沢田さん家の三兄妹

「お姉ちゃん、朝ですよ、お姉ちゃん」
 ゆすゆすと優しく布団越しに揺さぶってくる愛らしい声に、ツナは「ん〜〜〜」と抗議めいた寝ぼけた声を返した。
 くすくすと笑って、ユニは何時もながらに寝起きの悪い姉に、更に声を掛ける。
「そろそろ起きないと、遅刻しちゃいますよ。雲雀さんに呼び出されてしまいますよ」
 何故だか自分に目をつけ…もとい、目を掛けて?いるらしい風紀委員長の名前を出されて、布団にぬくぬくと包まっていたツナはぎっくんとした。
 そんな布団虫状態の姉をニコニコと見下ろし、ユニは続ける。
「風紀委員会室で愛のお説教の後は、きっと何か理由をつけて、昼休み辺りは生徒会室に行かなきゃならなくなりますね。六道会長のことですから、きっと休み時間一杯拘束されるんでしょうね」
 このトドメの一言が出てくる辺り、沢田家三兄妹において、末娘ユニの実力者っぷりが窺えようもの。
「…おはよー、ユニ…」
「はい。おはようございます。お姉ちゃん」
 のそ〜っと起き上がった姉・ツナに、ユニはにっこり微笑んで朝の挨拶をした。

「うわあああんっ、天パーなんてっ大っキライだあああぁっ」
 週に三日は上がる上の妹の叫びに、朝食のオムレツを仕上げたガンマはくつっとニヒルな美貌に苦笑を刻む。
「おい、ツナ、ユニ!朝飯出来たぞ!!」
「はーいぃっ」
 でも頭ちゃんと括んないと、雲雀さんがああっ―――とツナは洗面所から叫び返してくる。
 ツナは生まれつき色合いも質感も玉蜀黍の髭、もしくは綿飴のようにふわふわぽわぽわとして収まりの悪い髪をしている。下手に短くしていても、寝癖で爆発してブローだなんだと朝の手間やらはもっとかかると検討した結果、ツナはロングヘアを結わくことにしていた。
 ところがどっこい、問題はツナがかなりのぶきっちょさんだと言うことだ。
 長くて量も多い猫っ毛の髪をささっと纏められる器用さは、残念ながら彼女には備わっていなかったのである。
「はいはい。髪は結ってあげますから、朝ごはんを先ず食べましょう、お姉ちゃん」
 言いながら、ユニはブラシと髪ゴムを手に半べその姉を引きずって来た。
「うーっ、お兄ちゃんおはよー」
「ああ」
 何時も通り少し苦笑めいた笑みを見せて、ガンマは出来立てのふわふわオムレツを妹達の席に置いた。
 さあいざ食べるがよい!―――とばかりに、栄養バランスなども考慮されている朝食が用意されたテーブルに二人は着く。
 しょうがねぇなぁとばかりに肩を竦めて、ガンマは櫛とヘアアクセを手に取った。
 そんな兄をユニはニコニコを見上げながらトーストにカシッと齧り付き、「うぅ…、ありがとー、おにーちゃんー…」と言うツナは、妹と同じように食べているはずなのに、何故かぽろぽろパンくずを零してと、あらゆる分野における要領の悪さをここでも見せる。
 でもまあ、馬鹿な子ほど可愛いという格言の通り、鈍な子は手間がかかるのに比例して可愛いのである。

「今日は飲み会で少し遅くなるが、晩飯はビーフシチューを仕込んでるから、温めて食うだけだからな」
 兄妹でもっとも手のかかるツナが中学に上がってからこっち、兄と妹に後は任せたと国外逃ぼ…もとい、海外赴任?を決め込み不在の両親に代わり、保護者を努めることに相成ったガンマは、実にまめまめしく年の離れた妹達の世話を焼いている。
 先祖返りで異国の血が濃く出た美貌は、見るからに色気のある伊達男風であるのに、ガンマの実態と言ったら妹達の世話を細々まめまめしく焼く世話焼き母ちゃ…もとい、兄ちゃんなのだ。
 お蔭で、彼の艶のある美貌に惹かれて寄って来る女性の大半は、一に妹二に妹、三四が家事で五も妹という家庭第一の主夫兼業の現実の彼に幻滅するようで長持ちしない。…やれタイムセールだ何だと、意外と所帯じみたキャラクターの所為だ、きっと。出来れば、お兄ちゃんのそんな見た目とのギャップがツボなんて受け入れてくれるおねえさんが現れると良いなーというのが、妹達の一致した意見だ。
「はい。ご飯は炊きますし、サラダもちゃんとお姉ちゃんと作りますから、ガンマお兄ちゃんもたまにはゆっくり遊んできてくださいね。」
 にこっと愛らしく微笑んでユニは言い、頭を作ってもらっているのに肯こうとして髪の毛が突っ張ったツナは、あいにくと兄には見えなかったがほんにゃり笑いながら、「ねー」と妹の言葉に乗る。
 妹達に言われた兄の方は、「なんだ?」と苦笑めいた表情を見せる。
「お前等そんなに俺に夜遊びさせたいのかよ」
 軽く嘆いて見せるのが、四割方は本音の兄に、年の離れた、互いは年子と双子のように育った仲睦まじい妹達は、くすくすとさざめく様に笑う。
「だって」
 ツナはほよんと悪気無く言う。
「たまには息抜きしないと、お兄ちゃん禿げちゃうよー?」
「ですよね」
「誰が禿げるか!」
 少なくともどっちの祖父も勿論親父も髪の毛に不自由はしていませんな遺伝子を信じたい兄の突っ込みに、妹達はからかいが成功してきゃっきゃと笑った。

絶賛日参中な携帯サイト雪月花の雨里様からキリリクでいただきました。「ツナ&ユニ大空姉妹パロetc」というリクエストでした(はしょった)。…なんだこのかわいい生き物はぁあああああ!(絶叫)。

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