う゛ぁんぷ!3

ツナはそれはそれは愛らしい。

 美貌に恵まれている者が大半の一族の中でも、ツナの愛くるしさといったら別格中の別格だ。
 ちょっぴりほよよんとしすぎた性格も、まあ、周り中皆で体が弱く成長の遅い彼女をどっぷり甘やかして育ててしまったが為。
 どうせ一族どうしで助け合いながら、長い長い時間を生きていくことになる。没交渉となる事など、ほぼ有り得ないのだからと。

 それもあって、ザンザスは非情に心配していた。

 何をって?

 勿論ツナの初恋問題に関してだ。


「…よお」
 風紀副委員長に導かれやってきた強面男に、「…ワオ」と雲雀 恭弥は瞬いた。

「ふええええええええっ、ざっザンにいぃっ!?」
 何時も通り風紀委員室におやつ食べにやってきたツナは、びくーんと扉を開けた体勢で凍りついた。
「…ザンザス、何ゆえ居る?」
 柳眉を顰めるツナの保護しゃ…もとい妹可愛さにお邪魔虫承知でついてきている双子の兄・ジョット。
「はっ…はひ〜〜っ、な、なんだかデンジャラスな人が増えてます〜〜〜っ」
 最強で最凶の風紀委員長と、極悪面のイタリア男のツーショットに怯え、ささっとその背にハルは隠れた。
「大丈夫だぞ、ハル。少なくともザンは女に甘く出来ておる」
 ずばっと言い切るジョットを、ザンザスはギロリ見やる。やっぱり怖そう…と、ハルはビクビクーっとしてしまった。
「…おい」
「事実であろうが」
「…」
 チッと舌打ちする男に、ハルはぱちくり瞬いた。
 あれ、なんだかジョットの方が優勢に終わった、と。
 見上げてくる少女が可愛らしくて、ジョットは艶やかな黒髪を撫でた。
「ザンにぃね?顔怖いけど優しいよ。お料理上手だし」
 にこにこ云うツナに、
「はひ〜、そうなんですか?」
 とハルは小首を傾げる。
「うん。そうなんだよ」
「そうなんですかー」
 ほのぼのテンションで笑顔をかわす美少女二人の周辺に花が飛んで見えた―――らしい、クール系に強面に和風美人と、タイプは違うものの見目に恵まれた、意外と可愛いもの好きの男達は、まったりうっとり見守った。

「沢田 ツナ、おいで、今日は並盛堂の桜餅と道明寺桜餅と鶯餅他和菓子だよ」
 微笑し可愛らしい和菓子入りの箱を開けて見せる雲雀に、ふにゃふにゃ笑顔になったツナは「わーい」と誘き寄せられる。
 ぽんぽんっと自分の膝を叩いて此処に座るようにと示す雲雀に、素直に従いかけたツナは、お子様過ぎた。一応高校生だというのに、危機感だとか慎みだとかがあまりに不足している。
「…ツナ」
 低い声で呼ばれて、ツナはぎくんとして親戚のお兄さんをちろり見た。
 はっきり云おう。胃袋握るザンザスは、ツナにとって一番恐れる相手である。
 彼に臍を曲げられたが最後、美味しいご飯もおやつも毎日満喫できなくなると、彼女はちゃんと知っているのだ。
「…」
 無言で自分の横の席を叩いて此処に座りなさいと示す、お父さんよりはるかに恐ろしい親戚のお兄さんに、ツナはびくびく従った。
「…これが奴との正しい距離だ。」
「…なの?」
 こてっと首を傾げるフェアリーちゃんに、激しく萌えて、ハルは嬌声を噛み殺しながらぺしぺしとフェアリーちゃんのお兄ちゃんの背中を叩き、じたばた地団駄に似たステップ踏んで身悶えた。
『ツーナーさーんっ、ラブリーすぎですううううううううっっ』
 小声で絶叫という器用な真似をするハルに、うんうんとジョットは肯いた。因みに彼の目には、そのハルも大層可愛く映っている。

「そんな事無いよ。おいで、沢田 ツナ」
 おいでおいでと手招くお菓子の箱を持った美人のお兄さんに、ツナは激しく葛藤した。
 目先のおやつと、毎日の美味しいご飯との間で、彼女は揺れに揺れた。

 ここで雲雀さんのお膝に行ったとしたら、ザンザスはきっと怒る。
 そしてご飯作ってくれなくなる。
 それは非情に困る。
 リボーンやジョットのご飯も美味しいが、でもザンザスのが一番だ。
 果たして、ジョットもリボーンも、ツナの味方をしてくれるだろうか?

 この時点で、かなり雲雀のところへ行く側に思考が傾いていたのは、まあ押して知るべしな理由もあるだろう。本人の自覚といったら、相当怪しいが。


 睨みあう親戚のお兄さんと美人だが凶悪な風紀委員長様と、脳味噌がぷすぷすショートしちゃうんじゃないかという感じに悩むツナ―――状況を打開したのは、天然少女の声だった。
「お二人ともっ、ツナさんがベリーにお悩みですっ。お熱でちゃいますっ。こういう時、ハンドを放してさしあげるのが、本当のお母さんなのです!!」
「…大岡裁きか」
 テンパってのハルの微妙な発言に、ふむふむとジョットは納得している。
 何と無く対決ムードをかもし出しているのが馬鹿らしくなった男達だった。



「ところでザンにぃ何で居るの?」
 雲雀の隣に座って、道明寺桜餅をもきゅもきゅ食べるツナに、「ああ?」とほうじ茶飲んでいた親戚のお兄さんは応える。
「いきなりこの男が乗り込んできたんだよ」
「…保護者だからな」
「ふに?」
 ど天然少女は知らない。
 親戚のお兄さんが、『節度ある交際云々』を、自分を餌付けで誘き寄せる風紀委員長に確約させるためにきたのだとは。

絶賛日参中な携帯サイト雪月花の雨里様からキリリクでいただきました。「ヒバツナ♀吸血鬼パロの続き。ザンザスが雲雀を「ちょっといっぺんサシで話がしたい」とかで呼び出したりする話」というリクエストでした。ハルとツナのやり取りが素晴らしく楽しい・・・vv

← 戻る