記しておこう。


「つなよし君、因数分解も平方根も面白いですねぇ…!」
「…よかったね、骸」
「はい!あの先生良い人です。たくさんプリントくれました!!」
「……本当、良かったねぇ…」

絶賛日参中な携帯サイト雪月花の雨里様からキリリクでいただきました。「アイレン(『雪月花』で連載中ツナムク♀連載)で平日学校の授業中にどーしてもツナに会いたくなっちゃった骸が並中に乱入。少々?雲雀さんとドンパチした挙句、ツナが止めに入った為「あの黒曜の美人はダメツナのなんだ!」と色々噂になっちゃう話」というリクエストでした。む・・・骸が超可愛い・・・!!(落ち着け)。

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