バレンタインラプソディー

その近辺、ディーノはあれやこれやと思い悩んでいた。
 そして、それを見た瞬間、コレだと思ったのだ。一瞬で悩みが晴れるという経験を、そうして彼はする。
 ほくほく顔で見つけた甘い香りをさせる其れを購入したディーノを、ロマーリオはくつくつ笑いに肩を揺らしながら見守っていた。


 同じ頃、蓮華もまた途方に暮れていた。
 生ものを送りつけたりしたら、良くても毒物だのの検査で手間を彼是取らせることになるし、悪ければ彼の元へも届かないだろうと、予想するのは難しくない。
 そう考えて、蓮華は憂鬱に溜息を吐いた。
 無邪気になれない自分の、損な性質に。

 いっそ、キャバッローネに絶大なる影響力を未だ有するリボーンに掛け合って彼を日本へ呼び寄せて貰おうか―――なんてズルをしてしまいたい。

 無邪気にきっと彼に届けてもらえると信じる純真さもない蓮華は、さりとて…と諸々悩んで深々と溜息を吐く。
 一般的な女の子の様に、好きな人に何を贈るか…なんて可愛らしい悩みでなく、どうやったら確実に彼に届くかから考え悩む辺り、なんとも可愛い恋愛は出来ていないなぁと、蓮華の憂鬱は深まった。

そうこうしている間に、あっという間に時間なんて過ぎてしまう。
 当日になっても結局、何かしたい気持ちはあっても何をしたら良いのかとおたおたするばかりの蓮華の元に、ディーノからの贈り物が届いてしまったから、余計にだ。
 自分は未だに何も出来ずにじたばたしているというのに、素敵なプレゼントが届いてしまったら、基本的に後ろ向きで落ち込みやすい蓮華の肩はがっくりと落ちてしまう。本来彼女がいる位置に存在する、チョコレートが大好物であった筈の『六道 骸』少年なら相好を崩しそうな、美味しそう且つかなりリアルに薔薇の形を再現された可愛らしいチョコレートが詰められた箱の蓋を手に、蓮華はしょんぼりしていた。
 そんなところから浮上できずに、けれども義理堅く日本式のヴァレンタインに参加する彼女を見て、各々の嗜好なども考慮されたチョコレート菓子を配られた一人であるリボーン先生は、しょうがないなと溜息付いて、恋に関しては物慣れないにも程がある美少女にそっと知恵を授けてやった。
「…そんな事で良いのでしょうか?」
 肩にちょこんと乗っかってきたリボーン先生に、耳元で囁かれたろうたけた美貌の少女は不思議そうに瞬いた。
「なぁに言ってやがる、何よりのプレゼントになると思うぜ」
 にやりとのたまう黒衣のヒットマンに、そうでしょうかと不安気に小首を傾げる蓮華に、如何したんだろうと沢田家の一人息子は少々心配したが。
 数十分後、質問すれば先生に種を明かされて、なーんだと笑う事になった。
 そうして綱吉は、いそいそなんだか楽しそうに国際電話をかける先生を尻目に、自分は凪から貰ったチョコファッジを、安堵でより一層美味しく感じつつまぐまぐぱくついた。

「…あの、…ごきげんよう跳ね馬」
 はにかみ気味に言いながら微笑む、愛しい少女。
 彼女が何時も通り手馴れつつ優雅な所作で茶器を扱う仕草に、ぱちくりとディーノは瞬いた。
 やけににやつきながら、折角今日は暇なんだし、たまには早く休んで英気を養えなんて促してきたロマーリオに、何だろうと首を捻りつつも進めに従ってみたディーノは、こういう事かと夢の中で頭を掻いて溜息を付く。
 まぶしい程に真白いクロスをかけられたテーブルには、ちょっとしたお茶会という風に、菓子や軽食を乗せたプレートとティーセットがあって。
 へタレだなんだと言われても馬鹿ではないから、そんな彼是やら本日の日付を思い出せば、趣旨は見えてくる。ついでに蓮華との仲を大プッシュしてくれている、嘗ての守役現側近もグルだとかも。
「ディー、ノ!」
 照れ隠しに、いい加減名前で呼べってと少し強く言った彼に、少ししゅんとして美少女は「はい」と返してくる。可愛い。
 纏うのは彼女らしくないといえばそうだが、素晴らしく似合うのも確かなワインレッドにダークブラウンのリボンをあしらったドレス。細い首に手首に巻かれたリボンと、同じ色の編み上げリボンのデザインのパンプスが白い肌に映えて、可愛らしくも色っぽい装いだ。
 肌を晒す事と色香を強調するような事を出来るだけ避ける蓮華である。現世にあっての彼女なら、間違ってもおいそれしない装いだが、何故だかこの時の彼女は透き通らんばかりに白い眩いばかりの肌を露わにしていて。
 夢の中だというのに目のやり場に困るという経験に、ディーノは複雑な顔になる。
 これが本物の夢―――自分の妄想の産物だというのならどれほど楽かとちらり思った。
 しかし、何故だか分かったのだ。
 これは夢であって夢ではないものなのだと。
 目の前に居るのは、彼女自身であるのだと。
 彼女が夢を渡ることが出来るという事を知っていて良かったと、間違っても蓮華を傷つけたくないディーノは安堵を交えた溜息をついた。
 男なんて、馬鹿で単純な生き物なのだ。
 夢の中で、可愛いと愛しいと思う少女が愛らしく装って微笑み掛けてくれば、夢なのだしと流されて快い夢に流されたくなる事は多々ある。
 傷つけたくない、嫌われたくないからと、現実には間違ってもしないような事を、夢という仮想の中では想い人にしかねない、愚かさを持っているのだ。
「…すみません、矢張り、不愉快ですよね…」
 いきなり夢に押しかけるなんて…―――しゅんと細くて薄い肩を落とす蓮華は、全く分かっていない。過去、男に傷つけられ散々っぱらいやな目を見たというのに、いや、だからこそ一面では根本的なところで彼女は男を良く分かっていない所がある。
「だぁー…っ!」
 いきなり声を上げた、ディーノに、きょとんと蓮華は目を瞠って。
「怒ってるんでも、蓮華に会えたのが嫌なわけでもねーの!」
 少しむすっと言ったディーノの顔が、少し赤くて。その拗ねた様な顔に、蓮華は戸惑いつつ、なればと安心もする。
「…いきなりの嬉しい事態に、とまどってるんですヨ、蓮華サン…」
「そうなんですか、ディーノさん?」
 ちょっと茶化すように言って来るディーノに、蓮華はくふと笑いながら切り返す。
 抱きしめられて、拗ねた声で「そーなんデス」と返されて、くふくふ笑いは込み上げてきて止まらない。
 そうして二人で過す夢の中のお茶会は、何よりのサプライズであったのは押して知るべしであっただろう。

絶賛日参中な携帯サイト雪月花の雨里様からキリリクでいただきました。「恋物語(『雪月花』で連載中D骸♀連載)設定でバレンタイン」というリクエストでした。真剣に悩む骸嬢が超かわいい…!

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