戦うスクアーロ

その国の異名は『貴族の国』であった。
 優雅で優美にして華やか―――そんな国において尊き方々は陰謀剣術巡らせる。
 その刃であり盾であるのは、正式な表舞台の人間ではなく、護衛職と呼ばれる使用人達。
 彼らは表においては静かに優美に貴顕の方々に傅きながら、夜の闇という裏舞台では主の為に手を変え品を変えと戦う。

 ボンゴレ公爵家に連なる一門の要の一つ、サワダ子爵家の只一人の令嬢であるツナヨシの朝は、一杯の芳香漂わせる紅茶と共に始まる―――などと優雅なものではない。
「うおぉおおいっ!!この寝坊娘がぁ、ツナヨシィ起きやがれえええっ!!」
「ひいいいいいんっッ」
 今日も特別製の目覚まし宜しくツナヨシことツナの朝を教えるのは、機械仕掛けではなく生身の青年だ。
「す、すすすすくあーろ…」
 寝覚めに非常に宜しくない大声で起こされた琥珀色の髪の令嬢は、どっきんこする薄い胸を押さえつつ、義兄の学友にして幼馴染と言っても良いだろう間柄の青年の名を呼んだ。
「ナナ様がお待ちかねだぁ!さっさと起きて準備しろぉ!」
 元は孤児で奴隷身分―――ボンゴレがその身体能力を見込んで買い上げ、護衛使用人と仕込んで育て上げた当代最上の芸術品たる青年は、その美貌には無頓着に、ハスキーボイスを乱雑に紡ぐ。一応外交上優雅に振舞うべき場面は心得ていてきちんと振舞えるが、当主たるイエミツやその夫人たるナナが大らかな事や、彼が気取ることに生理的に気色悪いと拒絶反応を示すツナの義兄ザンザスの意向もあって、ツナの護衛長であるスクアーロは限りなく自由に自分らしく日々を謳歌している。
「う、うん…解った…」
 ツナの性格もあって、二人の間に身分の上下は殆ど無い。守る者と守られる者という線引きはあったが。
 使えるご令嬢の目覚めに則り、その身支度を整えるべく寝室に入ってきたメイド達とは逆に退室しようとした銀髪の幼馴染に、ツナヨシはあっと声を掛けた。
 なんだと振り向いた視界の先の少女は、ほんにゃりと母親に似た顔で笑った。
「お早う、スクアーロ」
 応えを返した青年のその後の足取りは、暫し軽かった。

絶賛日参中な携帯サイト雪月花の雨里様からキリリクでいただきました。「スクツナ執事と令嬢パロ」というリクエストでした。あぁもう顔がにやける…!

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