トリックorトリート!

「…今度はハロウィンパーティー、ですか…」
 本日のお客様、リボーン先生のお言葉に、おっとりと蓮華は首を傾げた。
「ああ。ボンゴレ式ハロウィンパーティーだぞ」
 きゃるんと可愛らしく仰り、リボーン先生は出されたエスプレッソを口にする。
 芳醇な香りと風味を楽しまれる家庭教師兼超一流ヒットマンに、蓮華はやれやれと溜息を吐いた。
「…何でも、『ボンゴレ』をつければ良いものではありませんよ」
 まったくもう―――と、小さいものの形良くふっくらと優しい唇を尖らせ言う蓮華に、傍らにちんまりと座っていた凪はコクコクと追従の相槌を打つ。
 現在リボーン先生のお弟子である沢田さん家の綱吉君辺りは、『ボンゴレ式ってなんだよボンゴレ式って!!つか、どーせまたアレなやつなんだろ!?絶対ヤダよ!!』なんて言ってしまい、頭にぷっくり瘤たんを作られそうだが、勿論フェミニストの先生は霧の淑女達に同じ真似をする筈も無く、にやり微笑を返した。それが、逆に不穏だと認識されてしまうのが、この小さなダンディーであったが。
「…よもや、噂の雪上合戦やら、お正月のファミリー対抗なんとやらの様に危ないものなのではないのでしょうね?」
 蓮華が中々流されず確認をするのは、勿論子供らの為である。ハロウィンというイベントの性質上、確実に子供達は絡んでくる筈。故に危険があっては…と、自身がそうなることは無理だと思いながらも、いや、逆にそれもあって母性の強いのだろう蓮華は彼是と心配してしまうようだ。
 そんな彼女に、呆れと感心が入り混じる溜息を、リボーンは吐いた。
「大丈夫だ。今回はな、そういう題目で、慰労会みたいなもんを開こうと思ってるだけなんだ」
 ヴァリアーとのボンゴレリングを掛けた対決からそう間を置かず、十年後での修行と戦闘の連続―――ランボの退院祝い名目で竹寿司での祝勝会だの、ボンゴレアジトでのささやかなパーティーはあったものの、本当に色々あったのだ。今此処でまた皆でわいわいやっても罰は当たるまい。
 季節柄、題目がハロウィンになったのだと説明するリボーンに、ふむそれならばと蓮華は肯いて。
「どーせだからな。仮装パーティーにしようと思ってな」
 成る程成る程と肯く蓮華に、真っ先に彼女のところへとリボーンがやってきた理由が明かされた。
「実はな、衣装だの、ファミリー全員分用意してたら、予算オーバーしちまってな」
 パーティーには付きものの軽食に回す予算が少々きついらしい。勿論、彼がポケットマネーを出すのもありだし、素直に九代目にオーバーしたと言えば追加予算をぽんと出してくれるだろうが、どちらも業腹とのこと。
「ってな訳で、蓮華、スウィーツと軽食をちょっと作ってくんねーか」
 のたまう先生に、蓮華は思わず突っ込んだ。
「もう!計画性は何処に置き去りにしてきました?アルコバレーノ!」
 とは言いつつ、引き受けるのだが。

 良く考えたら、ちょっと填められたんではなかろうかと、後になってはたと気付いた。

ハロウィンといえば南瓜と林檎を使ったお菓子だろうと、蓮華は頭の中のレシピをひっぱりだしつつ、参考になりそうなものを探して電子の海も巡ってみる。
 引き受けたからには、出来るだけの事をするつもりだ。男性陣はこの際うっちゃって、子供達と甘いもの好きの揃った女の子達の為にも。
 パーティー用の大物だけでなく、子供達に配る為のお菓子も、勿論手作りだ。数はそう必要ないものの、参加する家族全員違うものを用意するつもり気満々でレシピを漁る蓮華に、ランチアなどはひっそりと苦笑したものだ。


 そんな訳で、パーティー会場には、プロの手というには素朴だが、大層美味しそうなお菓子が山と並べられた。
 いずれも南瓜を使って作られた、シフォンケーキにクリームチーズケーキ、ハニーパウンドケーキにタルトにプリン…
 艶々狐色で見るからに香ばしそうなアップルパイにタルトタタン、シナモンとバターのいい匂いを纏った焼き林檎も、バニラアイスを傍らに待機している。
 甘い物に限らず、食べ盛りの少年達の腹を満たしたり、酒の共にも良さそうな軽食もテーブルを賑わせており、流石蓮華姐さんと皆を感心させることひとしおである。


