バレンタインラプソディー
突如として自宅を訪れた主君に、獄寺はきょとんと目を瞠った。
「…獄寺君」
にっこりと彼は微笑んだ。
「獄寺君。お願いあるんだ。」
台所貸して?―――綱吉の『お願い』なら大抵の事をオッケーする様な獄寺である。
勿論、その程度の事二つ返事で肯いた。
「おっ、トースターあった!よっし!!」
荷を解きながら莞爾と笑む綱吉に、中身だの持参のレシピだのを見て咄嗟に謝る獄寺に、いやいやと綱吉は首を振った。
「最悪フライパンで出来るレシピも持って来てたから!」
男の一人暮らしなんて、最低限になるとレンジかガス台のどっちかだと本当に想定はしていたと言う彼に、流石十代目と獄寺は緑の双眸をキラキラさせる。
持参したソムリエエプロン姿も凛々しいと、獄寺にうっとりされるのをうっちゃって、綱吉はごそごそ作業を始めた。
愛人たるもの、旦那様の要望があったら、お料理の一つも出来なければならなんです!―――ハルに対抗して、花嫁修業(?)に余念のない沢田さん家の居候その六こと六道 骸ちゃん(推定10歳)は、今日もふりふりエプロン装備して奈々ママンの指導の下台所に立っていた。
「ママンママンっ」
幼い愛らしい声で縋るように言って、宝石みたいな双色の瞳で見上げてくる少女に、奈々は今日もなぁにと小首を傾げる。
ランボとガチの大喧嘩をしはするものの、(沢田家に来てからは)基本良い子で甘えっ子の骸もまた、他のどんどん増えていった居候同様奈々は可愛くて仕方が無い。
「本日も、ごしどーごべんたつのほど、よろしくおねがいしますっ」
ちょっぴり用法が間違い気味なことを生真面目に言って、骸ちゃんはぺこんと頭を下げた。
「つぅなぁよぉしぃくぅ〜ぅん」
帰宅するやぽよ〜んっと抱きついてきた骸ちゃんを、「どーどー」なんて言いながら綱吉君は抱きとめた。
「綱吉君おかえりなさいおかえりなさい〜〜〜〜っ」
「はいはいはい、ただいまー」
ぐりぐりぐりーと肩に顔を埋めて懐いてくる骸の頭を、綱吉はぽふぽふと撫でた。
骸ちゃんは甘いものが大好きだ。特にチョコレートに目が無い。
なので、骸ちゃんの甘いものセンサーは、ピコンピコーンと発動した。
「…綱吉君、良い匂いがします」
むむっと少し不審の顔になったのは、本日がバレンタインディ当日であったから。
今日が日曜日という事で、今年のバレンタインは一日繰り上がりとなるだの、あるいは本命だけに絞れるだのとワイドショーやらは言っていたが、まさかまさかで今日本命チョコを渡しに来た輩がいたかと、骸ちゃんの嫉妬モードがそぞろ目覚める。
「まさか三浦 ハルと会っていたのですか!?」
ぬぬっ、僕を差し置き綱吉君とまさかデェトでもしたとか言うのでは…っ!!―――暴走を始めかける骸ちゃんの迷走推理を、どーどーと綱吉は止めた。
「ちーがーいーまーすー」
ハルは昨日くれたし―――というのは懸命にも口にしなかったが。
「まーったく、晩御飯の後にでもって思ってたのに」
ちょっと困った様に苦笑する綱吉に、何かいけないことをしたのかと骸は不安に幼い美貌を歪ませる。けれど、直ぐにそれは可愛らしいびっくり顔に変わった。
「サプライズと思ってね。獄寺君家の台所借りて、作って来たの!」
あー、味はあんまり期待するなよ〜―――とも言いながら、綱吉は手にした紙袋を揺らす。
「っ綱吉君大好きです!!たとえ綱吉君が作ったのなら、泥饅頭でも食べましょうとも!!」
相変わらず空回り気味の覚悟を叫ぶ骸ちゃんに、「そこまで酷くないっつの!!」と笑いながら応える綱吉に、台所の奈々は、あらあら、うちの子達は今日も仲良しさんね〜…とほのぼのするのであった。
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雪月花
の雨里様からキリリクでいただきました。「アイレン(『雪月花』で連載中ツナムク♀連載)でバレンタイン」というリクエストでした。本当、季節イベント好きだな自分(笑)。とにかく可愛いけど!超可愛いけど!ぐっじょぶすぎます!
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