 そんな会場の傍らで―――
「…何で予算を大幅オーバーしたのか、よ〜っくっ解りました…!」
 自身の仮装衣装を纏った蓮華は、深々と溜息をついた。
「そーか?」
 ジャックオランタンのコスプレをしたリボーン先生は、ランプを振り振り小首を傾げた。

 くふり苦笑して、蓮華はたっぷり豊かな姫袖を揺らして、我が身を示す。
「この衣装一つ取っても、解ろうものです」
 全くもうと双色の双眸で睨めつけてくる美貌の少女に、ごもっともと綱吉は肯いた。因みに綱吉自身は水兵さんルックと、比較的大人しいものだ。黒いリボンをひらつかせるベレーがキャラメル色の髪に映えて、中々に良く似合っている。

 一方、呆れ混じりに溜息を吐く蓮華が纏うのは、時代がかったドレスだ。
 大時代的ドレスと一口に言っても、一般的日本人が先ずイメージしてしまうだろう、ベル○ラだので出てくるような、コルセットでギュッと腰を絞ってデコルテも強調した煌びやかな物ではない。
 振袖のようにたっぷりとした姫袖も優雅なガウンドレスだ。十字軍時代のというか、ジュリエット風のドレスと言えば、解りやすいだろうか。長いブルネットは少し緩めの三つ編にして垂らして、パールビーズで彩られたドレスと共布で出来た髪飾りを着けている。アクセサリーも揃いのピンク掛かったフェイクパールの耳飾に、おおぶりのクロスのペンダントと、派手派手しく無いが故に、逆に蓮華の艶やかな美貌を楚々と引き立てていた。

「ははっ、蓮華さんも凪も綺麗と可愛いなのなー」
 へらっと笑いながらさらっと言えてしまうのが、山本だ。相変わらずこの天然さは凄いと、綱吉は昔の軍服っぽい衣装を纏った友人に感心する。
 因みに、その傍らで何時も通りの眉間に皺を刻んだしかめっ面をした獄寺はサーコートに身を包み、蓮華の側ではにかむ凪は、アリス風というのか、エプロンドレス姿―――と、黒衣の家庭教師様は相変わらずやりたい放題であった。

 他にも会場内に目を配れば、ドラキュラらしくスーツにマント姿の雲雀や中国服に似ているけれどちょっと雰囲気の違う衣装を纏った笹川が黙々と食事をしていたり、妖精らしく背中に羽のついたドレスを着た京子と鼓笛隊の様な格好をしたハルがお菓子に舌鼓を打ったりしている。

 はっきり言おう。
 黒と見まごう藍色地に星抜き模様の尖がり帽子とケープが可愛い魔女コスプレのイーピンや、猫耳猫手袋に髭やらの軽くメイクもしている猫っ子姿のフゥ太、何時もの牛柄服の変わりに虎縞の服を着て、牛のではない角をつけた鬼っ子なんだか雷様なんだかの格好のランボと、本来主役となるはずの子供達もそう目立たない位、皆濃ゆいことになっていた。
 なんて混沌っぷりだろうと、綱吉は思わずには居られない。

 そんな彼の前で、ちょこまかとジャック・オ・ランタン風の入れ物をポシェットのように斜め掛けにした三人の沢田家居候の子供達は蓮華に駆け寄って行って、元気に声を揃えて言う。「トリック・オア・トリート!」と。
 キラキラ双眸を輝かせて見上げてくる子供達に、ふんわりと微笑む蓮華は、くふふと笑いながら「Happy Halloween!」と返しつつ、凪と持参のお菓子を各々にやっている。
 まったりと其れを見守っていれば、真打登場とばかりに中々に良いタイミングでやってくる兄弟子に、まったりとした綱吉は、さてと自分もイベントを楽しむ事にした。

絶賛日参中な携帯サイト雪月花の雨里様からキリリクでいただきました。「恋物語(『雪月花』で連載中D骸♀連載)設定でハロウィン」というリクエストでした。みんなの仮装を想像して顔がにやけます・・・!是非ディーノさんには嬢と対で・・・!(笑)。

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